金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)196

2010-01-10 08:21:02 | Weblog
 坂東と名付けた馬に乗っていた佐助は、二股の分かれ道で迷っていた。
昼日中であれば通行人に聞けばいいのだが、すでに日も暮れ、夜道であった。
人影一つなく、人家も見えない。
 後ろに相乗りの、ぴょん吉が心配げに尋ねた。
「迷ったか」
「ここまでは大丈夫だ。でも、この先が分からない。右か左か」
 川越から八王子に向かっていたが、地元でないだけに夜道は厳しい。
迷っていると、背後から密やかな足音が聞えてきた。
獣らしい気配。足音とは対照的に荒々しい殺気を放っていた。
 それが凄い速さで姿を現わした。
星明かりの下、黒い大きな犬が駆けて来た。
凶暴な面構えもだが、それ以上に背中に乗せている赤ん坊には驚かされた。
犬とは不釣り合いの笑顔ではないか。
佐助達に気付くと、ニコニコと笑いながら片手を上げた。挨拶らしい。
よく鞍のない背中から振り落とされないものだ。
 言葉の無い佐助だが、ぴょん吉は意外と冷静。
こういう遭遇には慣れているのだろう。
片手を上げて挨拶を返した。
 黒犬から放たれる殺気は佐助達には向けられていなかった。
黒犬は一瞥をくれただけで無視して通り過ぎた。
 その後を、少し遅れて老婆が追いかけて来た。
人とは思えぬ足運び。
彼女も、佐助と、ぴょん吉に一瞥をくれただけ。
不敵な薄笑いを見せて通り過ぎた。
 唖然としている佐助に、「よし、あれを追いかけよう」とぴょん吉。
「えっ、どうして」
「勘だが、あの者達は八王子に向かっているのかも知れん」
 佐助は、ぴょん吉の勘を信じる事にした。
黒犬が狐狸達の雄叫びに影響されている、と考えれば納得がいく。
 老婆を見失わぬように後を追う。
坂東が必死で駆けた。頼りは星明かりだけ。
 険しい山道に入るが、老婆は足を弛めない。
さらに前方の黒犬も同じだ。
坂東の鼻息が荒くなった。
 遠くから鉄砲の音が聞えてきた。
続け様に放たれていた。止みそうにない。
微かにだが、大勢の者達が争う声も混じっていた。
どの方向から届くのかは、山々に木霊していて判然としない。

 大花火が鶴翼の陣に到達すると同時に爆発した。
耳を劈く轟音と同時に、大花火の中の小石が四方八方に飛び散った。
天魔に操られる者達を襲い、身体に風穴を開け、手足を吹き飛ばした。
鬼並みの強い体躯であっても大花火の敵ではない。
凶暴な炎が燃え広がり、逃げ遅れた者達を容赦なく焼き尽くした。
立ち所に鶴翼の陣の胴体部分が壊滅した。

 激しい大爆発であったが、手の空いた狐狸達が気を練り合わせ、
「気の盾」で味方を防御していたので被害はない。
 ヤマトは新たな陣形を組ませた。
魚鱗の陣。突撃するための陣だ。
すでに敵の胴体部分は壊滅し、残っているのは両翼のみ。
それぞれ三百人余の敵兵を抱えていた。
 ヤマト達は大花火の勢いに乗り、敵の左翼を攻める。
勿論、黒猫が先頭をまっしぐらに駈けた。
 その後ろを赤狐と緑狸が、ピョンピョンと跳ねるように付いて行く。
巫山戯たように飛び跳ねるが、足は人よりも速い。
この走り方は二匹が上機嫌な証だ。

