金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(大乱)241

2021-11-07 06:10:30 | Weblog
 国都で王宮より公表・告知がなされた。
「奉行所がスラムの浄化作戦を行った。
その際、不埒な輩を摘発、一網打尽にした。
取り調べた結果、中に驚くべき者達が存在した
関東の独立を企てる者達であった。
それは浪々の者達ではない。
歴とした主家、仕える先を持つ者達である。
 逮捕した者達の所属先を述べる。
東のスラムに太田伯爵の家臣従者、総勢四十六名。
西のスラムに北条伯爵の家臣従者、総勢二十八名。
南のスラムに千葉伯爵と小笠原伯爵の家臣従者、総勢三十五名。
そして北のスラムに上杉侯爵と熊谷伯爵の家臣従者、総勢五十七名。
以上、侯爵家一家、伯爵家五家。
彼等が関東独立の意図を持って一党を結成していた。
 逮捕された者達は当主達により、国都に送り込まれていた。
目的は国都の焼き討ちであった。
卑劣にも一党は、家臣従者をスラムに送り込み、
国都を焼き討ちする機を窺わせていた。
が、これは逮捕された者達の供述である。
よって、それぞれの当主に弁明の機会を与える。
 期間は三か月。
本日より三か月である。
それまでに納得のゆく説明がなされない場合、
逮捕した者達の供述を真実であると認定し、
一党に名を連ねた者達の討伐を行う」

 西の反乱を鎮めてもいないのに、この異常事態。
国都の大半を占める平民は不安に苛まれた。
同時に怒りにも駆られた。
自分達が一番目の犠牲者になる予定であったからだ。
しかし平民にはなす術がなかった。
無力感・・・。
王宮からの次の発表を待つしかなかった。

 関東との出入口にあたる美濃地方にも嫌な空気が流れた。
特に大樹海を持つ木曽はピリピリしていた。
中仙道を大軍が通過できないのは過去が証明していたが、
それで安堵するのは一部の者達のみ。
これが本格的な戦争になれば分からない。
なにしろ戦争を行うのは人間。
幾らでも愚かになれるのは、これも過去が証明していた。

 木曽一帯はダンタルニャン佐藤子爵が領有していた。
本来であれば子爵格数家で分け合う広さなのだが、
成り行きから佐藤子爵家一家に与えられた。
魔物の監視がし易いように領都は大樹海近くに置かれた。
高い外壁で囲われた市街はまだ空地は多いが、
それなりの住民が居住していた。
 その子爵家の領内に、とある一団が尾張地方から入って来た。
見るからにゴーレムと分かる五体を従えていた。
彼等は人目を避けるように獣道を選び、静々と進んでいた。

 一団はゴーレム五体と冒険者風の三十名で構成されていた。
先頭の五名が斥候役。
殿が五名。
間にゴーレムと二十名。
荷物はない。
何れもがマジックバッグ持ちで、必要な物はそれに収納していた。
 ゴーレムの近くにいた青年が口を開いた。
「サイラス、魔物や獣に遭遇しないと詰まらんな」
 後ろの男が応じた。
「土地のお代官様のお気遣いです。
魔物忌避の薬草や獣忌避の薬草が所々で焚かれています。
それに各所に冒険者達が立ち、警戒にあたっています。
これでは魔物や獣は一歩も近付けません」
「そうか、完璧過ぎて嫌になるな」
「レオン様、そう仰るのは如何なものかと」

 尾張地方の寄親・レオン織田伯爵と家来・サイラス羽柴男爵。
この二人も冒険者の恰好をしていた。
本来であれば身分的に同行すべきではないし、
予定もされていなかった。
ところがレオンは聞く耳を持たない。
当然のように部下達を率いた。

 斥候役五名が足を止めた。
一名がハンドサイン。
「前方、魔物、接近中」
 離れた箇所から口笛が鳴った。
陰で警護していた代官の手の者からの知らせだ。
「危険、危険」
 それを目にし、耳にしたレオンの顔が綻んだ。
「どんな手を凝らしても、抜けて来る魔物はいるな」
 サイラスが顔を顰めた。
「レオン様、喜んでいる場合ではありません。
ここで静かにお待ち下さい」
「それこそ詰まらんとは思わんか」
「家来の仕事を取り上げないで下さい」

 斥候役の一名が駆け戻って来た。
探知スキル持ちだ。
「ヒヒラカーンの群れがこちらに向かって来ています」
 猿の種から枝分かれした魔物だ。
上位種で知能があり、ブレスを吐く。
レオンが問う。
「我等に気付いたのか」
「足運びから、その可能性があります」
「頭数は」
「七頭です」
「斥候役全員をこちらに戻せ、殿もだ」

 三十名が円陣を組んだ。
それぞれがマジックバッグから大型の盾を取り出し、外周を固めた。
迫り来るヒヒラカーンの群れだけでなく、他の魔物にも備えた。
ゴーレム五体はその円陣の外に置かれた。
 ロックゴーレム、完全な人型で高さは3メートル。
サイラスがレオンの指導を受けて造り出した物だ。
頑丈さと動かし易さが売りの土木工事用ゴーレムだ。

 前方の鬱蒼とした藪陰からヒヒラカーンの群れが姿を現した。
一番大きい個体でも高さは2メートル余。
七頭がこちらを見て威嚇のブレスを吐いた。
火炎・ブレスフレイム。
軽いブレスで力を示した。
レオンが探知スキル持ちに問う。
「他に魔物は」
「おりません」
「代官の手の者達は」
「左右に集まり始めています。
我等を支援するつもりの様です」
 レオンはゴーレムを使役する管理者五名に命じた。
「我らだけで片付ける。
一気に蹴散らせ」

 円陣から連続する弓弦の音。
十名が矢を連射、それぞれが三連射。
これに合わせてゴーレム五体が駆けた。
だけではない。
槍持ち十名がゴーレムの助勢として続いた。
一体に二名が付き従う。

 想定外なのだろう。
ヒヒラカーンの群れが慌てた。
高いと言っても所詮は魔物の知能。
応ずる様に迎え出る個体もいれば、ブレスで応戦する個体も。
流石に逃げる個体はなし。

 ヒヒラカーンとゴーレム、筋肉の塊と岩の塊が全力で正面衝突。
嫌な音がした。
「グガワッシャーン」
 互角、どちらも一歩も退かない。
組み合う。

 一方、ブレスを受けたゴーレムは躱さない。
愚直に直進。
火炎の中に飛び込み、その一頭を強引に殴り倒した。


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