担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

惨憺たる結果。

2011-11-03 23:58:26 | 
今日は一日休みだからというので,どこに出かけるわけでもなく,一日,本を読んで過ごそうと思っていた。

それで「100ページは何かを読む」という数値目標を掲げたのだが,認識が甘かった。

この程度,一時間か二時間も集中して読めば簡単に達成できると思っていたのだが,結果は次のような惨憺たるものに終わった。

自分のためのメモに過ぎないが,せっかくなので,読んだ部分についてだけだが,感想も付けておいた。
どれもこれも刺激的過ぎて,読んでいると頭の中にいろいろな考えが浮かんで本に集中出来なくなる。
そんな本ばかりを選んでしまったのも敗因(?)かもしれない。


▼合計ページ数 0 ページ。

・ヒルベルト『幾何学基礎論』(ちくま学芸文庫),「数の概念について」の冒頭の2ページ。

面白そうだが,読み流せるような内容ではなさそうだったので,序文を読んだだけで一息ついてしまった。


▼合計ページ数 2 ページ。


・森毅『魔術から数学へ』(講談社学術文庫),「1 数量の支配する世界」p.15~p.38(24ページ)。

こちらは魅力的なタイトルで,最近本屋で見かけたので衝動買いしたが,まだ読んでいなかった。
今回,変な企画を立てたおかげで強制力が働き,これでも読んでみるかと読み始めることができたのはよかった。
森氏は量の理論に関するエキスパートなので,この人の本を腰を据えて読む時機がついに到来したと感じている。
森氏の文章は平易ではあるが,書かれている内容は僕にとっては非常に高級であり,難解である。
それでも昔に比べてだいぶ「森節」がわかるようになってきたが,まだまだ勉強不足なため,理解できない部分は相変わらず多いように感じている。
だが,あと十年経てばまたもう少し理解が進むだろうという望みを信じられるようになったため,わからないながらも一通り目を通しておこうと思う。
ちなみに,数量の概念は17世紀あたりに形成されたという見解が述べられているが,僕が最近 Suppes の論文で見かけた,Newton の Universal Arithmetick にまで遡れるという記述とほぼ符合する。
それどころか,Newton よりさらに Descartes にまで遡れるということが示唆されており,そのあたりもきちんと調べる必要性を感じた。
だが,スコラ哲学(ないしスコラ神学)までは,もう完全に僕の手に負えない。


▼合計ページ数 26ページ。


・伊原康隆『志学 数学』(シュプリンガー),III-15~III-17,p.131~p.138(8ページ)。

この本は,以前に読んだ,数学の本を何人かの研究者が紹介しているブックガイドに(確か)挙げられていたもので,そのときから気になっていたのだが,ようやくある図書館で借りることができた。
まだ読み始めたばかりなのだが,ふと開いたときに目に飛び込んできた部分が面白そうで,つい変なところを読んでしまった。
論文を投稿した後の編集者とのやり取りに関する注意事項等が述べられている,本書の一番最後の方の部分である。
実際にはどのページを開いても面白そうなのだが,題材が順番に排列されているので,ちゃんと順番を守って読もうと思う。


▼合計ページ数 34ページ。


・杉原厚吉『どう書くか』(共立出版),「第1章 ちょっとだけ遊び心を」,p.1~p.5(5ページ)。

この本の基調をなす理念を丁寧に解説した入り口の部分である。
この先を早く読み進めたいと思いつつ,一息入れてしまった。


▼合計ページ数 39ページ。

・深谷賢治『数学者の視点』(岩波科学ライブラリー),p.3~p.27(25ページ)。

1章から3章までを読んだ。

「1 見えないものを見るために」では,数学者は高次元の図形が「見えて」いるか,という,とても答えを知りたくなる問題提起をして読者を引き込む。
ここでいう「見えている」というのは,1次的な視覚による知覚ではなく,論理の助けを借りた高次の知覚を指しているのは,わざわざ言うまでもないことだが,そうした分類を真面目に行ったらどうなるかという,面白そうなテーマを思いつくきっかけになった。

「2 ピカソ美術館で考えたこと」を読んで僕が考えたことは,某球団の某ストイックな監督がつきつけた「プロフェッショナルとは何か,どうあるべきか」という問題意識についてである。
某監督は「チームを勝たせることが最高のファンサービス」という理念に基づき,実際にチームをリーグ優勝まで導いているのだから,監督としての手腕は超一流であろうが,勝つことだけに徹底的にこだわって集中するというシンプルな姿勢が,果たして本当に最善のファンサービスと言えただろうかというのは,僕は少し疑問に感じている。もしその結果,試合が,観ていても熱い感動を覚えないような,冷たい,機械的な,つまらないものになってしまったとしたら,プロ野球というスポーツ,あるいはエンターテイメントの持つ魅力を損なうわけだから,もっと違う方向性も必要だという話になる。
それと同じで,定理を見出し,証明をつけるというのが確かに数学者の基本的な仕事であろうが,職人のようにそれだけを繰り返すのだけが果たして数学者の仕事かというと,どうなのだろうと考えずにはいれらない。
そういう職人気質もかっこいいので強く憧れるのではあるが。

