図書館から借りた、筒井康隆の短編集を少しづつ読んでいる。
『秒読み』と言うタイトルで13の短編が載っている本である。
少し、古い時代感覚の本ではあるが、SFやナンセンス、怪奇と恐怖に満ちていて、筒井康隆って、やはりすごい人だったのだなと思った。
読んでいる自分の気持ちがどんどん著者のペースに乗せられて、ぎりぎりまで追い詰められていく。
その中でも『遠い座敷』と『熊の木本線』と言う話が、夜に読んだ後、トイレや風呂に入るのが少し怖かった。
夢に見ないだろうかと恐れたが、幸いその夜の悪夢には出てこなくて、ほっとした。
特に『遠い座敷』と言う短編は、不思議で不気味でシ~ンと静謐な感じなのに不気味で怖かった。
筋山という場所に住んでいる宗貞と言う少年が、兵一と言う友達の家に遊びに行くのだが…
宗貞の家は山のふもとにあり、兵一の家は山の頂上にある。
2人で遊んでいて、つい夢中になって時間が遅くなり、彼の家で夕ご飯を食べて帰ることになってしまう。
宗貞はよその家で夕食を食べて帰るのは初めてのことで、ちょっと迷うのだが、勧められて大家族と一緒の膳に付く。
大家族のだんらんの中で食事しながら、彼は、暗い山道を1人で帰るのが怖くて、誰かが送って行ってくれまいかと期待するのだが…
しかし、友達の家の大人たちは誰も送って行ってはくれずに、ただ、「座敷伝いに帰ればいいよ」とだけ言ってくれる。
そうだ、前にここいらの家は全部長い廊下と座敷で麓から山頂までずっと続いているのだと聞いたことがあった。
そうか、それなら、暗い山道を歩かなくてもいいのだ。
そういえば、以前に彼も自分の家の座敷と廊下をどこまでも登って行って遊んだことがあったっけ。
そう思い出して初めは元気に歩きだすのだが…
どこまでも続くほの明るい明かりが漏れる廊下は幅の広い階段状になっていたので歩きにくいから、彼は、左側のふすまを開けて、座敷伝いに帰ることにした。
山頂から山麓まで続く4畳半から8畳くらいの座敷が、床の間に飾りがあったり掛け軸があったりしながら静かにどこまでも続いてゆく。
1つの座敷と次の座敷の間には20~30センチくらいの段差があり、そんな高低差が限りもなく続いて少しずつ下へ降りていくのだ。
ふすまを開けるたびに違う座敷があらわれる。
初めは暗い夜道を歩くよりは良いと思っているのだが…そのうち、だんだん怖くなっていく。
最後は、親の教え通り、座敷に入るたびにきちんとふすまを開け閉めしていたのだがそれもできなくなって夢中で駆け下りることになる。
何かが起こるわけでもないのに、何とも不気味で怖い。
そんなに延々と続く座敷などこの世にあるわけもないと思いながら、だんだん自分の足元にも座敷の畳の感触とヒンヤリした空気がが感じられてきて、ぞわっとした。
いつか私にもこんな世界が書けるようになれたらと思うが…
多分…無理かな??
木莉