トマスと図書館のおねえさんパット モーラさえら書房このアイテムの詳細を見る |
子どもの貧困、これが最近の教育界の最大のテーマかもしれない。学びたくても学ぶことが出来ない環境に置かれた子どもたちが増えている。
昔は、経済的事情から高等教育を受けるのが困難な学生のために、国立大学が門戸を広げていた。私立と比べて学費が安く、国家公務員試験も含めて、優秀な成績なら、家庭が貧困でも、実力で学問を修め、社会に出て貢献できるポジションに就くことができた。ある意味では、試験による競争が保障された公平な所もある制度であった。しかし、今や、国立大学の授業料も決して安くはなく、幼少時から金をかけて教育を受けることが出来る高所得者層が多く入学する学校と化してしまった。
経済上の理由から、ますます、教育の機会から遠ざけられる学生が多くなった。高校でも、授業料その他の教育費が払えずに退学に至る生徒も増え、貴重な時間を割いて、教育費用捻出のためのアルバイトに多くを当てている学生も増える傾向にあるようだ。今年も、卒業式のシーズンであるが、卒業が出来ず、あるいは、希望に反して、その上の学校を諦めた生徒や学生の事を思うと胸が痛くなる。
本来なら、才能があれば、学校の門は、全ての青少年に広く開かれていなければならない。また、才能があるかどうか、全ての青少年には可能性があるのだから、そのことも考慮されなければならない。
この本は、貧しさから学校に行けなかった少年が、優しい図書館のおねえさんのおかげで、学ぶ機会を得るきっかけを得たお話である。
メキシコから米国への移民労働者であるトマスの両親は、季節の変化とともに、農園の季節労働者として、冬はテキサス、夏は1000㎞も離れたアイオアへ、車で移動していた。当然、トマスら子どもたちも、一緒に移動するので、学校に行くことも出来なかった。ただ、お爺さんの話してくれるお話を聴くことが、学校で学ぶことに変わる楽しいことであった。でも、賢いトマスは、お爺さんが話す話を全部覚えてしまった。
ある時、トマスは、街にある図書館に出かけて行った。大きな図書館で、入ることをためらっていたトマスに優しく声をかけてくれたのが、優しい図書館のおねえさんだった。まず、のどの渇いたトマスに、水飲み場に連れていってくれて、トマスの図書館の席にリクエストの恐竜の本を持ってきてくれた。
借りてきた本を、お爺さんをはじめ、みんなに読んであげた。みんなも喜んで、トマスの話を聴く人が段々と多くなった。
何度も、図書館に行って、本の世界に空想の羽を広げた。おねえさんは、スペイン語を教えてくれという。トマスは、初めて先生になった。
やがて、季節が変わり、テキサスに移動する時期がやってきた。トマスは、お爺ちゃんと一緒に図書館のおねえさんに、お別れを言いに行った。お母さんが焼いた甘くておいしいパンを持って。
テキサスへの長い車の旅、車中で、おねえさんからもらった新品の本の世界に遊ぶトマスであった。
作家であり、カリフォルニア大学リバーサイド校の学長であったトマス・リベラの少年の時のお話である。