サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 10494「霜花店(サンファジョム) 運命、その愛」★★★★★★★☆☆☆

2010年10月18日 | 座布団シネマ:さ行

『卑劣な街』のチョ・インソンと、『カンナさん大成功です!』のチュ・ジンモが共演した壮大な歴史絵巻。高麗時代末期の朝鮮半島を舞台に、陰謀渦巻く宮廷で危険な愛に身を焦がす3人の男女の関係をドラマチックに描く。『マルチュク青春通り』のユ・ハ監督は、本作では豪快なアクションと大胆な同性愛シーンや濃厚なベッドシーンにも挑戦。チョ・インソンの肉体美を楽しむともに、きらびやかな衣装の数々や、見事な剣さばきも堪能できる。[もっと詳しく]

アジア映画の「性愛」描写の、記憶に残る一編となりそうな気がする。

1980年代のことだっただろうか。
赤坂などのレンタルショップの一角には、「コリアンエロス」と呼ばれていた、一群のエロス表現を売り物にしたビデオのコーナーがあった。
いくつか興味本位で見た事はあるが、野暮ったいB級の、どうでもいいような内容だったように記憶している。
映像の性表現そのものの規制が、日本のそれよりも厳しかったこともあり、一部を除いては非検閲の海賊版のようなものが出回っていたのかもしれない。
キム・ギドク監督の一連の作品などで、韓国映画の一定の性表現がかなり突き抜けたのは、ようやくのように1990年代の後半であったかもしれない。



アジア映画全体に幅を広げたとしても、一級の作品でかなりの性表現が伴うものの登場は、この十数年のことかもしれない。
ポルノを売り物にした映画ではなく、かなり大胆だと思われる性表現を追及した作品で僕の記憶に鮮明なのは、アン・リー監督が日本軍占領下の香港・上海を舞台にトニー・レオンと新鋭タン・ウェイに大胆な性演技をさせた『ラスト・コーション』(07年)、パク・チャヌク監督がソン・ガンホに敬虔な神父から一転して血と欲望の虜となるバンバイヤを演じさせた『渇き』(09年)、ダイ・シージエ監督が中国では上映が認められなかったが、女性の同性愛を描きあげた『中国の植物学者の娘たち』(05年)といったところだ。
そして韓国の王朝時代劇であるが、この『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』という作品も、人気若手スターに泥沼の三角関係を、ちゃんと性愛描写を避けずに表現したと言う意味では、記憶に残る作品となるだろう。



物語は高麗町末期、第二十五代高麗王である「忠烈王」をモデルとしていると解説にはあった。
もしそうだとしたら、この「忠烈王」は史実に置いても文武両道であり、「元」と一体となった運命の王なのだが、実は日本にとっても重要な人物なのである。
というのは、元寇襲来の「文安の役」「弘安の役」で、日本侵攻をたびたび元王朝に進言し、侵略用の九百艘あまりの船を用意するのに力を発揮した人物なのである。
「神風」のおかげかどうか、元寇の侵略を幸いにも水際で防衛した当時の日本なのだが、一歩間違っていれば、この「忠烈王」は日韓の歴史を変える王となっていた可能性もあるのだ。
ともあれこの作品に置いては、もちろん「元」との服従関係が軸とはなっているとしても、日本との関係は描かれてはおらず、唯一「倭寇」らしき一団が、王(チュ・ジンモ)の命を狙うため突如出現し、近衛部隊の隊長であるホンニム(チョ・インソン)らが身を挺して王の命を守るというところに現われているぐらいだ。



忠烈王は幼い少年たちを訓練し、近衛部隊を養成してるが、それは忠実な直近の防衛隊をつくりあげるということもあるだろうが、男色の資質からくるものでもあった。
元の関係で娶った王妃はいるが、女を抱けない王は世継ぎを迫られて困った挙句、自分が愛しているホンニムに自分の身代わりで王妃と交わり、世継ぎを産ませるように命令する。
宮中から出たこともなくもちろん童貞であったホンニムだが、王妃と通じる中で、ふたりに愛が芽生えることになる。
ふたりの様子にただならぬ気配を感じ、嫉妬に狂う王であったが、ホンニムと王妃の禁じられた密会が、王の知るところとなり・・・。



ホンニム役のチョ・インソンは、『マルチュク青春通り』(04年)で僕たちを魅了したユ・ハ監督とは、『卑劣な街』(06年)で組んで、さえない極道役を演じてなかなか魅力的だった。
また『ラブストーリー』(03年)でも、チョ・スンウとなかなか素敵な掛け合いをしていた。
しかし、本作では王のために武に励み、琴を奏し、夜は王と同衾し、というところではゾクっとさせられる妖しい色気を見せている。
また、王妃に夢中になり、その体を貪るように抱きつくす姿には、滑稽と哀れみとしかしなかなかに屈強な体が眩しくもうつる。
モデル上がりのイケメン男優ではあるが、そう簡単に両刀使いの妖しい色気など出せるものではない。
近衛隊の青年たちのコスチュームもちょっとそそられるものがある(笑)。
たとえばジャニーズ出身のイケメンたちに、とてもこんなあられもない演技が出来よう筈がないようにも思われ、あっぱれではある。
通常の王朝時代劇であれば、濡れ場は適時フェードアウトとなるところだが、この作品では結構しつこく性愛シーンを追いかけている。
ちょっと詩人の気配があるユ・ハ監督は、どこまでも確信的だ。



この作品は76億ウォンの制作費をかけ、韓国では王朝歴史劇としては史上二位の400万人を動員している。
18歳未満お断りの映画で、この観客動員は立派なものである。
この時代の再現のため、ロケハンには50000kmを走破し、また武術や琴やの訓練に半年をかけたらしい。
朝鮮半島には大陸との交渉史の長い複雑な歴史の中で、高句麗という王朝も成立し、それはまた民族と文化の移動ということでいえば、日本のそれとも不可分でもある
けれども、日本は文物の多くを大陸そして朝鮮半島から輸入したが、中国の科挙制度と宦官制度は不思議と移入しなかったこと、そして韓国の儒教的価値観での王朝の形式主義は、これまた不思議と移入されなかった。
稚児制度などは、日本でも平安時代からいくつも記録はあるが、それにしてもこうした「親衛隊」というのはあまり聞かない。
歴史にifを言っても仕方がないが、「元寇」で日本が武力制圧されていたならと考えると・・・いやそんなことは想像だにしたくないようにも思えてくるのだ。

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