天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

中山千里『魔女は甦る』

2024-10-07 05:03:50 | 

2011年5月10日発刊/幻冬舎

第8回『このミステリーがすごい!』大賞において『さよならドビュッシー』で大賞を受賞しデビューした著者が、その2年前の第6回の同コンテストに応募し最終選考に残った作品である。この時は落選という結果に終わったが、高い評価を受け、コンテストから4年後に幻冬舎より出版されることとなった作品。
【あらすじ】
埼玉県所沢市神島町。国道沿いの集落から1キロほど離れた沼地で、肉片と骨がバラバラに飛び散った見るも無残な死体が発見された。被害者は近くにある製薬会社・スタンバーグ社勤務の桐生隆。埼玉県警捜査一課の刑事・槙畑啓介らは捜査していくなかで、隠されたスタンバーグ社の内情や桐生隆の素顔、彼が開発に関わったと思われる麻薬・ヒートの恐ろしさを知ることになる。
【主要人物】
槙畑 啓介(まきはた けいすけ)
埼玉県警捜査一課の刑事で警部補。知力・体力申し分なし、生真面目で清廉潔白、温厚だが犯罪には厳しく刑事向きの男だが、遺族の感情に同調してしまいやすいのが欠点。
桐生 隆(きりゅう たかし)
30歳。薬科大出身。生ゴミ専門の集積場となっている沼地でバラバラ死体となって発見される。持ち物からするとモノに無頓着であったらしいが、仕事に対しては専門書を買い漁り、熱心に勉強していた形跡がある。所沢市師脇町在住、スタンバーグ製薬研究所勤務。几帳面な性格。子供のころに台風で家族を一気に亡くし、天涯孤独の身だった。
毬村 美里(まりむら みさと)
薬科大3年生。肩まで伸びた髪を無造作にまとめている。桐生とは大学の先輩・後輩の関係で、恋愛関係にあった。キャバクラでアルバイトをしている。

340ページの作品。最後の100ページを30分で読んでしまった。
先を先をと急かす密度の濃さ。これが大賞受賞2年前の落選作かと驚く質の高さ。刑事・槙畑と殺された桐生の恋人・美里を魔物が襲いかかる。ネタバレになるので魔物と書くしかないが魔物はリアルな見えるものである。
二人は体中に傷を受けながら戦う。もうだめかと思うことが再三で、これは絵空事と思いながらも「二人は生きて脱出して欲しい」とハッピーエンドを望む自分がいた。二人は生還するのだが一人は重傷、一人は意識不明。
甘い決着をしなかった作者の作家としての力量を仰ぎ見る思いである。

中山千里の作品をまず『特殊清掃人』で知った。死体から流れ出る体液が畳やフロアを沁みて土台まで至るという描写が凄くそのリアリティにうなったのがこの作家にのめりこむきっかけとなった。
以後、『ヒポクラテスの誓い』シリーズを読んだ。光崎教授らの人物造形が冴え、笑えて楽しみつつ真相に至り豊かであった。
第8回『このミステリーがすごい!』大賞の『さよならドビュッシー』は未読だが同じ系列の音楽もの『おやすみラフマニノフ』『いつまでもショパン』は読んだ。特にショパンにおいて「ポーランドならではの抒情」という深さには驚いた。
『作家刑事毒島』『毒島刑事最後の事件』など、検挙率抜群の毒島は署内でほかの刑事と折り合いが悪く、一人で活動できる作家になって二足の草鞋を履いて活躍するという破天荒な発想。毒島のひととなりが痛快である。
中山の書くジャンルはミステリーだが扱う素材の幅の広さに驚く。本人はいろいろ手がけないいと一つの素材が売れなくなったとき飯が食えないとおっしゃる。これだけの素材の多さをこなせるのは才能である。
また何か読んでみたいと思う作家である。


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