高校公民Blog

高校の公民科(現代社会・政治経済・倫理)教育に関連したBlogです

田川建三――イエスとはだれか?

2016-06-12 19:35:41 | ブックレビュー

イエスに限らないが、「倫理」の教科書に出てくる人物たちは、ほぼ全員安楽な人生など送っていない。一生逃げ回っていたり、イエスのように処刑されたりと時の権力者から排除されたり、抑圧された人たちが多い。それは、時代にとってとてもヤバいことをいっていたからだ。それは、普通の人には口にすることさえできない、思いもつかない、それを言ったらヤバいという言葉だったのだ。しかし、それは、人が生きる上で、どうしても向かい合わなければいけないこと、人生の肝のような言説だったのだ。そういうことを私たちはイエスから取り出し、伝えることができているのだろうか。イエスはそういう意味で謎に満ちた存在であり、もっともスリリングな存在なはずだ。その緊張をまず私たちが感じ、そして、語ることができるのか、翻訳することができるのか。そこが問題なのだ。
  イエスをめぐる正統な文献ってどれなのか?この問いに答えるのは大変難しい。あくまで私が理解するうえで重要である、しかも、もう一度ないしは、きちんと理解しなければいけないという「一級」と私が考える文献をあげるとすると、そのうちの一つが田川建三(上,写真)の『イエスという男 第二版 増補改訂』だ。田川建三は我が国の一級の新約聖書研究者だ。この本は、その一級の研究者による集大成といっていいイエス像の提示だと思う。
 この本、ボリュームが大きいということもこの本の読破の大変さを形成するが、田川の以前の研究、学説の紹介と批判がなかなか量的にも質的にもきつい。初めて読む人はほどほどに読み進めて、田川が一体イエスをどのようにとらえていたかだけを見ればいいと思う。
 第1章のタイトルが「逆説的反抗者の生と死」だが、結構、このタイトル田川の主張を凝縮している。いったい、イエスは何に反抗しようとしたのか、イエスは、当時のローマやユダヤ教社会とどのように向かい合おうとしていたのかだ。理不尽な現実を前にして、それも抑圧される側としての人間が、巨大な理不尽を前にして、いったいどのような生き方を選択したのか、いやせざるを得なかったのか。ユダヤ社会は総体としてローマ帝国に服従を強いられる。その服従の在り方はいったいどういうものだったか。そして、ユダヤ教社会そのもののなかいある理不尽というものを片方でどのようにイエスはとらえていたのか、それをどのような形で対していこうとしていたのか。私はいじめという問題をずっと考えてきた。いじめには理不尽の限りが出現する。それを自殺という形でしか決着できない人間がいる。その人間に私たちはどのようなメッセージが可能なのか、イエスとルサンチマンという形で表現できるこの問題にどこまで田川が答えるか、見てみたいのだ。

■田川建三著『イエスという男 第二版 増補改訂』(作品社)

イエスという男 第二版 増補改訂

■マックス・ウェーバー著『古代ユダヤ教 (上) (岩波文庫)』上中下(岩波書店)

古代ユダヤ教 (上) (岩波文庫)古代ユダヤ教 (中) (岩波文庫)古代ユダヤ教 (下) (岩波文庫)

そういう意味で言えばもっともっとしんどい本がマックス・ウェーバーの『古代ユダヤ教』だ。私は、以前に一気に読み通したことがあるが、この数年夏休み限定で岩波文庫の第一分冊をほぼ読み終えた。今年はいっきに第1分冊の残りを読み終え、第二分冊にはいりたいと思っている。いよいよ佳境となり、ユダヤ社会がどのようにして歴史の理不尽を受け入れ、昇華していったかを探ることになる。

このほかの参考文献として以下のものを挙げる。いずれも私には大変刺激的だった。この夏、関連箇所を確認したいと思っている。
・吉本隆明『マチウ書試論・転向論 』(講談社文芸文庫)
・大澤真幸『の哲学 古代篇』(講談社)
・大澤真幸・橋爪大三郎『しぎなキリスト教 (講談社現代新書)』(講談社)
・大澤真幸・橋爪大三郎『やっぱりふしぎなキリスト教 (大澤真幸THINKING O)』(左右社)
・加藤隆『一神教の誕生-ユダヤ教からキリスト教へ (講談社現代新書)』(講談社)

マチウ書試論・転向論 (講談社文芸文庫)<世界史>の哲学 古代篇



↑ ↑ ↑ ↑    
よろしかったら、クリックをしてください。ブログランキングにポイントが加算されます

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 柄谷行人 Ⅰ 世界史の構造 | トップ | 井上達夫・東大教授(1)安... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ブックレビュー」カテゴリの最新記事