「3 クッキングコース」は,著者の深谷氏が一年間アメリカで多変数関数論の講義を受け持った経験を紹介している。
そこに報告されているアメリカの大学生の姿は,現代日本の小中高大学生全てに共通して見られるものと同じではないかという気がする。
僕自身,本などで学んだアメリカの教育スタイルを強く意識して自分の授業にもいろいろなことを取り入れているつもりだが,本当にそれでいいのかということは,簡単に結論を出せることではなく,これからも反省し,悩み続けていくしかないのだろう。


▼合計ページ数 64ページ。


・杉浦光夫(編)『ヒルベルト23の問題』,新井朝雄「第6問題 物理学の諸公理の数学的扱い」,p.57~p.70(14ページ)。

最近のマイブームである物理学の公理化に関する現代物理学における知見をちょうど知ることができるよい解説文であると期待して読んでみた。
ほぼ期待通りで,特に著者の専門分野と思われる量子力学や場の量子論に関してはページ数も少し多めに割いて詳しく解説されている。

他に,思いがけない副産物として,特殊相対性理論や一般相対性理論は,数学的は一言でいうとどういう理論なのかを知りたいと思っていたが,まさにそのことがバッチリ述べられていたのはありがたかった。

こういう記事のありがたいところは,内容はもちろんのこと,関心のある分野への適切な文献案内にもなっていることである。この記事の末尾にも,これから読んでみようと思う本や論文をいくつも見出すことができた。そうした新しい出会いを多く提供してくれる記事は,読んでためになったな,と強く思えるのである。

ただ,1950年代ごろからアメリカで Coleman,Noll,Serrin,Truesdell らを中心にして発展した連続体の力学の公理化である「有理力学」について全く触れていないのは残念である。
このことは,日本の物理学者たちが有理力学についてほとんど知らないことを意味する証拠の一端なのかもしれない。
そんな文句を垂れるくらいなら,自分でそういう記事を書いてみるがよかろう,という批判もあるだろうが,一応,将来的にはそれにチャレンジしてみたいと思っている。ただ,100周年記念は11年前に終わってしまったので,次の節目としたら150周年の2050年だろうか。う~ん,あと39年後にそういう記事が書けるかというと,そもそもこの世からいなくなっているかもしれないし,生きていたとしても健康状態は悪そうなので,そういう節目にこだわらずに適当な時期が来たらまとめてしまうことにしよう。


▼合計ページ数 78ページ。

・Ch. Zylka and G. Vojta, Thermodynamic proofs of algebraic inequalities, Physics Letters A, vol. 152, no. 3, 4, pp.163-164 (1991).

なんかつい読んでしまった。
Lansberg が1978年に発表した1ページの短い論文 "A thermodynamic proof of the inequality between arithmetic and geometric mean" がきっかけとなって,その後,少なくとも20年ほどに渡って細々と人々の関心を引いてきた。
これはそうした人々が書いた論文の一つである。

相加平均と相乗平均の不等式は,数学においては通常,対数関数のグラフが上に凸であるという事実に基づいて証明されるものである。
それを熱力学の第1法則と第2法則を利用して「証明」できるというのが Landsberg の目の付け所であり,正確には不等式の証明ではなく,「相加平均と相乗平均の不等式の熱力学的な解釈」であるが,考え方が面白いので,この方面に関する資料を収集しているところである。

ところで,この論文では,"the theory of majorization" なるものを持ち出して,Landsberg の「証明」が数学的に正しいものだと主張したいそうなのだが,それはちょっと話が違うのではないかと違和感を覚えた。拠り所として挙げている Schur-convex な関数に関する基本定理は,僕の見るところ,証明の極めて容易な凸関数の基本性質に過ぎないのだが,Landsberg の「証明」のポイントは,対数関数の convexity に言及しないで物理法則から不等式を導いてしまうところにあるのだから,関数の凸性に依拠する定理を掲げるのはお門違いではないかと思うのである。

ただ,majorization というのはこの論文で初めて知り,Marshall と Olkin の面白そうな本があることも参考文献リストからわかったので,学ぶところは大であった。新しい理論との出会いというのはとても大事である。

しかも,結局は Landsberg の発想を生かして,

理想気体→相加平均と相乗平均の不等式,
黒体輻射や理想縮退ボーズ気体→相加平均と相乗平均の不等式の一般化といえるHölderの不等式,
スピン系の高温近似(?)→Cauchyの不等式(いわゆるコーシー・シュワルツの不等式)

というように,さまざまな系に関する熱力学的な物理量の関係式から,さまざまな代数不等式を導いており,知らないことばかりで,とても勉強になった。


▼合計ページ数 80ページ。


結局,目標まであと20ページも足りなかったという,とんでもない結果に終わってしまった。
まあ,具体的な目標を掲げたおかげで,普段,なかなか読もうとしない本を開くなど,それなりにプラスの効果もあったので,またときどき企画するのも悪くないと思う。
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