一体何人の物乞いが、わたしの前に現れるというのか。これでは、いくらお金があってもきりがない。わたしは、目の前に現れた母子を無視することに決め、ベンチに寝転んだまま、目を閉じることにした。しかし、母子が気になって眠れない。うっすら目を開けると、赤子を抱いた、女性は、まだわたしの前に立ち塞がっていた。よく見ると、彼女は、まだだいぶ若かった。年齢はまだ20歳くらいだろうか。肌はカサカサだが、端正な顔をし . . . 本文を読む
昨夜、ホテルのベランダに座り、ビールを飲んでいるときに不思議な飛光を見た。飛行機にしては速度が早く、流星にしては長い時間、光を放ち、飛んでいた。その光はワイキキビーチの上空を飛び、ダイヤモンドヘッド近くで消えた。少なくとも自分にはそう見えた。一体、今の空を行く物体は何だったのか。
池澤夏樹さんの小説に、「カイマナヒラの家」がある。カイマナヒラ、つまりダイヤモンドヘッドの麓にある古い家を舞台にした . . . 本文を読む
わたしの足元に立つ老婆は、じっとこっちの様子をうかがっていた。窪んだ目の奥は悲壮な光を湛え、わたしの目を覗きこんでいる。すると彼女は右手を出し、口に運ぶジェスチャーを繰り返した。以前も、同じようは光景に出くわしたことがあった。あれはニューデリーだったか。やはり、年老いた女性がわたしに懇願した。 . . . 本文を読む
地図を広げてみると、真っ先にウダイプルという地名が目に飛び込んできた。アジメールから南南西に位置する比較的大きな町である。地図上では近い距離に見えるが、縮尺を図ると、ざっと300kmはあるだろうか。ざっくり、東京から名古屋までの距離である。
ここに行ってみようか。
バスならば、5,6時間も走れば着いてしまうだろう。比較的短距離の移動を無意識のうちに選んでいるのは、また体調が悪くならないか、心の . . . 本文を読む
プシュカルから帰り、アジメールのバスターミナルに戻ったわたしはぐったりと疲れ果てていた。この国の人たちは、必ず何か厄介な揉め事を持ちかけてくる。中国も面倒くさい国だったが、インドは、それ以上にややこしかった。
いつもの食堂で、ターリーを食べ、その帰りに、例の屋台で瓶ビールを買おうとすると、いつもあるはずのビールが見当たらない。
「ビールは売り切れかい?」
ちょっと冗談めいて、わたしが店のあん . . . 本文を読む
彼はしたり顔で、こう言った。
「お祈りの中で、そう言ったじゃないか」。
わたしは、呆れてしまった。サンスクリット語でリピートしろと言いつつ、そんな罠を仕掛けていたとは。わたしは、笑いながら、「君の言葉を復唱しただけだ」と言うと、彼は、執拗に、「自分で言ったのは、確かだろ」と凄んでみせた。 . . . 本文を読む
バスが止まり、ぞろぞろと乗客が降りていく。どうやら終点のようだ。わたしも彼らの後に続いてバスを降りた。
プシュカルは涼しかった。日射しは強かったが、アジメールに比べると、かなり過ごしやすかった。プシュカルが高地にあるからだろうか。それとも湖畔の町だからか。
地図も何も持っていないため、人々の後をただついていった。プシュカルの家屋は白亜に塗られた壁が多く目に眩しい。たった10数kmしか離れていな . . . 本文を読む
アジメールに着いて2日目の昼下がり、わたしはGPO、つまり町の中央郵便局に向かった。友人に手紙を出そうと、エアログラムを買いに行ったのだ。エアログラムとは僅か数ルピーで購入できるエアメール専用の封書である。封書と便箋がひとつになっており、それを折り畳むことで、封筒状になる。あとは、ポストに投函すればいいだけだ。わたしは、このエアログラムを多用して、友人や両親にたくさん手紙を書いた。
普段、手紙な . . . 本文を読む