高校公民Blog

高校の公民科(現代社会・政治経済・倫理)教育に関連したBlogです

携帯電話の電源をお切りくださいますようお願い致します

2009-07-26 15:03:59 | 政治分野の授業

「Please=お願い」という規制

「優先座席付近では携帯電話の電源をお切りください。それ以外の場所ではマナーモードに設定のうえ、通話はご遠慮いただくようお願いします。 Please turn off your mobile phone near “Priority Seat”.」

これは電車のなかでの携帯電話の電源の切断のお願いの文章です。ここで注意をしなければいけないのは、
携帯電話の電源を切ることを要請するさいには、最後に

「ご遠慮いただくようお願いします」
「Please turn off 」

とお願いしなければいけないということです。
 私たちの社会はいちおう近代社会の原理で成り立っています。その近代社会の原理で最も重要なもののひとつが「法の支配」なのです。私たち市民は法の命令のみに従わなければならない。これが近代社会の原理なのです。
 さて、しかし、こと携帯電話についてはその電源を切ることを命じ、その命令に従わない場合には罰則を科するとする法は存在しません。法はその点については沈黙しているのです。つまり、私たちは何人からも携帯電話を切ることを強制され、罰則を科せられることはないというのが現状の正確な認識なのです。

「じゃあ、何か!授業中、携帯電話の電源を切らなくてもいいのか?」

法と道徳

 こう反論する方は失礼ですが「法」と「道徳」の区別がついていません。私が申し上げているのは、あくまで法的には制裁も強制もできないということです。それをすれば、した方が法律違反となるということです。しかし、授業中携帯電話の電源を切ることはマナーとしては求めてよいのです。マナーとして、道徳として、求めればいいということなのです。そこを区別しなければいけないということです。
 生徒が授業中こう報告していました。
「携帯電話を取り上げられた」
「携帯電話を返してもらえない」
 これは何にもとづいてなされているのか、ということです。少なくとも、いえることは、これは法律違反だということです。

 私は比較的劇場へと足を運びます。映画館であれ、寄席であれ、ホールであれ、かならず、くどいほど携帯電話の電源を切るよう客に要請します。人々はだれに命令されるでもなく、よほどの人でないかぎり、電源を切ります。その切る行為をさせるのは、「道徳の力」なのです。

「公演中、携帯電話が鳴ったらどうなりますか?」

この問いの先の答えである「迷惑」の二文字が携帯を切らせるのです。鳴れば、本当に迷惑!!!!なのです。あるいは、みなさんは都内で混雑した電車に乗り合わせて御覧なさい。だれもが、座席にきちんと座らざるを得なくなっているのです。その力が「道徳」の力の源泉なのです。

最後の問い

ここで、こう問わねばなりません。

「なぜ学校という社会では法と道徳の区別がつかず、法律違反の罰が公然と科されるのか?」
「なぜ学校には道徳が規制力をもたないのか?」

実は、この二つの問いに答えられないところに学校が陥っている病理があるのです。


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (すべりしらず)
2006-05-25 20:29:23
 はじめまして。同業者です。

 エントリの趣旨に、携帯電話の話題は残念ながらそぐわないですね。



 携帯電話は、現在は悪影響を与えないことが、ほぼ確実に証明されています。したがって、「道徳」「マナー」「迷惑」の名の下、他人に対して特定の行動を押し付けること(この場合は携帯を切れという強制)が正しいのか、という問題には適切です。



 ちなみに、携帯が悪影響を与えない可能性が高いということについては、『議論のウソ』という本が、すばらしい分析をしています。ぜひご一読を。それで、携帯を車内で使わないようにという、まちがった道徳観が少しでも社会から消えてくれると助かります。



 携帯を使うとき、いちいち周りの目を気にするのもウザいので。



 
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「お願い」のレベル (木村正司)
2006-05-27 15:15:25
上のコメントをふまえて、すべりしらずさんの議論がイマイチ木村にはわからないところがありますが、ちょっと書いてみます。

