天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

癌と新生姜

2014-09-26 06:27:29 | 俳句

「どすこい句会」は小生が全国津々浦々の鷹同人13名を招いて作ったネット句会。今月は総句数130で13句選で行われた。
自分の10句を除く120句の中で次の句がまず飛び込んできた。

新生姜癌の一つは退治せり  梯 寛


特に中七の「癌の一つは」が効いている。「退治せり」はその摘出手術であろう。大きい厄は取り除き一息ついて新生姜を擦って養生しようということが見える。
しかし小さくて取りきれない癌は体内に散在しているから、書いてないけれど、化学療法やら抗がん剤を服用などして対処しようということだろう。
「は」という助詞がことのほか物を言っている。

日本人が高年齢化するとともに老・病・死にまつわる句が急増している。
添削をしていても闘病の句はあとをたたない。
そこでよく見られる言葉に「小康を得る」「予後を大事に」「今生は病む定めなり」といった概念的なものやマイナス志向が多くてうんざりしている。
梯さんは類型的なことは言わず自分を即物的に見て言葉を探り出した。言葉全体にこの人らしい前向きのおおらかな気象が出ている。

また自分を書くことでいかにも平成という時代の多くの人の病気との付き合いを象徴させているのではないか。
ぼくが幼少を過ごした昭和30年代、癌は死病であった。
癌と聞けばその人は早晩死ぬものと誰しも思い同情し切ながった。
癌が死病であることは今も変わりないが、治療法も発達し、人の考え方も変わってきた。
癌を発見する機会も増えたことにより癌患者が床に伏せっていず日常活動をするようになっている。

「医療のお世話になってやるだけのことはやって生きていくさ。寿命のあるうちは寝込まないで頑張るさ」といった決意の声が聞こえてきて暗くない。
けれどそう楽観もしていない。
事実をたんたんと書いたことで言外に多くのことを伝えている。

この句はぼく一人採っただけである。
なぜほかの人が反応しなかったのか……いぶかしむ。
選句というのは医者が癌を見つけるような繊細な感覚が要るようである。
コメント
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