小説「新・人間革命」
【「聖教新聞」 2013年 (平成25年)10月31日(木)より転載】
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若芽10(10/31)
黒板の前で思案顔で立っている西中忠義に、山本伸一は言った。
「何をしていいか、困っているようだね。それでは、国語の授業をやってください」
伸一が助け舟を出した。
西中は、「はい」と言って頷くと、黒板にチョークを走らせた。
「みらいのししや」
彼は、「みらいのししゃ」(未来の使者)と書いたつもりであった。
西中は、児童たちに語りかけた。
「これは、あなたたちのことなんです。さあ、読める人は大きな声で読んでください」
子どもたちは、頭をひねっている。
その時、伸一が声をあげた。
「西中先生! それでいいんですか?」
「はあ?」
西中は、けげんな顔で伸一を見た。
「ここで間違っちゃいけません。『みらいのししや』と書いてありますよ。それでは、将来、『獅子屋』という名の店を継ぐことになってしまう。好意的にとらえても、関西弁で、『未来の師子や』と言っていることになる。やはり授業は、標準語でお願いしたい」
教員たちの間から笑いが起こった。
伸一は、笑みを浮かべて児童に言った。
「皆さんは、大切な『未来の使者』であると、西中先生は言おうとされたんです。
しかし、字を書く時には、こういう字を書いてはいけません。『ししゃ』と書くには、『や』の字は小さく書くんです。
これは間違いであると教えるために、西中先生は書いてくださったんですよ」
「えーっ」
児童から声が漏れた。
また、笑いが広がった。
入学式前の東京創価小学校の教室には、まだ、なんの花も飾られてはいなかった。しかし、“最初の授業”には、ほのぼのとした微笑の花々が咲き薫った。
教育は、緊張を強いることから始まるのではなく、緊張をほぐすことから始まるのだ。
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