その理由が「ペースメーカーへの不調」だろうが、「会話がおとなりに迷惑」だろうが、「授業中それを使って授業に身が入らない」だろうが、通話をして、「隣の人の授業を受けることの妨げとなる」だろうが、その理由を私はここでは問題にしていません。それは議論の水準が違う。問題は、その理由の如何に関わらず、電源を切ることを求める、電源の切断を強制する、となったとき、それを外的な強制力でおこなうとしたら、それは、通常社会規範としてありうる「法と道徳」という二つの源泉にあてはめたとしたら、法的根拠ではあり得ない、ということをここでは書いているのです。となると、道徳という社会規範で規制することになる。しかし、通常、道徳には外的強制力はない、内面へとはたらきかけるだけなのだ、これが議論したい題材なのです。
返信する
Unknown (すべりしらず)
2006-05-27 18:35:40
どうも。

先のコメントについては、意図を理解したので、後のコメントについて。



>その理由の如何に関わらず



理由によって道徳による規制で済ませるべきなのか、法による強制力を持たせた規制をすべきなのかが決まってくると思うのですが、それはここでは置いておきます。



逆に伺いたいのですけれど、つまり道徳による規制にかんして、規制することの正当性は問題としないのですか?



少なくともエントリを読んでいる限り、授業中に携帯の使用を制限することの正当性は問題となっていませんよね。その制限が法によるものか、道徳によるものか、暴力によるものかはおいといて。で、その正当性に関する議論がないことには、私は何も言っていません。議論の余地がないかといわれれば確かにあるのでしょうが、まあ授業中の携帯使用の禁止は受け入れられる規制でしょう。



 他にも劇場について述べられていますが、これらだって規制の正当性をとやかく言う必要はないでしょう。ですから、私はこれらに対して話題にそぐわないとは言っていません。



しかし、電車内の携帯規制は違うんですよ。規制の正当性から議論しなければならない問題なんです。



だから、このエントリでは規制することの正当性はおいといて、その規制が法的な強制力を持たないことについて論じているのに、導入で利用されている(そしてタイトルにまでなっている)トピックが、正当性を議論する必要のあるものになってしまっているのです。



 確かに道徳によって規制をしているという一点のみは、電車での携帯規制と、授業中の携帯規制は同じです。しかし、だからといって同じテーマで議論できるものではありません。もしできるというなら、この議論で「道徳の力」を認め授業中の携帯使用の禁止が肯定されるなら、電車内での携帯使用の禁止も「道徳の力」によってできてしまうことになりますよね。でも、そうじゃないはずです。この二つは全く別種の問題なのですから。



したがって、話題にそぐわないというわけです。

返信する
どうして別種なのですか? (木村正司)
2006-05-27 20:01:53
すべりしらず様



「確かに道徳によって規制をしているという一点のみは、電車での携帯規制と、授業中の携帯規制は同じです。しかし、だからといって同じテーマで議論できるものではありません。もしできるというなら、この議論で「道徳の力」を認め授業中の携帯使用の禁止が肯定されるなら、電車内での携帯使用の禁止も「道徳の力」によってできてしまうことになりますよね。でも、そうじゃないはずです。この二つは全く別種の問題なのですから。」



とのことですが、私にはどうしてこの二つが全く別種なのかが自明ではありません。お書きになられているように「ペースメーカー」という問題がよくいわれますねえ。それ以外で電源OFFの理由をあげろ、といわれると結構こまるのですが、そういうことでしょうか?
返信する
Unknown (すべりしらず)
2006-05-27 21:54:59
失礼ですが、前の私のコメントをお読みくださいましたか?いかに違うかを説明し立つもりですが。もし分からないというのであれば、どこがどう分からないのか、教えてください。

それと、

>「ペースメーカー」という問題がよくいわれますねえ。それ以外で電源OFFの理由をあげろ、といわれると結構こまるのですが、そういうことでしょうか?

ここの部分の意味がわかりません。

それでは、あなたはどうして電車内で携帯の電源を切るというマナーがあるとお考えですか?

そしてそれは、授業中に携帯を鳴らすなというものと同じくらい正当性のあるものですか?