 慶次郎一行は大爆発で半数の馬を失ってしまった。
飛んで来た小石で傷付くか、怯えて逃走したのだ。
それでも幸いな事に、仲間は一人として失っていない。
敵を目前にして闘志を燃やす者ばかり。
徒の者達と離ればなれにならぬように隊列を組む。
 星明かりにヤマト達が見えた。
赤狐と緑狸がいるので見間違えようがない。
星明かりの下、二匹は存在を誇示するように駆けていた。
 そこで慶次郎達は、もう一つの軍勢を攻める事にした。
味方は四十にも足りないが気にも留めない。
鬨の声を上げて駆け出した。
 騎馬の者達は徒の者達の事も考えて馬足を弛めていた。
それが仇になった。
豪姫が先頭の慶次郎を追い越して行く。
敵しか目に入らぬらしい。
長巻き「鬼斬り」を片手に、颯爽と駆けてゆく。
血は争えない。「槍の又左」と呼ばれる前田利家の娘だけの事はある。
 慌てて宇喜多秀家と真田幸村が追走した。
二人は豪姫を押さえようと連続して馬に鞭をくれた。
馬を失い徒となった猿飛、宇喜多の忍者の面々は顔面蒼白。
役目を果たすべく両の足で必死に駆けた。
 慶次郎は、後ろの真田昌幸に叫んだ。
「昌幸殿、後はお任せいたす」
 徳川、北条軍を手玉に取った彼がいるので安心して任せられた。
鈴風の頬を撫で、「行くぞ」と囁いた。
意を汲み取った鈴風が大きく躍動した。
瞬く間に先を行く秀家と幸村を追い越し、豪姫に迫った。
 こちらに背中を向けていた敵勢が動いた。
一斉にこちらを振り返り、隊列を組み替えて三列の横隊となった。
そして槍を持ち直し、ジッと待ち構えた。
 豪姫は躊躇わない。
眦を決し、鬼切りを振りかざして突き進む。
 豪姫目がけて敵の槍が繰り出された。
そこへ慶次郎が強引に割り込んだ。
己の槍で敵の槍に当る。
まるで鬼を相手にしたような手応え。
辛うじて弾いた。
 勢いに任せて敵隊列に突っ込んだ。
正面の敵を鈴風が前足で蹴飛ばした。
 騎乗の慶次郎も負けてはいられない。
立ち塞がる敵の槍を籠手で弾き、己の槍で相手の胸元を突いた。
具足ごと深々と貫いた。
 手応え充分の筈が敵の動きは止まらない。
刺さった槍を無視し、己の槍を持ち直した。
 慶次郎は即座に理解した。
白拍子に聞いた「魔物ではないか」と。
手早く槍を捨てて太刀を抜いた。
そして寄せてきた敵の槍を払い除けた。
具足の隙間を見逃さない。腕を斬り落とし、返す刀で首を刎ねた。
これで、ようやく相手が倒れた。
 背後にチラリと目を遣る。
秀家と幸村が豪姫の左右に付いていた。
二人は押し寄せる敵に手こずり、防戦に必死であった。
 今さら相手が魔物の軍勢だからと引き返せない。
ここで背中を見せれば全滅は必至。
勢いのまま突破する以外に手はない。
 昌幸が味方を引き連れて雪崩れ込んで来た。
左右二手に分けた味方を交互に前進させた。
巧みな差配で敵陣を切り裂く。
そして豪姫等を味方の隊列に吸収した。
やはり頼りになる。
 その昌幸が慶次郎に目で何かを訴えてきた。
厳しい色をしていた。
どうやら彼も相手の正体に気付いたらしい。
 敵勢も無策ではない。僅かの間に隊列の穴を塞ぐ。
そして多勢の利を活かし、慶次郎達を押し包もうとした。
 慶次郎は先手を打った。正面の敵隊列に斬り込み、道を切り開いた。
昌幸が慶次郎の後に続いた。
二手に分けた味方を巧みに入れ替えながら前進させた。
 徒の吉岡藤次が先頭に飛び出し、縦横無尽に太刀を振るう。
鋭い切れ味。寄せる敵を具足ごと斬り捨てた。
 もう一手の先頭を買って出たのは同じく徒の新免無二斎。
太刀と脇差し、両刀を左右に構え、遅れそうになる味方を叱咤激励。
一方の刀で敵の槍を受け止め、もう一方の刀で相手の片腕を斬り捨て、
ついでのように首をも刎ねた。
 それでも味方は一人、また一人と槍で串刺しにされる。
数で勝る敵の単純な力押しに味方は劣勢に陥る。




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正月用に買った本をようやく読み終えました。
逢坂剛、志水辰夫、鳥羽亮、佐藤雅美の四冊。
暇がありすぎると、なかなか読み進めないようで・・・。
新年の初買いは、フリーマントル「片腕をなくした男」でした。
これもまだ読み終えてというか、開いてもいません。
このところ読書のペースが落ちています。
何とかしないと・・・。


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