米中首脳会談は「休戦」ではない 南シナ海問題や宗教弾圧の提起で"追加制裁"
2018.12.05(liverty web)
画像:Joseph Sohm / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- 米中首脳会談で合意した対中関税の引き上げの90日の猶予は「休戦」ではない
- トランプ政権は、南シナ海問題や人権問題で"追加制裁"している
- 米中交渉は対中強硬派がズラリ。中国はハードな交渉になるのは間違いない
アメリカが対中関税の引き上げを90日間猶予することで合意した米中首脳会談。
会談の成果について「休戦」「停戦」などと評する向きがあるが、関税は維持されているのだから、その表現は適切ではないだろう。中国メディア・人民日報系の「環球時報」は3日、「中米貿易戦争の停戦を宣言した!」と論評しており、「休戦」「停戦」という見方は、むしろ中国寄りとも言える。
追加関税を先送りした形となったが、このやり方は、トランプ米大統領のディール(取引)外交としては通例の対応だ。
例えば、アメリカは11月にイランへの経済制裁を再開し、イランと取引した第3国も制裁対象にしている。その例外措置として、日本など8カ国の原油輸入は、180日間に限って認められ、各国は来年4月までに対応を迫られている。
トランプ氏は、相手に考える時間を与えた後、交渉が決裂したら行動に出るというやり方を取る。
そして猶予を与えることは、中国だけでなく、中国と取引する各国や企業に対するものでもある。対中依存度が高い国は、外交や安全保障政策を再考でき、企業も脱中国を目指してサプライチェーンを組み替える時間ができる。いずれも手間と時間がかかるため、何ら対応策を講じない状態で関税を引き上げれば、外交や経済に悪影響が出かねない。
南シナ海問題や宗教弾圧問題で"追加制裁"
米中貿易戦争の争点は、関税という数値的な側面から、知的財産権や技術移転などの構造的な側面へとシフトし、さらには、南シナ海問題や中国国内の宗教弾圧、人権問題にまで広がっている。
トランプ政権による南シナ海問題などの問題提起は、中国に対して追加制裁をかけたようなものであり、中国共産党体制の弱体化に直結する。中国は、貿易問題である程度妥協できても、そうした問題で屈することは到底できず、切羽詰まった状態にあると言えよう。
米中交渉は対中強硬派がズラリ
今後行われる米中通商協議については、対中強硬派のロバート・ライトハイザー米通商代表部代表が責任者となる。これまでの窓口は、米中合意の必要性を主張していたスティーブン・ムニューシン財務長官だったため、中国としてはハードな交渉相手になると見られる。
ライトハイザー氏は、トランプ政権の最優先事項だったカナダ、メキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉をまとめたばかり。その直後に、対中交渉の責任者に任命されたことからも、米中貿易のプライオリティが高いことが分かる。
米中首脳会談に参加した面々も、ジョン・ボルトン大統領補佐官(安全保障担当)、ピーター・ナバロ大統領補佐官(通商担当)やラリー・クドロー国家経済会議委員長など、対中強硬派がズラリ。中国への圧力を高めることはあっても、下げることはないだろう。
こうしてみると、米中首脳会談は休戦とは程遠い内容だったと推定できる。今後も米中対決の時代は続き、日本は、中国の「一帯一路」に協力するのではなく、アメリカと連携して対中包囲網の強化を進めるべきだ。
(山本慧)
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