きのうの朝日新聞の俳壇に載った40句を木村弘子と読み双方が親近感ある8句と疑問を感じた4句について語る。
天地わたる===================================
【親近感のある句】
存分に燕を見たと言ひて逝き 冨田裕明(高山れおな、長谷川櫂選)
野山での活動の好きだった人であろう。ユニークな切り口で豊かな人生を追悼している。
白靴も混じる忌日の三和土かな 野崎 仁(高山れおな選)
三回忌、七回忌となると葬式とは異なり死のなまなましさが薄れる。遊び心のある白靴が死んで時間がたっていることの象徴。白靴のほかにサンダルもありそうで、寄り合いに親睦の要素を増している現実が端的に出ている。
熱き湯に沈みて暑き日を愛す 青木千禾子(高山れおな選)
同じ音の「熱き」と「暑き」のハーモニー。「愛す」まで踏み込んで真夏を肯定する意欲がいい。
山映す落着き見せる植田かな 日塔 脩(稲畑汀子選)
「山映し」とつなげるほうがいいと思うが、山国日本は山が田に映って安心する感覚が多くの人にあるだろう。
もたいなや籠りてをれば五月果つ 今村千年(稲畑汀子選)
あからさまな新型コロナウイルスの句が多いなかでこの句は抑制が効いている。「五月果つ」はほかの月と比べて異彩を放つ。草木生い茂るときだからである。
螢に闇の大きく動きけり 田中南獄(稲畑汀子選)
ほんとうは螢は動いているのだがこう書くことで実体のない闇を感じさせたのがいい。
夜の金魚話したきことあるやうに 渡辺和秋(長谷川櫂選)
眠れないのか夜半目が覚めてしまった作者。作者自身がだれかと話をしたい気分をうまく金魚に託していて巧妙。
水鉄砲届かぬ距離で撃ち合へり 二宮正博(大串章選)
互いに濡れたくない、あるいは気弱な二人。自分がしかとできていない未就学児であろうと推察できるのがいい。
【疑問の句】
子はナース白から白へ更衣 多田羅初美(高山れおな選)
これはたんなる着替えである。汚れたから洗濯する。別の同種の白衣を着る。したがって「更衣」という季語の本意にもとる。「子はナース」と念押しするのも鬱陶しい。
五月闇姿を見せよコロナ菌 中井一雄(長谷川櫂選)
「姿を見せよ」と言っても狸や蛇じゃないから。気持ちはわかるがあざとい。
ホームランまぼろしと消え雲の峰 佐藤 茂(大串章選)
句じたいに決定的な瑕瑾があるわけではない。「今夏の全国高校野球選手権大会は中止となった。残念」という選者の評が問題。「ホームランまぼろしと消え」はいったんホームランとした判定に異議が出てビデオ判定した結果ファウルとなった、と読むのが王道ではないのか。選者ははなから予断、思惑をもって句に接している。これは言葉の尊厳を大きくゆがめてしまう。もし作者が甲子園の野球中止をこの表現で期しているとしたらそれは別の表現ですべきだろう。
三密といふ幸せの燕の子 上村敏夫(大串章選)
「三密」なる言葉が何年持つのか。俳句は不易流行ゆえ時事性はあってもいいが言葉の耐久性とのからみを意識すべき。人間の思いを勝手に燕に押しつけてそれが上質という品性も問題。
木村弘子===================================
【親近感のある句】
コロナごと麦飯を食ふよく眠る 釋 顯昭(高山れおな選)
もしかしたらみんながコロナ菌も一緒に食べているのでしょうか。怖いことを指摘して鋭いです。食事と睡眠は生きる源、コロナ菌にも負けない体力を持ちたいですね。
たくましき根の力より生ふ若葉 花川和久(稲畑汀子選)
選者が「若葉のたくましさは、その根に力があるからだと知る」と言うように、植物は根が大切、強い根には美しい若葉や花が咲き、やがて立派な実を付けます。当然と思うことを再認識させてくれました。
ルビー婚といふ読点や豆の飯 椋誠一朗(稲畑汀子選)
結婚40年のお祝いを「読点」とは洒落ています。お赤飯でなごやかに想い出話などしている様子が想像できます。さあ次は、金婚式目指して二人で頑張りましょうということで、めでたし、めでたし。
もたいなや籠りてをれば五月果つ 今村千年(稲畑汀子選)
今年は、四月、五月のベストシーズンがコロナ騒ぎで自粛、自宅待機でとても損をした気分です。実感のある内容に惹かれました。
蠅叩き残像ばかり叩きをり 竹内宗一郎(長谷川櫂選)
蠅も命がけです。そんなに簡単には命中できません。残像を叩くという表現に芸を感じます。私だったら殺虫剤を使いますけど。
水の匂ひ満ちて田植えの盛りかな 山本けんえい(大串章選)
枯れた田に水が満々と行き渡り、さあ、田植えです。この田には、コロナウィルスもありません。生命力あふれる句です。
三密といふ幸せ燕の子 上村敏夫(大串章選)
仲良く何匹かの子燕が、嘴を揃えて親燕から餌を貰っています。燕の世界には、三密禁止など考える必要無いでしょうから。
討つて出るための籠城若葉寒 松本祐一(大串章選)
新型コロナウイルス対策としての外出の自粛でしょうね。これも力を蓄えるチャンスかもしれません。「討つて出るための籠城」と戦国時代の武将みたいにオーバーに表現してユーモアを持たせてのがいいです。
【疑問の句】
空蟬や地球を抱いて眠りをり 釋 蜩硯(高山れおな選)
俳句って逆を言って成功することもあるのだけれど、これはちょっとおおげさですよね。空蟬が地球を抱くなんてついていけません。
大は限りなく大キャベツ切る 込宮正一(高山れおな選)
韻律がごちゃごちゃしていますし意味が分かりません。「限りなく」といってもキャベツなど直径1メートルものがあるのでしょうか。高山れおな選に入ることが不思議です。
あめんぼの水輪に倦みてゐるやうな 勝村 博(大串章選)
あめんぼはいつも気持ちよくすいすい泳いでいると思いますよ。水輪に飽きたり嫌になったりはしないと思います。作者の思惑を押しつけていませんか。
螢に闇の大きく動きけり 田中南獄(稲畑汀子選)
暗いところに沢山の螢が飛んでいる様子でしょうか。この感覚についていけませんでした。「蛍が闇を明るく飛びにけり」では甘くしてしまいそうですが……。