返信する
はじめに戻って (木村正司)
2006-05-28 09:50:24
すべりしらず様



理解力がなくてすみません。はじめに、すべりしらずさんが、このようにコメントしてますね。



「ちなみに、携帯が悪影響を与えない可能性が高いということについては、『議論のウソ』という本が、すばらしい分析をしています。ぜひご一読を。それで、携帯を車内で使わないようにという、まちがった道徳観が少しでも社会から消えてくれると助かります。」



そこで、私が逆にお尋ねしたかったのは、(というのは、じつは、この点について私は深く考えていなかったんですね、正直なところ。だから、「へぇここを疑うわけ」と思わされたんです!)

つまり、携帯の電車内での使用を控えるよう要請する道徳的要請が、アナウンスや掲示でなされているけれど、授業中のや劇場での要請と同程度さえ、いや、いっさいの正当性がないのですか?ということです。



「電源を切る」必要はないだろう、というのだったら私なりに理解し、わかるような気でいたのです。しかし、そうはいっても、携帯の車内での使用は縷々迷惑めいたものがある、と私は認識していたわけです。ほぼ、常識めいたレベルで。たとえば、会話がうるせえ、とか、例のペースメーカーに障害を来すとか。で、すべりしらずさんは、こういったものも自明の規制の理由を形成しないとおっしゃるのですか?というのが、お尋ねしたかったことなのですが。いかがでしょうか?



【注】いま、ちょっと思いつきましたが、うるせえ、というのは、何も携帯電話だけではないか。静かに携帯通話って可能ですか?もし、可能なら?ペースメーカーくらいですが。それはどうなってしまうのかなあ。わかりません。
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Unknown (すべりしらず)
2006-05-28 12:52:42
 そうなんですよ。やっと、ここにたどりつきましたね。



>つまり、携帯の電車内での使用を控えるよう要請する道徳的要請が、アナウンスや掲示でなされているけれど、授業中のや劇場での要請と同程度さえ、いや、いっさいの正当性がないのですか?ということです。



 私はないと思います。もしあなたがあると思うなら、教えて欲しいくらいです。私が正当性がないと思う理由は、『議論のウソ』に詳しいです。まあ本を読めというのも卑怯なので簡単に言うと、実験結果で携帯が人体に悪影響を与えないということは、ほぼ証明されています。また、通話が他人に迷惑というなら、電車内での会話を禁止すべきで、特に携帯に限る必然性はありません。



 ただ、ここで問題なのは、このように議論の余地が大いにあるということなのです。



 それは、おそらく規制することそのものに議論の余地はないと思われる「授業中の携帯規制」とは、わけが違うのです。



 このエントリの内容は、規制することの正当性がテーマではなく、必要な規制を道徳やマナーでするということはどういうことか、ですよね。それには、授業中の携帯規制は、話題にふさわしい(と現職教員の私も思います。)。しかし電車内での携帯規制は、議論の余地が大いにある以上、ふさわしくないということなのです。

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わかりました (木村正司)
2006-05-28 19:13:53
すべりしらず様

「議論の余地のある」ことは理解できました。おすすめの書籍も折を見て読ませていただきたいと思います。なお、このブログは多くの方にお読みいただきたいということで、上のコメントで私の物わかりの悪い箇所を編集させていただきました。おつきあいいただきましたのに、ご不快の思いをもたれるかもしれませんが、ご了解いただければと思います。本文は私の授業の筆記録のような性質の文章であります。今後、ふさわしくない部分を考慮して、どうするか、考えさせていただきます。おっしゃるとおり、自明性が疑われるが、しかし、現在、公共交通機関で規制を呼びかけている問題として処理させていただきたいと思います。ま、実践心理としてこのネタは目立つので扱う上ではインパクトがあるんです。とりあえず、貴重なご意見を賜りありがとうございました。

 なかなか同業の見も知らぬ(?)方からのコメントをいただく機会も少なく、ブログを拝見し、政治経済をご担当ととのことで、こちらからもお伺いしたいと思います。
返信する
追伸 (木村正司)
2006-05-28 20:02:23
実は、このページは、本題の入り口として書かれたものです。本題は、

「授業中の携帯電話の電源を切ることは道徳的に正しいのか」

というものです。社会契約思想を使いながら、正しくないのだ、というロジックを考えてみたいと思っております。ホッブズの論理を規制の論理として、もちろん、正しいのだ、という論陣を展開し、ロック、ルソーを携帯の規制に問題を投げる思想として整形できないかと考えています。あくまで、常識批判として。
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