今日のうた

思いつくままに書いています

棺一基 1

2015-03-04 19:36:20 | ③好きな歌と句と詩とことばと
『棺一基(かんいつき) 大道寺将司全句集』より
大道寺将司(まさし)は1974年8月30日、三菱重工爆破事件で
死刑判決が確定し今も在監中。
序文、跋文は辺見庸。 環境依存文字は、他の漢字にするか平仮名とする。

1997年
翅(はね)一枚遺(のこ)して蝉の食はれけり

虫の音や杖に縋(すが)りて母の来る

独房の点景(てんけい)とせむ柿一個

1998年
尾てい骨痛む余寒(よかん)の薄(うす)蒲団

新聞に塗(ぬ)りつぶしあり房冴(さ)ゆる

生際(はえぎわ)の美しき女人(ひと)風信子(ヒヤシンス)

夕焼けを背にしてねまる仔猫かな

囚人(めしゆうど)の残飯殖(ふ)ゆる油照(あぶらでり)

死者たちに如何にして詫(わ)ぶ赤とんぼ

1999年
万人に万の顔ありてんとむし

2000年
秋立つと身ぬちの修羅(しゆら)の動きそむ

 〈 パレスチナ 〉
宵闇にゲリラの潜(ひそ)む石の町

右腕に食器口(しよつきこう)より隙間風

2001年
実存(じつぞん)を賭(と)して手を擦(す)る冬の蠅

枯木立抜身(ぬきみ)のままでたじろがず

天穹(てんきゆう)の剥落(はくらく)のごと春の雪

暮れぎはの影定まりて夏来る

死を抱き人は生まれく岩清水

日の丸の赤溶け出づる梅雨じめり

秋蝉(しうせん)の身ぬちにありて熄(や)むことなし

アフガンの秋農民の痩せ骸(むくろ)

みなしごのまた生れけり星月夜(ほしづきよ)

其(し)が影を背負ひて揺るる枯尾花(かれをばな)

寒星(かんせい)や難民の子のひた見詰め

2002年
人外(じんがい)に節分の雨降り止まず

窓狭き古き囚獄(ひとや)を西日責む

2004年
海市(かいし)たつ海に未生(みしよう)の記憶あり

累代(るいだい)の骸(むくろ)の上の櫨(はぜ)紅葉

2005年
霧を出て霧に去(い)にける筵旗(むしろばた)

くさめしてこの世の貌(かお)に戻りけり

追記1
2015年5月22日、フジテレビで「連続企業爆破テロ 40年目の真実」を放送した。
当時は「連続企業爆破事件」と呼んでいたが、番組では「爆破テロ」になっている。
事件当時の実際の映像が入っていたので、うろ覚えながら当時を思い出した。
大道寺将司のことを俳句を通してしか知らなかったが、実際の逮捕時の映像は、
とても繊細な顔を映し出していた。
(2015年5月24日 記)








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

棺一基 2

2015-03-04 19:35:37 | ③好きな歌と句と詩とことばと
2007年
棺一基(かんいつき)四顧(しこ)茫々と霞みけり ※四顧=辺り

〈 刑使者、イラクでの戦死者、自殺者・・・ 〉
南風(なんぷう)や死は員数となりはつる

ででむしやまなうら過(よぎ)る死者の影

手も触れで崩れ落つるや闌(た)けし百合

油照(あぶらでり)なぞえの墓に碑銘なく ※なぞえ=斜面

蛍火や松明の群れ進むごと

2008年
炎(ほむら)立つ胸より奔(はし)る野火の舌

蟻の列銃火止まざる地に静か

寂しくて里に下りぬる蜻蛉(とんぼ)かな

かはたれの身の内かさと穴惑(あなまどひ) 
 ※穴惑=秋の彼岸をすぎ、寒さが増す中でも冬眠の穴に入らず、地上に残っている蛇

病む人に畳表(たたみおもて)の冷たかり

凍蝶(いててふ)の其(し)を励まして震ひけり ※凍蝶=寒さで動けない冬の蝶

しぐるるやいしくれひとつ身に纏ひ

散らされて隊組み直す冬銀河

2009年
わらんべの甲走(かんばし)る声地虫出づ

傷みしは世間か吾か雨蛙(あまがえる)

消え失せて漸(やうや)う気づく花野(はなの)かな

まなぶたに危めし人や稲光(いなびか)り

懐に出面(でづら)ある夜のちんちろりん ※出面=日雇い労働者などの日当

 〈 アフガニスタン 〉
障害者に自爆を迫(せ)むる無月(むげつ)かな

2010年
辛夷(こぶし)咲く山に千古の光満つ

 〈 病舎にて 〉
解けやすき病衣の紐や冴(さえ)返る

身の奥の癌の燃え立つ大暑かな

秋暑く敷布の皺の捩れけり

しののめの病舎にこぼす咳ひとつ

2011年
数知らぬ人のみ込みし春の海

地震(なゐ)止まず看護師の声裏返る

父母の死を知らざる女児や鳥帰る

水底の屍(かばね)照らすや夏の月

 〈「さみだれのあまだればかり浮御堂」阿波野青畝 〉
さみだれのあまだれほどの痛みかな

胸底は海のとどろやあらえみし ※あらえみし=上代、朝廷に服属しなかった蝦夷

生者より死者に親しきゐのこづち
 ※ヒユ科の多年草。実にとげがあり、衣服や動物の体について散らばる








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

015:衛(梅田啓子)

2015-03-04 10:15:09 | ⑥題詠blog2015
死してなお地球をめぐるライカ犬 無人の人工衛星に



※1985年公開のスウェーデン映画「マイ ライフ アズ ア ドッグ」より
 この映画の主人公12歳の少年イングマルは、12歳とは思えないくらい無邪気で、
 笑顔が愛くるしい。
 だが心に闇を抱えていて、寂しくなったり辛くなったりした時は、空を見あげてこう思う。
 「あのライカ犬より、僕の人生はまだましだ」

 ライカ犬は、ソ連の宇宙船スプートニク2号(1954~1957年)に積まれた
 メス犬のこと。
 わずかな水と空気しか与えられず、実験のため人間よりも早く宇宙船に乗せられたのだ。
 打ち上げ数時間後に、加熱とストレスで死んだというウワサや、打ち上げ10日後に
 毒入りの餌で安楽死させられたというウワサがある。

 イングマルのお父さんは南の海で行方不明に、お母さんは重い病にかかっている。
 お兄ちゃんはいじめてばかりいる。飼っていた犬も死んでしまう。
 そのうちお母さんが亡くなり、親戚の家に預けられる。
 おじさん一家やおばあちゃん、村の人たちとの何気ないエピソードがあったかい。
 ボクシングを通して、サガという美少女と出会う。
 サガは女であることを隠し、ボクシングを続けている。
 だが胸のふくらみが隠せなくなり、ボクシングをやめることになる。
 イングマルとサガとのふれあいは爽やかだ。
 サガのボーイッシュな美しさとともに、ずっと私の心に残っている。

 当時、6歳と7歳の娘をつれて映画館に行った。
 最初の場面からお兄ちゃんのいたずらが過ぎて、娘たちの教育上、
 このまま帰った方がよいのではないかと、やきもきしたものだ。
 娘たちは覚えているだろうか。




(画像はお借りしました)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする