和井弘希の蘇生

桂信子先生に師事。昭和45年「草苑」同人参加。現在「里」同人「迅雷句会」参加

若芽10/小説「新・人間革命」

2013年10月31日 06時56分29秒 | 新・人間革命


      小説「新・人間革命」

【「聖教新聞」 2013年 (平成25年)10月31日(木)より転載】


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若芽10(10/31)

 黒板の前で思案顔で立っている西中忠義に、山本伸一は言った。

 「何をしていいか、困っているようだね。それでは、国語の授業をやってください」

 伸一が助け舟を出した。

 西中は、「はい」と言って頷くと、黒板にチョークを走らせた。

 「みらいのししや」

 彼は、「みらいのししゃ」(未来の使者)と書いたつもりであった。

 西中は、児童たちに語りかけた。

 「これは、あなたたちのことなんです。さあ、読める人は大きな声で読んでください」

 子どもたちは、頭をひねっている。

 その時、伸一が声をあげた。

 「西中先生! それでいいんですか?」

 「はあ?」

 西中は、けげんな顔で伸一を見た。

 「ここで間違っちゃいけません。『みらいのししや』と書いてありますよ。それでは、将来、『獅子屋』という名の店を継ぐことになってしまう。好意的にとらえても、関西弁で、『未来の師子や』と言っていることになる。やはり授業は、標準語でお願いしたい」

 教員たちの間から笑いが起こった。

 伸一は、笑みを浮かべて児童に言った。

 「皆さんは、大切な『未来の使者』であると、西中先生は言おうとされたんです。

 しかし、字を書く時には、こういう字を書いてはいけません。『ししゃ』と書くには、『や』の字は小さく書くんです。

 これは間違いであると教えるために、西中先生は書いてくださったんですよ」

 「えーっ」

 児童から声が漏れた。

 また、笑いが広がった。

 入学式前の東京創価小学校の教室には、まだ、なんの花も飾られてはいなかった。しかし、“最初の授業”には、ほのぼのとした微笑の花々が咲き薫った。

 教育は、緊張を強いることから始まるのではなく、緊張をほぐすことから始まるのだ。


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