マリリン達の出で立ちに息を呑んだ観衆が、ざわめき始めた。
次第に大きくなって行く。
やがて大きな歓声に。
遊び心を理解したらしい。
その時にはマリリン達は遠ざかっていた。
二階から見下ろしていた劉麗華達は顔を見合わせた。
マリリン達の出で立ちを、あれこれ見立てたのは姫五人。
観衆に受けるかどうかより、五人の趣味で見立てたもの。
それでも少しは観衆を気にしていた。
それが受けた。
顔を見合わせて喜ぶ。
董卓将軍の隊列が途切れることなく進み、赤劉家の騎馬隊が現れた。
先頭に立つのは次期当主である劉芽衣の夫、韓秀。
直ぐ後ろには長男の韓寿と、次男の韓厳。
この三人は姫五人の見立てを拒否した。
「派手過ぎる。武人らしくない」と言い、愚直に鎧兜姿を選択した。
三人の後ろに従う赤劉家騎馬隊の面々もだ。
姫五人だけでなく、守り役の者達も溜め息をついた。
予期はしていたが、目の当たりにして、やはり感。
良く言えば、隊列と一体感がある。
悪く言えば、隊列に埋没している。
だけど誰も口を開かない。
相手が劉麗華の父であり、兄弟であったので、言葉にするのは遠慮していた。
事情が分からぬ華雪梅が言う。
「残念よね」子供らしい無邪気さ。
みんなは苦笑い。
この凱旋で内郭の門を潜れるのは将校以上の者に限られていた。
将軍と特に許された者は騎乗のまま。
他は徒歩で、武器は腰に下げた太刀のみ。
マリリン達は当然、当初の予定通り、
内郭の城壁に沿って左回りで南門より退出するつもりでいた。
それを董卓が呼び止めた。
「王宮を見てみないか」と誘う。
断る理由はない。
マリリンだけでなく、他の三人も同意した。
赤劉家の騎馬隊を待って馬を預け、内郭東門を潜った。
正面に建つ王宮に目を奪われた。
壮大であり、豪華絢爛。奥行きが窺い知れない。
いつもは城壁越しに見ていたが、こうして全容を間近にすると、別の感情が湧いてきた。
「まるで巨大な岩山。
よくぞここまで大量の石材を集めたもの。
人手だけでなく、莫大な費用も要しただろう」と関心した。
韓秀親子も門を潜ったのだが、堅苦しい親子なので苦手、敢えて別行動にした。
郭夷達の姿を見つけ、そちらに向かった。
王宮正面広場の石畳に続々と武人が集まって来ていた。
他の三門より入城した者も多いので、様々な軍装で、まとまりには欠けていた。
マリリン達は行き交う者に奇異の目で見られたが、一向に気にはならない。
少々奇抜ではあったが、ただの鎧兜姿より、こちらの方が気が利いていた。
遊び心を大いに刺激された。
途中、気になる噂を耳にした。
「袁術殿が亡くなった」というのだ。
合流して郭夷に、その真偽を問い質すと、
「それは俺も聞いた。
なんでも、鮮卑の焼き討ちを受けた際、酷い火傷を負い、
家臣どもによって屋敷に担ぎ込まれた。
それが昨夜、息を引き取った」と説明してくれた。
マリリンは唖然とした。
袁術が亡くなるとは。
三国志では主要な人物の一人。
不可欠の人が、「黄巾の乱」も始まらないのに亡くなってしまった。
袁術がもっとも輝いたのは帝位に就いた時であった。
長安を脱出した皇帝が行方不明になるや、「後漢の命運が尽きた」と判断し、
最大の敵である袁紹を出し抜く為に自ら帝位に就いた。
皇帝を自称し、仲王朝を建てた。
寿春を都とし、諸侯に官位爵位を贈り、戦火に倦いた者達の歓心を買おうとした。
ところが麾下にあった孫策が反乱を起こした。
「我は後漢の臣である」として袁術を謀殺し、その遺領遺臣全てを奪った。
魏、蜀、呉三国が相争う三国時代初頭に、
孫策の呉が領地を増やしたのは大きかった。
孫権の代になるや豊潤な領地を背景に、蜀と魏を滅ぼした。
ついで後漢の皇帝に禅譲を迫り、皇位に就き、呉国を建てた。
もっとも呉国は孫一族の内部分裂で短命に終わった。
分裂の間隙を突いて、孫策の軍師であった周瑜の子が反乱を起こし、
呉国を滅ぼして新たな国を建てたからだ。
唖然としているだけのマリリンに、脳内に居候しているヒイラギが声を掛けた。
「大丈夫か」
大丈夫な分けないでしょう。
呉国がないんだよ。
私達の歴史とは違うんだよ。
「そうか」
そうかじゃないでしょう。
短命とはいえ、アンタの好きな呉国の建国が出来ないんだよ。
アンタは三国志の勝者が呉国である事を喜んでいたじゃない。
忘れたの。
「こういう時こそ落ち着いて、ようく考えるべきなんだ」
どう考えれば良いの。
「たとえばパラレルワールドの可能性」
はあ、パラレルワールド、何それ。
「我々のいた世界と同時並行して進む別の世界。
時間軸は同じだが異なる歴史の世界、とも言う。
ここは、もしかしたら、我々がいた世界と同時進行で進む別世界の過去ではないのか。
それなら納得が行く。
ここでは魏が勝者になっのかも知れない。
あるいは蜀が勝者になったのかも知れない。
それとも別の誰か・・・、そう考えると心がワクワクする」
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やがて大きな歓声に。
