原告訴訟代理人 水谷弁護士の意見陳述書です。
意見陳述書
原告訴訟代理人 弁護士 水谷 賢
本件審理の開始にあたり,原告代理人らを代表して意見を述べます。
原告はこれまで17年間にわたり,岡山短大の教壇に立ち多くの卒業生を送り出し,また,多
くの研究実績を積み上げました。そして,このような実績が評価され准教授に任ぜられました。
しかし,近年になって視力低下がすすみ,2年前には学長から退職勧奨を受けました。原告は
これを断り,補佐員をつけて授業と研究を続けてきました。
ところが,本年になって,突然,4月からの担当授業が外され,追い打ちをかけるように,
研究室からの退去を求められています。授業中に飲食した学生に注意指導ができなかった等の
理由で,教員としての能力がないというのです。
授業中に飲食をする学生や,教室から無断退出する学生に注意・指導できないとか,手書き
の学生の答案を第三者に読んでもらったこと等を理由として,長い間,教壇に立ってきた原告
を教壇から降ろし,研究の拠点としてきた個室からの退去を命じることが,原告の人格をどれ
だけ傷つけることになっているのかを理解していただきたいのです。
岡山短大は視覚障害のある原告にできないことを要求しています。そして,できないから授
業の能力なしと決めつけています。誰がどう考えても,障害者差別であることは明らかであり
しかし,時代は大きく変わっています。本年4月から障害者差別解消法と改正障害者雇用促
進法が施行されました。法は,全ての人に対して,障害を理由とする差別を禁止し,雇用主に
は,障害のある者が仕事をするうえでの合理的配慮が求められることとなったからです。研究
室を取り上げ,授業をさせず,学科事務をさせることが合理的配慮なのでしょうか。
岡山短大のホームページには,本学の建学の三大理念の一つは「共存共栄」であると紹介さ
れています。このような理念のもとに,岡山短大では幼稚園教諭や保育士の養成において長い
歴史を有し,多くの卒業生を輩出してきました。
幼稚園や保育所には様々な障害を持つ子どもたちもいます。障害を持つ子どもも,障害を持
たない子どもも共生できる環境づくりが求められています。障害をもつ原告はこの共生社会の
実現を究対象としており,この実現が教育者としての使命であると述べました。
障害をもつ教員にその能力を発揮させるのではなく,障害のある教員を教育の現場から排除
することは建学の理念からしても大変残念なことであります。
以上のことから,障害のある教員から授業や研究室を取り上げることは障害者差別であり,
障害者に対する人格権侵害であり,障害者差別解消法に逆行するものであり,建学の理念にも
このため,岡山短大の学生や保護者は勿論のこと,全国の障害者はこの裁判の成り行きに大
裁判所におかれましても,障害者差別解消法施行後に審理されることとなるこの裁判の意義
を十分にくみ取り,かかる観点から審理を尽くしていただきたくお願いして陳述を終えます。