天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

鷹6月号小川軽舟を読む

2023-05-27 13:48:21 | 俳句



小川軽舟鷹主宰が鷹6月号に「思ふほど」と題して発表した12句。こについて天地わたると山野月読が意見交換する。天地が●、山野が○。

傘差せとしつこき雨や沈丁花
●雨が「傘差せと」作者にいうのですね。こんな擬人化、はじめて見ました。
○止みそうでなかなか止まない、そうした状況が雨との我慢比べ的な擬人化になったように思えました。作者は傘を持ってはいそうだし、誰しもが経験のありそうなことなのに、句材として新鮮でした。「沈丁花」からは住宅街の気配。 
●ちょっと妙だなあと感じたのは、作者はいま濡れているように見えます。パリジェンヌは濡れても傘を差さない美学があると聞いたことがありますが、そこまで我慢しますか。
○目的にまで大した距離ではないのでしょう。かつ、濡れて行ってもよい所、例えば自宅とかでしょうね。

蕗の薹勢(きほ)ひが水を水らしく
○  この「勢(きほ)ひ」は意味的には字のとおりの勢(いきお)いですよね。これも私にはとても新鮮な視点でした。「勢(きほ)ひ」こそが「水」の本分的な思いなのでしょう。「蕗の薹」という小さきものが、この「水」の本分にリアリティを与えているようです。 
●そうですね。湯舟の中にあるより川を流れているほうが水は水の本領を発揮している、という感覚です。水の本質に迫ろうとする意欲が嬉しいです。

春星や空ひたひたと満ちわたり
●「ひたひたと満ちわたり」は空を湖か海のような把握です。
○そうですね。湖面に映る星があったとしたら、こうした発想のきっかけになったかもとも思いますが、さすがに星は映らないかなぁ。それは別にしても、春の夜空を液体的にとらえる感覚は凄く共感できます。

優駿とならん仔馬に山の星
●競走馬を生産する牧場です。北海道を思いました。
○日高地方ですかね。昔のアニメ「巨人の星」的とも言えそうですが、世話をする者の温かい眼差しと期待を感じさせます。 
●無駄のない言葉の運び、最後に「山の星」が効いています。

春陰の店静かなる船場汁
●船場汁(せんばじる)、知りませんでした。大阪の船場で生まれた料理で、塩鯖などの魚類と大根などの野菜類を煮込んで作る具沢山の汁、とのことです。
○私も知らず、調べると元々は船場の問屋街の賄い的な料理のようですから、気取らない料理なのでしょう。そうすると、句中の「店」は商家なのか、料理店なのか。「静かなる」がその直前の「店」を形容しているとすると、客の途切れたちょっとした時間に食べる「船場汁」と読みたくなります。 
●「春陰」は使いにくい季語で「店静かなる」だと平凡だと思うのですが最後に逆転の「船場汁」です。憎らしいほど巧いです。

ほぐす身に湯気ひとすぢや蒸鰈
●細かく見た一物ですね。
○私もよく見ているなあと感じました。「蒸鰈」そのものではなく、ひとすぢの「湯気」を言うことで美味しそうに感じさせる巧みさ。

磨り足らぬ墨の滲みも朧なる
●朧は気象現象にいう言葉ゆえ「墨の滲み」に敷衍させるのは強引ですが、納得させられますね、巧さに。 
○「墨」って、「摺り足らぬ」と「滲み」やすいんですか? 
●水分が多いと滲み易いです。
○私も水分が多くて薄いと「滲み」やすい感覚だったので、本句ではそうした理屈を言っているわけではないのでしょうが、そこに囚われちゃいました。

思ひ出は思ふほど濃し母子草
○ 「思ひ出」ってそういうもんでしょう、とは思いますが、「母子草」を配して悪くないです。 
●さきほどの「勢(きほ)ひが水を水らしく」といい「思ひ出は思ふほど濃し」といい、リフレインが働いています。リフレインは決まると魔術だとこの二句で感じました。母への思慕が濃厚です。
○確かに、リフレインの妙ですね。

鉋の刃小突く木槌や雪柳
●刃を出すときは鉋を叩き、刃を引っ込めるときは木の台を叩きます。 
○職人さんの手際よい音が聞こえます。この季語の良し悪しは、よくわかりませんでした。 
●あなたが、よしあしがわからないというのはわかります。それはどうしてここに「雪柳」が来るかということでしょう。同じ作者の句に「卯の花や箸の浮きたる洗桶」があります。この句における「卯の花」のほうが「雪柳」より納得できる人が多いのではないでしょうか。春、新築の作業現場の横に雪柳が咲いているという風景だと思います。悪くないです。

ほんのりと酢飯に赤み山桜 
●赤み出るのかなあと思いつつ、こう書かれると出るかもしれないな、と思わされます。季語の威力でしょうか。
○いわゆる赤酢を使った「酢飯」なのでは? 昔ながらの江戸前寿司の店かも知れませんが、「山桜」とあるので、家庭的な手作りの「酢飯」を持っての山歩きかも。 
●赤酢は気がつきませんでしたが、それはあり得ますね。

低く飛ぶ春の蚊を打つ畳かな
○新聞とかを使ったのかも知れませんが「畳」に打ちつけた感じですかね。動かした手とか新聞とかではなく、動かぬ方の「畳」を出してきた面白さ。 
●「低く飛ぶ」でこの季節の蚊のはかなさも出ています。

夕東風に尾の先浮かし虎眠る
●へえ、そうなんだ、ほんとうならよく見たなあとと驚きました。 
○動物園でしょうか。猫も「尾の先浮かし」て眠っていることがあるので、「虎」でもありそうとは思えます。それは別にして、「夕東風」という導入と「虎眠る」という下五から、屏風絵的な景のような感覚も。
●そうですね、狩野派の絵をちらと思いました。 

撮影地:多摩川

コメント (1)
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