西洋音楽歳時記

旧称「A・Sカンタービレ」。07年には、1日1話を。その後は、敬愛する作曲家たちについて折に触れて書いていきます。

ベートーベン「第9交響曲」-歓喜に寄す(5)

2016-02-12 18:20:20 | 音楽一般
最後の箇所はシューベルトも使っています。1語だけ単語が異なっていますが。

Seid umschlungen, Millionen!
Diesen Kuß der ganzen Welt!

seidはseinの命令法複数2人称です。~であれ、というところでしょうか。umschlungenは辞書にはありません。元の形はumschlingenで、その過去分詞です。意味は、他動詞で「巻きつく・からむ・抱きつく」とあり、再帰代名詞4格のsichを伴って、「互いにからみつく・抱きつく」と出ています。訳を全部書きましたが、抱き合え、ということになるでしょう。MillionenはMillion(「100万」の意)の複数形です。もちろん、呼びかけで、何百万もの人たちよ、ということですが、諸人よ、と訳されています。

diesen Kußは男性単数対格(4格)で「このキスを」となります。diesenですが、前にもdiesemがありましたが、英語のthisと同語源で、もちろん意味は「この」です。次にどんな名詞(男性か女性か中性か)、また単数か複数か、で5通りもの語尾変化があります。英語は全然変化しない、いや複数だとtheseとなりますが。やはりドイツ語は厄介ですね。der ganzen Weltは、ganzは「全体の・全部の」の意の形容詞、Weltは「地球・世界」で英語のworldと同語源です。全体で「全世界に」となります。derは定冠詞です。前に関係代名詞として使われているとの説明をしましたが、ここは定冠詞で、短くデァとなります。再度書きますが、英語のthe,thatと同語源です。これも6通りに変化します。英語のtheは全く変化しませんが。

Brüder, überm Sternenzelt
Muß ein lieber Vater wohnen.

Sternenzeltは「星空」です。分解すると、Stern(英 star、「星」の意)、Zeltは「天幕・テント」で、英語のtilt(「日おおい」の意)と同語源です。mußはmüssen(英 must、「~ねばならない・~にちがいない」の意)の直説法現在単数3人称形です。liebは「親愛な・敬愛する」の意の形容詞で、英語のlief(「喜んで・進んで」の意の副詞)と同語源です。Vaterは「父・父親」で英語のfatherと同語源です。宗教用語として使われると、「神」です。辞書にはGott Vater 父なる神、というのが出ています。シラーの詩はこの意味で使われています。wohnenは「住む」です。シューベルトの詩は、ein lieber Vaterがein guter Vaterとなっています。ベートーベンはシラーの詩をそのまま使っていると思うのです。シューベルトはなぜ変えたのか?

(上記のKuß,Mußは新正書法ではそれぞれKuss,Mussとなります。)

Ihr stürzt nieder, Millionen?

ihrは「君たち・おまえたち」の意で、人称代名詞で複数2人称です。stürzt niederは元はniederstürzen(「激しく倒れる(落下する)」の意)という分離動詞です。その直説法現在複数2人称形です。この動詞ですが、辞書をもう少し見ると、auf die Knie niederstürzenというのがあります。Knieは、英語のkneeと同語源で、「ひざ」の意です。全体は、「がくんとひざまずく・がばとひれ伏す」です。お前たちはひざまずくのか、諸人よ、とある訳にはあります。

Ahnest du den Schöpfer, Welt?

ahnestですが、元はahnenで「予感する」の意の動詞ですが、その後du(英 thou、「お前・君」の意)というように単数2人称の代名詞が来ているので、本来はahnstと現在私たちが学ぶドイツ語ではなるかと思いますが、以前はeが入った?いや、スコアを見たら、1つでなく2つの音符がついている(ahnstだったら、母音は1つなので、音符は1つにせざるをえないでしょう、と思うのです。)、ということでeを入れたのか? Schöpferは「創造者・神」の意です。

Such’ ihn überm Sternenzelt!
Über Sternen muß er wohnen.

such’はsucheのeが略されています。suchenは「捜す・捜し求める」の意で、英語のseekと同語源です。sucheは単数2人称の命令法です。ihnは「彼を」です。Sternenは前にもありましたが、Sternの複数3格形です。

「第9」で歌われる歌詞を全部見ましたが、一部前置詞や人称代名詞で説明を通り過ぎたところもありましたが、名詞、形容詞、動詞など、文の内容を知る上で大切な語はほとんど見たつもりです。これで、第9を歌う時、和訳と照らし合わせて自分の歌っている箇所がどのような意味かつかめたと思います。

ベートーベンは、このシラーの詩を通じてどのようなことを訴えたかったのか。前に触れたことと合わせて、父なる神は必ずや星空の上に居られる、という箇所に私は注目せざるを得ません。創造者、つまり神は星のかなたに必ず居られる、と再度言っています。そしてその前には、人間は跪くべきだと、そう言っていると私は理解します。第4楽章で最初にベートーベンは自身の言葉で、これらのメロディーではない、と前の3つの楽章を否定する対象として取り上げていますが、(私は、これらの楽章はこれまでの8つのシンフォニーのどれと比べても少しも劣るものではないと考えていますが)それらを否定してまでも、この第4楽章のこのシラーの詩が表明していることを聴く人すべてに訴えたいということで、「もっと快い喜びに満ちた」歌を歌おうといっているのだと解釈します。

詩や楽曲の解釈、また「神」「創造者」などの解釈は人それぞれでしょう。すべて芸術はそのようなものと思います。

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