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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(110)

2016-12-25 07:17:42 | Weblog
 俺は質問には質問で応じた。
「貴方は斧の小町の機敏な身体捌きを目の当たりにして、どう感じました」
 比良信安は顎に手を当て、遠くを見る表情をした。
「驚いた。陳腐な表現だが、人間離れして獣そのものだった」
 俺は周りを見回し、みんなに問う。
「皆様は武門の方々ですから、小さな頃より剣術の稽古を積まれましたよね。
そこで敢えて問います。
あの動きを真似できますか」
 誰も頷かない。
「剣術を修めておるが、あれは無理だ」一人が吐き捨てた。
「ところが何の素養もない百姓の娘が、猿のように飛び跳ね、熊の如き怪力をみせ、
皆様方を相手に一騎当千の働き。
まるで関羽か張飛。
・・・。
何時までも続けられると思いますか」
「当然だが直に疲れが出る。
関羽か張飛も討たれた」
「そう、疲れです。
疲れない分けがない。
斧の小町は獣のような身体捌きを続けることによって、
自分で自分の首を絞めている、と思うのです。
全身を酷使しているツケが今にきます。
骨が折れるか、あるいは筋が切れるか。
今の状態は長くは保たないでしょう」
 姫さんが口を開いた。
「それなら嬉しいが、信じて良いのか」
 俺は姫さんと視線を交わして深く頷き、再び比良信安に質問した。
「古文書によるとですが、
赤い満月の夜に現れた怪物の騒動は数日で終結していますよね」
「そうだ。
退治したとは一つも記されていないが、数日で終わっている。
それとともに、最期に姿を見られた近くでは、山の獣の死体が沢山見つかっている。
それからすると、お主の言を信じればだが、
骨が折れ、筋が切れたところを獣達に襲われ喰い殺された、と解釈も出来る」
「まあ、全てが喰い殺されたとは言いません。
でも怪物は数日で姿を消す。
赤い満月の影響は数日で終わる、そう考えています。
・・・。
そして、身体を壊すことなく生き延びた者が血筋を残す。
その血を受け継いだ者全てが、とは言いませんが、
ある程度の、ごく少数の子孫が赤い満月を見ると強い影響を受けて怪物になる。
そう考えると突然出現することも、数日で消えることも辻褄が合う。違うでしょうか」
 比良信安がフムフムとばかりに頷いた。
「否定出来ない」
 姫さんが問う。
「身体を壊すことなく生き延びた者と言うけど、怪物には違いないんでしょう。
どうやって村や町に住みつくの」
「山で暮らす者も大勢いるのです。
隠れ住む場所には事欠きません。
・・・。
もっとも、ここまで喋ったことは何一つ確証がありません。
そうなのではないか、と思ったことを口にしました」
 その時だった。
千住の宿側に強烈な殺気。
まるで一陣の風になったかのよう、こちらに跳んで来た。
途中の大勢を蹴散らして目の前に現れた。
斧の小町。
血走った目で獲物を捉えていた。
俺ではなく姫さんを捉えていた。
 奴は陽射しを苦手とし、日の出とともに姿を消す、とばかり思っていた。
それが裏切られた。
愕然としたが、同時に俺の足は自然に動いていた。
姫さんの前に立ちはだかって斧の小町を突進を受け止めた。
牛の突進を受け止めたかのような衝撃。
角がないのは幸いであった。
奴の剛力を僅かな後退だけで耐えた。
奴は斧を落としたのか、手放したのか、それは知らないが素手であった。
互いに両腕で組み合った。
 血飛沫が舞った。
奴の右肩の皮膚が裂けて骨が突き出た。
白い骨と赤い血。
 ようやく姫さんが悲鳴を上げ、周りの者達が立ち騒ぐ。
一人、二人と刀を抜いた。
一撃で仕留められれば良いが、逆に刀を奪われる事態になれば最悪。
姫さんが危うい。
 奴の荒い鼻息が俺にかかった。
心底からの恐怖が俺を襲う。
それでも俺は退かなかった、というか、退けない。
姫さんが背後にいる。
 奴が手に力をこめた。
俺を引き剥がし、姫さんを捕らえようとした。
俺は、みんなに怒鳴った。
「刀は抜くな。姫さんを傷付けたら拙い。
俺もろとも川に落とせ」奴が泳げないことを願った。
 俺は、ありたっけの力を振り絞って方向を転じた。
奴と踊っているかのような足捌きで、反転を繰り返しながら、欄干へ、欄干へと。
奴の消耗は明らかだった。
なにしろ、この俺と力が互角なのだ。
 俺の背が欄干にドンとぶつかった。
「未だ、足を掴んで川に落とせ」
 分かったのか、分かっていないのか、奴の手が俺の喉元に伸ばされた。
引き千切るかのように掴む。
 俺の両足が宙に浮いた。
奴も足が宙に浮くと、激しく足掻いて抵抗した。
喚きながら、ジタバタ。
それでも俺の喉元からは手を離さない。
俺も奴から手を離さない。 
 誰かが俺の耳元に怒鳴った。
「何としても泳いで生き残れ」
 答える間もなく欄干から落とされた。
頭から真っ逆さまに落ちて行くが、互いに掴んでいる手だけは離さない。




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