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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(107)

2016-12-04 08:51:45 | Weblog
 遺体に取り縋っていた者達が姫さんに気付いた。
慌てて脇に寄り、平伏しようとした。
ところが姫さんは、そんな彼等に優しい言葉をかけた。
「そのまま、そのまま、そのままで良いのです。
亡くなった者達に挨拶させて頂きます」
 身分の隔てなく一人ひとりの顔を拝んで回る。
亡くなった者に手を合わせ、悼む仕草には威があった。
いや、こういう場であるから余計に、そう感じるのかも知れない。
 かなりの時間が経った。
朝日も昇っていた。
辺りは新たに現れた者達で溢れようとしていた。
旗本御家人だけではない。
大名達までが家来を引き連れ、出動して来た。
 騒々しくなったが姫さんの耳には入らぬらしい。
最後の一人まで一切、手を抜かない。
姫さんの疲れを見て取った女武者の一人が、途中で切り上げさせようとしたのだが、
「これも務めです」として聞き入れなかった。
真面目と言えば真面目。
俺からすれば損な性格とも言えた。
 全て終えた姫さんが辺りの様子を見回して嘆息した。
「これだけの人数、今さら遅いわね」
 武家だけではない。
野次馬も数を増していた。
 俺は姫さんに歩み寄り、意見した。
「火盗改の頭も忙しくて、こちらまで手が回らないのだろう。
ここは姫さんの名で、規制したらどうだろう」
「規制・・・」
「街道に見張りを置いて、
立ち入りを許すのは怪我人の手当てが出来る者と、遺体を運べる者だけに限り、
他の者は身分に関係なく立ち帰らせる」
 姫さんは一も二もない。
「それなら混乱が回避できるわね」
「姫さんの名代として守り役の方々が見張りに立てば、誰も異を唱えられないでしょう」
 女武者七人が街道に立てば、それと傍目にも分かる。
あえて異を唱えても、女相手に力尽くで押し通ろうとはせぬだろう。
 七人の女武者は反発した。
私達に課せられた役目は姫様を守ることと主張した。
それを姫さんが説得した。
「今は人手が足りないのです」
 姫さんの傍に俺一人を残して、残り全員が移動を開始した。
彼女達が引き連れて来た足軽小者に加え、城方の足軽槍隊もだ。
これだけの人数が七人の背後に控えていれば、それ相応の圧力になる筈だ。
 姫さんが俺を振り返った。
余裕のある口振りで、「さあ、家来、露払いなさい」と言い付けたのだが、
疲れだけは隠せない。
目の下に隈。
しかし、それを指摘すれば怒りを買い、余計に疲れさすことになる。
おれは返事代わりに肩を竦めた。
 姫さんは怒る気力がないようだ。
「怪物の所に向かうわよ」先に向かおうとした。
 俺は露払いを務めた。
怪物・金太郎の遺骸は大橋の真ん中辺りにあった。
その周りには黒山の人集り。
火盗改の頭・福田直太郎や陰陽師の比良信安の顔も。
何かをしている分けではなさそう。
皆が皆、無為に一種の野次馬として化していた。
戦いが終わったのに、その後始末が出来ぬのは、
現場の指揮を執っている者が素人のせいだろう。
 俺は声を上げて伝えた。
「姫様のご到着です」
 俺にだけ聞こえるように姫さんが呟いた。
「姫さんから姫様になったのね。良い心がけですよ、家来の小一郎」
 効果は絶大。
人垣が二つに割れた。
場所が空けられた。
怪物の直ぐ傍に姫さんが歩み寄ると、お歴々が周りに来て挨拶した。
新顔もあるのだが、俺には誰が何者なのかは分からない。
分かろうとも思わない。
関わりのないこと。
この後も関わることはないだろう。
 俺は姫さんの威を借りて最前列に出た。
怪物の顔を改めて見た。
若い、二十歳前か。
分かってはいたが相棒の斧の小町に瓜二つ。
 さっきまでは何の興味もなかったのだが、不意に湧いて来た。
そこで姫さんの威を遠慮なく発揮した。
周りの者達に指示して怪物の衣服を剥がした。
遺骸は傷だらけ。
刀傷、矢傷、槍傷、鉄砲の弾傷。
直ぐに気付いた。
おかしい。
おかしいのだ。
・・・。
それは置いて、片膝ついて傷口を検めた。
一つひとつに指を差し込み、深さまでを測った。
両手が血に染まるが、気にしてはいられない。
腹側を検め終えると、怪物を無造作に転がし、背側を検めた。
 何時の間にか周りの声が消えていた。
みんなの視線が俺に突き刺さった。





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