派遣村、その後小川 朋,「年越し派遣村」実行委員会新日本出版社このアイテムの詳細を見る |
去年の暮れから、今年のはじめにかけて、社会に対して日本の貧困化をはっきりと見せることになった派遣村。しかし、そこに参加できた派遣切りや雇い止の労働者な全体のごくわずかであった。社会に対するメッセージは、大いに発信できたが。
政権が交代し、労働者派遣法の全面的な改正が望まれるし、社会におけるセーフティーネットの十分な構築も今後の課題となっている。民主党は、財界寄りのところがあり、また、連合傘下の一部労働組合の企業寄りの姿勢もあることから、しっかり、改正や社会保障制度の整備に対して監視し、働きかけを続ける必要がある。
本書では、最初に、東京日比谷公園での派遣村の解散以後、全国160か所で行われた「派遣村」「街頭労働相談会」のうち、群馬県高崎市前橋公園で行われた「派遣村」のルポから始まる。労組や民主団体、地方議会の議員たちの支援活動が、その準備段階から紹介されて、この地でも派遣切りの問題点があぶりだされた。
依然として、派遣切りや雇い止目になった労働者に、「自己責任論」の強い影響がみられる現実。ネット右翼などが、盛んに主張していたことが、派遣切り労働者の意識にまで強い負の影響を与えていた。また、彼らお得意の既得権益論は、労働組合に加入している正規雇用の労働者と派遣労働者・期間工の対立をあおり、経営者の利益にかなうものであった。しかし、本書では、労働組合員と派遣社員の共同活動の模索も取り上げられている。
派遣切りや偽装請負などを、法律的に解説することも試みられ、本当に意味のある労働者派遣法の改正のポイントも述べられている。
そして、「派遣村」が問題となる前に、既に、こうした問題に取り組んできた労組の活動も紹介されている。
また、派遣切りを体験して労働者の、最初の戸惑い、怒り、労組への気持ちなども当事者の声が紹介されている。
「派遣村」は、日比谷公園で終わったのではなく、今も、反貧困の訴えを含めて、現在進行形で運動が展開されている。コンプライアンスを忘れ、株主への配当中心の考え方をとる企業に対する働きかけや闘いも今後も続ける必要がある。先進国でも、高すぎる役員報酬への制限などの施策が実行に移されようとしている。日本は、ヨーロッパと比べて、貧困化対策、労働政策がはるかに遅れた国である。
人間らしく生きられる社会を作ることにもつながる運動の展開は、今後も続く。政権交代に際して、真の労働者派遣法の改正を目指すとともに、低すぎる失業保険給付金や生活保護水準の引き上げも視野に入れた運動が求められる。本書が、多くの人に読まれ、(特に派遣労働者の人たちに)、生きづらい世の中を変える武器となることを希望する。