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その時にはマリリン達は遠ざかっていた。
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それでも少しは観衆を気にしていた。
それが受けた。
顔を見合わせて喜ぶ。
董卓将軍の隊列が途切れることなく進み、赤劉家の騎馬隊が現れた。
先頭に立つのは次期当主である劉芽衣の夫、韓秀。
直ぐ後ろには長男の韓寿と、次男の韓厳。
この三人は姫五人の見立てを拒否した。
「派手過ぎる。武人らしくない」と言い、愚直に鎧兜姿を選択した。
三人の後ろに従う赤劉家騎馬隊の面々もだ。
姫五人だけでなく、守り役の者達も溜め息をついた。
予期はしていたが、目の当たりにして、やはり感。
良く言えば、隊列と一体感がある。
悪く言えば、隊列に埋没している。
だけど誰も口を開かない。
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みんなは苦笑い。
この凱旋で内郭の門を潜れるのは将校以上の者に限られていた。
将軍と特に許された者は騎乗のまま。
他は徒歩で、武器は腰に下げた太刀のみ。
マリリン達は当然、当初の予定通り、
内郭の城壁に沿って左回りで南門より退出するつもりでいた。
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「王宮を見てみないか」と誘う。
断る理由はない。
マリリンだけでなく、他の三人も同意した。
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正面に建つ王宮に目を奪われた。
壮大であり、豪華絢爛。奥行きが窺い知れない。
いつもは城壁越しに見ていたが、こうして全容を間近にすると、別の感情が湧いてきた。
「まるで巨大な岩山。
よくぞここまで大量の石材を集めたもの。
人手だけでなく、莫大な費用も要しただろう」と関心した。
韓秀親子も門を潜ったのだが、堅苦しい親子なので苦手、敢えて別行動にした。
郭夷達の姿を見つけ、そちらに向かった。
王宮正面広場の石畳に続々と武人が集まって来ていた。
他の三門より入城した者も多いので、様々な軍装で、まとまりには欠けていた。
マリリン達は行き交う者に奇異の目で見られたが、一向に気にはならない。
少々奇抜ではあったが、ただの鎧兜姿より、こちらの方が気が利いていた。
遊び心を大いに刺激された。
途中、気になる噂を耳にした。
「袁術殿が亡くなった」というのだ。
合流して郭夷に、その真偽を問い質すと、
「それは俺も聞いた。
なんでも、鮮卑の焼き討ちを受けた際、酷い火傷を負い、
家臣どもによって屋敷に担ぎ込まれた。
それが昨夜、息を引き取った」と説明してくれた。
マリリンは唖然とした。
袁術が亡くなるとは。
三国志では主要な人物の一人。
不可欠の人が、「黄巾の乱」も始まらないのに亡くなってしまった。
袁術がもっとも輝いたのは帝位に就いた時であった。
長安を脱出した皇帝が行方不明になるや、「後漢の命運が尽きた」と判断し、
最大の敵である袁紹を出し抜く為に自ら帝位に就いた。
皇帝を自称し、仲王朝を建てた。
寿春を都とし、諸侯に官位爵位を贈り、戦火に倦いた者達の歓心を買おうとした。
ところが麾下にあった孫策が反乱を起こした。
「我は後漢の臣である」として袁術を謀殺し、その遺領遺臣全てを奪った。
魏、蜀、呉三国が相争う三国時代初頭に、
孫策の呉が領地を増やしたのは大きかった。
孫権の代になるや豊潤な領地を背景に、蜀と魏を滅ぼした。
ついで後漢の皇帝に禅譲を迫り、皇位に就き、呉国を建てた。
もっとも呉国は孫一族の内部分裂で短命に終わった。
分裂の間隙を突いて、孫策の軍師であった周瑜の子が反乱を起こし、
呉国を滅ぼして新たな国を建てたからだ。
唖然としているだけのマリリンに、脳内に居候しているヒイラギが声を掛けた。
「大丈夫か」
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呉国がないんだよ。
私達の歴史とは違うんだよ。
「そうか」
そうかじゃないでしょう。
短命とはいえ、アンタの好きな呉国の建国が出来ないんだよ。
アンタは三国志の勝者が呉国である事を喜んでいたじゃない。
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「こういう時こそ落ち着いて、ようく考えるべきなんだ」
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はあ、パラレルワールド、何それ。
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時間軸は同じだが異なる歴史の世界、とも言う。
ここは、もしかしたら、我々がいた世界と同時進行で進む別世界の過去ではないのか。
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