さらばニッポンの変な法律(1)
2018.12.17(liverty web)
私たちの社会は、 さまざまな法律に基づいて動いている。
だが、中には時代に合わなくなったり、
何のためにつくられたのか分からず、
経済活動の足を引っ張っている法律も少なくない。
(2016年12月号記事を再掲)
さらばニッポンの
変な法律
ふざけてるの?真面目なの?
ナニコレ珍法律
有名な哲学者がこう言った。
「悪法もまた法なり」。
だが法律は、金科玉条のごとく、
変えてはならないものなのか。
なんて優しい警察官!?
子供が警察官の真似事でする敬礼。交番のお巡りさんに敬礼すると、お巡りさんも敬礼してくれる。なんて優しいんだ……と思いきや、実は「そうせよ」と決められているのである(警察礼式)。答礼はサービスではないというのは、子供に教えない方がいいかもしれない。
うどんと素麺の違いは〇〇
原材料が同じ、うどんと素麺。その違いは……? 実は、「うどんは直径1・7ミリ以上で、素麺は直径1・3ミリ未満」と定められている(乾めん類品質表示基準)。これに反すれば、回収などの行政処分が下る(食品表示法)。味よりも重要なのは、太さだった。
詳しくは本誌45ページへ
国会議員はみな法律違反!?
「それでよく総理が務まるなあ」「まず自分が子供を産まないとダメだぞ」。ニュースでは、国会でのヤジの応酬をしばしば目にする。だが、国会で下品なヤジを飛ばしたら、「国会法」に反する可能性があるのはあまり知られていない。日本で最も無秩序な場所は、国会かもしれない。
ビジネスホテルとラブホの違いは?
ビジネスホテルとラブホテルを区別するのは、煌びやかな外観……と思いきや、条例では、食堂の有無が、区別するポイントになっている(東京都旅館業法施行条例)。食堂があれば、ラブホテルとみなされず、風俗営業の対象外になるためだ。食堂の規定を満たせば、城のようなビジネスホテルや、旅館のようなラブホもあり得る。外見だけで判断してはいけない?
あ! お隣さんの郵便物が入ってる!
人はみな間違いを犯す。郵便配達員もそうだ。近所の家の配達物が自宅のポストに入っていて、届けてあげた経験は一度や二度はあるだろう。だが、郵便法によると、もし誤配達があった場合、郵便局にその旨を通知し、再配送してもらうのが正しいやり方だ。総務省は、「トラブルを避けるため」と説明する。
芸能人という職業は自称なのか?
「芸能人」という職業は、誰が決めているのだろう? 自分で名乗れば芸能人! と思いきや、芸能人の定義にも規制があった。所得税法施行令には、「芸能人は、映画若しくは演劇の俳優、音楽指揮者、漫才家」などと規定されている。芸能人の給料は、源泉徴収の対象であるためだ。芸能人かどうかが税法で決められているのは、夢がない気がしないでもない。
死亡届は人間だけじゃない
家族のように大切な存在である犬。しかし、いつか別れの時はやってくる。自宅の敷地に埋葬する人もいるだろう。だが、ご存じだろうか。犬が亡くなった後、30日以内に死亡届を役所に提出しなければ、罰則が科される(狂犬病予防法)。1957年以降、狂犬病の発生例はなく、猫にも感染するにもかかわらず、なぜか犬だけが対象だ。犬と猫との違いは、死亡届だった。そんな馬鹿な。
警察官には自衛隊並みの規制が……
海外の警察と比べると、日本の警察は容疑者逮捕に慎重な印象がある。その理由は、自衛隊並みにがんじがらめにされる規制があるためだ。「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる兇悪な罪」の疑いがなければ、武器の使用は、原則認められない(警察官職務執行法)。緊急時に、六法全書を確認している暇はない……。今後、警察官の発砲ニュースに触れたら、よほど危ない目に遭ったのだろうと想像してみよう。
規制をめぐる涙ものエピソード
増え続ける法律でみんな損してる!?
普段の生活では意識しないことだが、終戦直後100本ほどだった法律は、
現在では2000本近くまで増えている。
増え続けたルールは、時に「悪しき規制」となって私たちの前に立ちはだかる。
規制のパターン1
新しいチャレンジを邪魔
民間企業が新しいチャレンジをすると、それを邪魔するルールが生まれる。誰か困る人がいるのだろうか?
(1) 自分の土地なのに家が自由に建てられない?
