天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

黄土眠兎句集『御意』を読む

2018-01-20 08:35:38 | 俳句

邑書林刊、定価2500円プラス税


黄土眠兎(きづち・みんと)とはインターネットの「シベリウス句会」で長く句座を共にしてきた。彼女が会全体の運営を、ぼくが人材の発掘・供給などをしてクルマの両輪のようにこの句会を維持、発展させてきた。いわば盟友の句集上梓であり、めでたい。
黄土は島田牙城氏の邑書林で編集の仕事をしている関係で、句集上梓にあたりオフセット全盛時代に活版印刷を使い、正字を駆使するなど凝っている。
正字はパソコンでは出せないがお許しをいただくとして、目についた句をいくつか紹介する。

御降や青竹に汲む京の酒
元日に降る雨または雪が季語「御降」であるがこの場合、雪を想像したい。雪だと青竹に汲んだ酒がよりうまそう。しっとりした風情で豪勢でもある。

まだ熱き灰の上にも雪降れり
「まだ熱き灰」は、平成7年、1月17日に発生した阪神・淡路大震災で炎上した灰のことであろう。作者の住所は尼崎市ゆえなんらかの影響を被ったにちがいない。さすがにそこに住む人の臨場感が一句を貫いている。

飛火野の鹿のぬた場の暑さかな
「飛火野」は奈良公園・春日大社の境内にあり、多数の鹿のよりどころ。「鹿寄せ」が行われる伝統的な場所である。こういうふうに地名の効いた句をみるたび、関東者と違い近畿の俳人は歴史に恵まれていると脱帽せざるを得ない。飛火野から下五の暑さへ畳みかけて行く勢いが句を立たせている。



船頭の乗りて傾く花見かな
すわ、保津川下りを想像するがそこだとすれば乗ってすぐの場面。舟が走り出したら花見どころではないだろう。むろんどこの川でもよく、花見の句として「乗りて傾く」は味わいがある。

炎天のしぼり切つたる絵の具かな
炎天の暑さと絵の具のひんやりした感じがマッチするエネルギッシュな句である。色は赤、橙といった暖色を想像させるようにできている。

蜘蛛の囲にかかつてばかりゐる人よ
こういう人が確かにいる。いつも損ばかりするような人。道を歩いて行く場合、先頭の人が露払いならぬ蜘蛛の巣払いをするのだが、後からついて行く人でなぜか蜘蛛の巣の犠牲になる人がいておかしい。ちょっとした揶揄と同情が味わい。

緑陰や座布団ひとつ惚けたる
長くそこに座っていた人が立って行った後の座布団とみる。ぺしゃんこになった感じを擬人化しておもしろくなった。

三伏や橋を渡れば佛壇屋
暑いときである。橋から見下ろす水面がぎらぎらしている。ふうふういいいながら渡ったところに仏具店があるという因縁。たぶん作者は三途の川を渡ったという幻想を持ったのではないか。けれど現実は佛壇屋。細い糸で生と死がつながる俳諧味満点の句である。

光とどかぬごきぶりでありにけり
たしかにあいつは暗がりを素早く動きまわる。おっしゃる通りである。俳句はたまにおっしゃる通りということがおもしろく感じる詩形である。

紅葉かつ散る休講の掲示板
外は紅葉がきれいだが教室は人がおらず静か。外と内のコントラストが映える。

たつぷりと落葉踏みたる影法師
落葉に投影した自分の影に深く感じ入っている。「たつぷりと」は「踏みたる」にかかるが、落葉の厚みも表現している錯覚に陥る。秋の深さをとくと感じさせてくれる。

あつぱれや古道具屋の熊の皮
傷のない立派な熊の皮なのだろう。売り物か店主の座るものかは知らぬが、「あつぱれや」が効いている。



アマリリス御意とメールを返しおく
テレビドラマ「ドクターX」で病院長が黒といえば黒、白といえば白と従う側近を彷彿とした「御意」。英語でいうyesだが、それより含みがあっておもしろいし句集の題名としたのもユニーク。季語がアマリリスであるからドクターXの側近の御意と異なり、本心からのものだろう。
人生を肯定していると解釈するのは深読みが過ぎるだろうが。
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