『棺一基(かんいつき) 大道寺将司全句集』より
大道寺将司(まさし)は1974年8月30日、三菱重工爆破事件で
死刑判決が確定し今も在監中。
序文、跋文は辺見庸。 環境依存文字は、他の漢字にするか平仮名とする。
1997年
翅(はね)一枚遺(のこ)して蝉の食はれけり
虫の音や杖に縋(すが)りて母の来る
独房の点景(てんけい)とせむ柿一個
1998年
尾てい骨痛む余寒(よかん)の薄(うす)蒲団
新聞に塗(ぬ)りつぶしあり房冴(さ)ゆる
生際(はえぎわ)の美しき女人(ひと)風信子(ヒヤシンス)
夕焼けを背にしてねまる仔猫かな
囚人(めしゆうど)の残飯殖(ふ)ゆる油照(あぶらでり)
死者たちに如何にして詫(わ)ぶ赤とんぼ
1999年
万人に万の顔ありてんとむし
2000年
秋立つと身ぬちの修羅(しゆら)の動きそむ
〈 パレスチナ 〉
宵闇にゲリラの潜(ひそ)む石の町
右腕に食器口(しよつきこう)より隙間風
2001年
実存(じつぞん)を賭(と)して手を擦(す)る冬の蠅
枯木立抜身(ぬきみ)のままでたじろがず
天穹(てんきゆう)の剥落(はくらく)のごと春の雪
暮れぎはの影定まりて夏来る
死を抱き人は生まれく岩清水
日の丸の赤溶け出づる梅雨じめり
秋蝉(しうせん)の身ぬちにありて熄(や)むことなし
アフガンの秋農民の痩せ骸(むくろ)
みなしごのまた生れけり星月夜(ほしづきよ)
其(し)が影を背負ひて揺るる枯尾花(かれをばな)
寒星(かんせい)や難民の子のひた見詰め
2002年
人外(じんがい)に節分の雨降り止まず
窓狭き古き囚獄(ひとや)を西日責む
2004年
海市(かいし)たつ海に未生(みしよう)の記憶あり
累代(るいだい)の骸(むくろ)の上の櫨(はぜ)紅葉
2005年
霧を出て霧に去(い)にける筵旗(むしろばた)
くさめしてこの世の貌(かお)に戻りけり
追記1
2015年5月22日、フジテレビで「連続企業爆破テロ 40年目の真実」を放送した。
当時は「連続企業爆破事件」と呼んでいたが、番組では「爆破テロ」になっている。
事件当時の実際の映像が入っていたので、うろ覚えながら当時を思い出した。
大道寺将司のことを俳句を通してしか知らなかったが、実際の逮捕時の映像は、
とても繊細な顔を映し出していた。
(2015年5月24日 記)
大道寺将司(まさし)は1974年8月30日、三菱重工爆破事件で
死刑判決が確定し今も在監中。
序文、跋文は辺見庸。 環境依存文字は、他の漢字にするか平仮名とする。
1997年
翅(はね)一枚遺(のこ)して蝉の食はれけり
虫の音や杖に縋(すが)りて母の来る
独房の点景(てんけい)とせむ柿一個
1998年
尾てい骨痛む余寒(よかん)の薄(うす)蒲団
新聞に塗(ぬ)りつぶしあり房冴(さ)ゆる
生際(はえぎわ)の美しき女人(ひと)風信子(ヒヤシンス)
夕焼けを背にしてねまる仔猫かな
囚人(めしゆうど)の残飯殖(ふ)ゆる油照(あぶらでり)
死者たちに如何にして詫(わ)ぶ赤とんぼ
1999年
万人に万の顔ありてんとむし
2000年
秋立つと身ぬちの修羅(しゆら)の動きそむ
〈 パレスチナ 〉
宵闇にゲリラの潜(ひそ)む石の町
右腕に食器口(しよつきこう)より隙間風
2001年
実存(じつぞん)を賭(と)して手を擦(す)る冬の蠅
枯木立抜身(ぬきみ)のままでたじろがず
天穹(てんきゆう)の剥落(はくらく)のごと春の雪
暮れぎはの影定まりて夏来る
死を抱き人は生まれく岩清水
日の丸の赤溶け出づる梅雨じめり
秋蝉(しうせん)の身ぬちにありて熄(や)むことなし
アフガンの秋農民の痩せ骸(むくろ)
みなしごのまた生れけり星月夜(ほしづきよ)
其(し)が影を背負ひて揺るる枯尾花(かれをばな)
寒星(かんせい)や難民の子のひた見詰め
2002年
人外(じんがい)に節分の雨降り止まず
窓狭き古き囚獄(ひとや)を西日責む
2004年
海市(かいし)たつ海に未生(みしよう)の記憶あり
累代(るいだい)の骸(むくろ)の上の櫨(はぜ)紅葉
2005年
霧を出て霧に去(い)にける筵旗(むしろばた)
くさめしてこの世の貌(かお)に戻りけり
追記1
2015年5月22日、フジテレビで「連続企業爆破テロ 40年目の真実」を放送した。
当時は「連続企業爆破事件」と呼んでいたが、番組では「爆破テロ」になっている。
事件当時の実際の映像が入っていたので、うろ覚えながら当時を思い出した。
大道寺将司のことを俳句を通してしか知らなかったが、実際の逮捕時の映像は、
とても繊細な顔を映し出していた。
(2015年5月24日 記)