北陸地方でIT企業を営むNさん夫妻は、夢だったホームオフィスを建てるため、土地を買おうとした。だが、「その土地に、新しい住宅は建てられません」と告げられる(都市計画法に基づいて指定される「市街化調整区域」のため)。とはいえ、すでに何軒かの住宅も建っており、納得がいかない。
今度は、隣町にある夫の両親の土地に建てようとしたが、「生活に密着した建物以外はダメ」という変なルール(都市計画法)に阻まれた。役所の解釈によれば、コンビニや美容院はOKで、会社のオフィスはNGらしい。
仕方なく、夫の実家の隣に建てようとしたが、またしても規制が立ちはだかる。その町の条例では、「家の敷地は60坪なければならない」と定められていた。実家の隣は、40坪の土地しか確保できない。結局、夫の実家をリフォームすることに。規制で疲れきった夫妻に追い討ちをかけるように、役所が告げた。
「ここは住宅地ですから、オフィスはダメですよ。会社の看板は出せません」
2人は、「自分の土地なのに、自由に家を建てられないなんて」とため息をつく。
(2) 今までにない高齢者向け住宅をつくったら……
地方都市で有料老人ホームなどを経営する女性社長は、介護制度のおかしさに疑問を抱く。
民間の介護系施設は法人税や固定資産税を払う必要があるが、社会福祉法人(注1)が運営する介護施設は税額が低く、多額の補助金が入る。価格設定の面で不利になるが、魅力的なサービスで利用者の支持を得てきた。
他にも理不尽なことはある。
「今は元気だが、急に倒れたら不安」という高齢者のため、介護士が見守る集合住宅をつくったところ、似たスタイルの施設が増えてきて、新たなルールがつくられてしまった。バリアフリー構造や、一定の広さの廊下などが求められるようになった。
一番痛かったのは、集合住宅に診療に来てくれる医師の報酬が、厚生労働省によって、突然4分の1に減らされたことだ。これでは医師は来てくれない。
税金を納めながら経営努力を重ねている民間企業を邪魔するなら、結局は国民が損をすることになる。
(注1)社会福祉事業を行う特別法人。
規制のパターン2
国民の仕事に口出し
必死に経営努力する民間企業に、役所が「アドバイス」をくれる。企業が倒産しても責任を取らないなら、自由にさせて!
(3) 「貸すな」の次は「貸せ」?
金融庁に翻弄される銀行
銀行をいじめる金融庁の様子を描いて話題を呼んだ、ドラマ「半沢直樹」。銀行の仕事に口を挟むのも、一種の規制と言える。
10年ほど前まで都市銀行に勤務し、3年間で9回の金融庁検査を経験した元銀行マンは、こう話す。
「融資先企業の将来性を説明しても、決算書上の数字だけで貸すべきでないと判断されたこともあります。こうした検査で多くの中小企業が倒産し、『金融庁倒産』などと呼ばれました。批判が出て、今は金融庁も基準を見直しています」
実際、現在の金融庁は貸し出しを増やすよう金融機関へ呼びかけている。今まで貸し出しを受けなかった中小企業の状況を自ら調べ、発展の可能性がある企業にお金を貸すよう、地方銀行に働きかける方針だという。だが、銀行にとって「余計なお世話」であることに変わりはない。
メガバンクに勤務する20代の銀行マンは、「方向性は理解できます。でも、貸したお金が戻ってこない場合、リスクを負うのは銀行ですよね……」とつぶやく。
(4) 政府の口出しで増える仕事
携帯電話業界にも規制の波は押し寄せている。
大手キャリアの携帯ショップで働く20代男性は、携帯電話業界の苦境をこう語る。
「政治家の方針を受けた総務省から『0円携帯は禁止』『もっと利用料を下げろ』と言われたりするので、その対応に追われています。減った利益を補うため、最近では、スマホとセットでコメや電気、ウォーターサーバーまで売っています」
もはや携帯ショップではない。
「おまけに、消費者を守るためということで、契約文書に関する決まりがいろいろ増えました。機種変更の手続きなら、以前は十数分で済んでいたのに、今では30分以上かかります」
政府は、月末金曜日は15時に帰る「プレミアムフライデー構想」や「残業ゼロ」を後押しするが、余計な仕事を増やす規制をなくすほうが先ではないか。
規制のパターン3
ゼロリスクが新たなリスクに
「消費者の安全」「環境保護」を名目にした規制は、商品の値上げや経営危機という新たなリスクを生みかねない。