今日のうた

思いつくままに書いています

水の花 (2)

2016-08-22 10:08:33 | ③好きな歌と句と詩とことばと
酢の匂ひ賑はしくたつ厨房の真夏は若き妻の日のごと  

命かけてと思ひつめたる若き日の跡形もなき一軀湯浴みす  

かたはらに人ゐるやうに林檎置く睦月ついたちしづけき真昼  

わが夫を「をぢさん」と睦みし息子にて散骨の日の海のいろ言ふ  

おつとりと歳を重ねてゆくために忘れてゆかう一つ一つを  

ベランダに干し忘れたるブラウスの霊のごときが夜目になまめく  

腕(かひな)とは腕もて人を抱くもの甲斐なきかひな静かに洗ふ  

無花果のむらさき実る 神々の失せて久しき地上の秋に  

紅葉と黄葉まじりきらきらと降(ふ)る坂道の祝祭に遭(あ)ふ  

ポインセチアひとひら散りて硝子戸の内しづかなり 誰か危ふし

なすすべもなく両の手を垂れてゐる者のやうなり曇る日暮れは
                      《 祷 三・一一 東日本大震災 》  

原発の汚水を海に放出す夜にまぎれて波にまぎれて  

日常を根こそぎ奪はれたる人ら吹かれ吹かるるにつぽんの春  
         《 さくら 三・一一 東日本大震災(希望のあかりとして) 》

弓なりに日本列島苦しめり美(は)しき倭(やまと)をよみがへらせむ  
                      《 受苦 三・一一東日本大震災 》  

黙示録のごとき世界に首垂れてゐるほかはなし考ふるため  

避難区域の瓦礫に雨は降りそそぐあまたの贄(にへ)を奪ひしところ  

かなしみにまなこ曇れば尊びし「受苦」といへるもうべなひがたし  

神が手を伸べざりし世にすみれ咲く小宇宙あり 天国ならむ  

春の雨一日降れり日常をたふとぶ心に沁み入るやうに 《存在》  

扇風機ゆるく回せば少しづつからめとらるる「時」が見えくる  

ある日海に漕ぎ出すやうに存在を消しうるならばさきはひならむ  

少しづつ瞑想の気をまとひつつ欅並木は立冬に入る
                     ※東日本大震災以降の歌には章を入れました。

雨宮さんが東日本大震災をお詠みになっているのが、意外でした。  
歌人の中には、時事を全く詠まないという方もいらっしゃいますが、  
人は社会と無関係には生きられないので、雨宮さんがお詠みになって  
いらっしゃることを知り、とても嬉しかったです。

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