現金なもの。
姫さんの目がきらきら輝いた。
二人だけであれば焦らしてやるのだが、他にも関係者が大勢いた。
彼等を無視する分けにも行かない。
みんなにも分かり易いように、姫さんに問う。
「姫様、よおく思い返して下さい。
双子の怪物の為に、名主屋敷の庭先に酒肴を用意しましたよね。
その狙い通りに双子が現れ、飲み食いしてくれました。
それをよおく思い浮かべて。
双子でも違いがあったでしょう」
あの場に居合わせたのは俺と姫さん、お猫様、女武者二人、お庭番二人。
姫さんは、「違い、・・・よね」頭を捻り、
思案の末、「もしかして、・・・あれ、・・・かな」上目遣い。
「姫様、はっきり言って下さい」
「お酒しか思い浮かばないわ。
金太郎はお酒を飲んだけど、斧の小町はお酒には手をつけなかった」
「それです。酒。
名主屋敷に毒がなかったので、代わりに、ありったけの薬を掻き集め、
掻き混ぜて酒に入れました。
何種類もの薬です。
それを混ぜると、それはもう薬と言うより毒。
それが金太郎には効いたのでしょう」
「そうか。それがジワジワ効いてきた。
皮膚が鎧の役目を果たしていても、口から入れた物は別と言うことなのね」
「そうです。
気力があるうちは皮膚が鎧の役目を果たしていても、
気力が萎えると、ただの皮膚に戻る。
金太郎は酒の毒が回って、気力が衰え、鎧を失った。
そう理解すると合点が行くでしょう。
だから、
酒を飲んでいない斧の小町には致命傷を与える事が出来なかったが、
酒を飲んだ金太郎には致命傷を与えられた」
俺は話しながら、懸念を覚えた。
そこで話し終えると、福田直太郎に視線を転じた。
「薬の一件も書類にして幕閣に提出するのですよね」
「当然、そうなる。
特に今回の一件は分からない事ばかりなので、全て網羅して提出する」
「そこで相談なんですが、その際、薬に関わったのは俺一人ということに。
俺一人の手柄にして貰えませんか」
福田の表情が微妙に変化した。
疑問と軽蔑の色が相半ば。
軽い溜め息で、「いいでしょう」応じた。
懸念を払拭するには念を押す必要があった。
変な噂が流れては困る。
もっとも、俺が困るのではない。
「薬を混ぜ合わせただけですが、現場を知らぬ者は毒を飼ったと陰口を叩くでしょう。
あの家は毒を飼う、とか何とか。
そうなれば武家としての奉公もままなりません。
俺以外の名は絶対に出さないで下さい」
途端に福田の表情が和らいだ。
流石は武より文に明るいと評判の男。
言外の意味を理解してくれたらしい。
フムフムとばかりに頷いて、「あい分かった」と了承。
俺が懸念したのは姫さんの評判だ。
薬を掻き混ぜたのは俺だが、その薬を掻き集めたのは姫さん。
それが知れ渡ると、とかく噂され、
仕舞いには、「あの姫様は毒を飼う」と尾鰭がつきかねない。
俺は姫さんを振り向きたかった。
言葉を交わさないまでも、彼女の表情を読みたかった。
理解してくれたかどうか知りたかった。
が、敢えて無視した。
ここで視線が合えば、どうなるものか、色々な意味で恐かった。
幸いにも助け船が来た。
比良信安が不快な表情丸出しで俺に問う。
「お主は斧の小町の今後の動向をどう見る」
事情を知らぬ彼にとって手柄話は不快らしい。
それでも斧の小町の動向は別のこと。
俺に見解を求めた。
俺は斧の小町の専門家ではないのだが、・・・。
その話しに乗る事にした。
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姫さんの目がきらきら輝いた。
二人だけであれば焦らしてやるのだが、他にも関係者が大勢いた。
彼等を無視する分けにも行かない。
みんなにも分かり易いように、姫さんに問う。
「姫様、よおく思い返して下さい。
双子の怪物の為に、名主屋敷の庭先に酒肴を用意しましたよね。
その狙い通りに双子が現れ、飲み食いしてくれました。
それをよおく思い浮かべて。
双子でも違いがあったでしょう」
あの場に居合わせたのは俺と姫さん、お猫様、女武者二人、お庭番二人。
姫さんは、「違い、・・・よね」頭を捻り、
思案の末、「もしかして、・・・あれ、・・・かな」上目遣い。
「姫様、はっきり言って下さい」
「お酒しか思い浮かばないわ。
金太郎はお酒を飲んだけど、斧の小町はお酒には手をつけなかった」
「それです。酒。
名主屋敷に毒がなかったので、代わりに、ありったけの薬を掻き集め、
掻き混ぜて酒に入れました。
何種類もの薬です。
それを混ぜると、それはもう薬と言うより毒。
それが金太郎には効いたのでしょう」
「そうか。それがジワジワ効いてきた。
皮膚が鎧の役目を果たしていても、口から入れた物は別と言うことなのね」
「そうです。
気力があるうちは皮膚が鎧の役目を果たしていても、
気力が萎えると、ただの皮膚に戻る。
金太郎は酒の毒が回って、気力が衰え、鎧を失った。
そう理解すると合点が行くでしょう。
だから、
酒を飲んでいない斧の小町には致命傷を与える事が出来なかったが、
酒を飲んだ金太郎には致命傷を与えられた」
俺は話しながら、懸念を覚えた。
そこで話し終えると、福田直太郎に視線を転じた。
「薬の一件も書類にして幕閣に提出するのですよね」
「当然、そうなる。
特に今回の一件は分からない事ばかりなので、全て網羅して提出する」
「そこで相談なんですが、その際、薬に関わったのは俺一人ということに。
俺一人の手柄にして貰えませんか」
福田の表情が微妙に変化した。
疑問と軽蔑の色が相半ば。
軽い溜め息で、「いいでしょう」応じた。
懸念を払拭するには念を押す必要があった。
変な噂が流れては困る。
もっとも、俺が困るのではない。
「薬を混ぜ合わせただけですが、現場を知らぬ者は毒を飼ったと陰口を叩くでしょう。
あの家は毒を飼う、とか何とか。
そうなれば武家としての奉公もままなりません。
俺以外の名は絶対に出さないで下さい」
途端に福田の表情が和らいだ。
流石は武より文に明るいと評判の男。
言外の意味を理解してくれたらしい。
フムフムとばかりに頷いて、「あい分かった」と了承。
俺が懸念したのは姫さんの評判だ。
薬を掻き混ぜたのは俺だが、その薬を掻き集めたのは姫さん。
それが知れ渡ると、とかく噂され、
仕舞いには、「あの姫様は毒を飼う」と尾鰭がつきかねない。
俺は姫さんを振り向きたかった。
言葉を交わさないまでも、彼女の表情を読みたかった。
理解してくれたかどうか知りたかった。
が、敢えて無視した。
ここで視線が合えば、どうなるものか、色々な意味で恐かった。
幸いにも助け船が来た。
比良信安が不快な表情丸出しで俺に問う。
「お主は斧の小町の今後の動向をどう見る」
事情を知らぬ彼にとって手柄話は不快らしい。
それでも斧の小町の動向は別のこと。
俺に見解を求めた。
俺は斧の小町の専門家ではないのだが、・・・。
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