
長い間,翻訳の推理小説,冒険小説,スパイ小説を愛読していました。
翻訳物は,小説に登場する人物のカタカナの名前が,
エリザベスが途中からリズと変わっていたりします。
それに慣れなくてはなりません。
それで登場人物をすべて日本名にした小説がありました。

明治時代のジャーナリスト,作家,翻訳者の黒岩涙香(くろいわるいこう)が
アレクサンドル・デュマの『モンテクリスト伯』に登場する人物を
日本名にして翻案した有名な作品『巌窟王』がありました。
… … …
パトリック・クェンティンの『二人の妻を持つ男』の名作がありました。
ニューヨークとサンフランシスコにそれぞれ嫁さんがいて
夫はその二人の間を行ったりする話です。
それが邦画に翻案されました。日本では東京と大阪でした。
二人の妻は,若尾文子と岡田茉莉子が演じていました。
なかなか熱演で好感の持てる映画でした。
しかし、ニューヨーク→サンフランシスコと
東京→大阪の距離感、スケールの違いは何ともなりません。
海外の作品の翻訳はできても翻案は難しいものですね。
また、舶来のスパイ小説は,華々しい東西冷戦のスケールに
日本の小説は太刀打ちできません。
東西冷戦も終わって多くのスパイ作家が廃業宣言した機会もありまして
私は日本ものに転向しました。
舶来の小説は華々しいストーリーの展開はスゴイのですが、
登場人物同士の心のヒダというか、行間の味わいがもの足りませんでした。

邦文小説の登場人物名は,小兵衛、大治郎、三冬,おはる、
…中村主水、梅安,など覚えやすいです。
池波正太郎の作品は、『その男』から 『人斬り半次郎』と読んでいきました。
長編小説も数十ページ毎に、小さな山場を作って,
読者を最後まで引っ張っていきます。
目まぐるしく場面が変わる作品とは違って、
少ない場面で山場を作っていく技術は、スゴイです。
島田正吾・辰巳柳太郎の劇団『新国劇』の
座付き作者だったことが分かります。
この『新国劇』の立ち回りの舞台は迫力があリました。
女優陣が少し寂しかったです。
『味と映画の歳時記』『銀座日記』など、エッセーも素晴らしい。
グルメの本も執筆していますが,そのエッセーに挿入される
すばらしい挿絵も池波正太郎の自作です。
