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[SF] SF宝石

2013-09-09 22:08:13 | SF

『SF宝石』 小説宝石編集部/編 (光文社)

 

日本SF作家クラブ50周年に合わせて蘇った「SF宝石」。装丁も雑誌形態なのだが、それならばもうちょっと雑誌っぽく編集後記とか載せても良かったんじゃないか。本当に、読み切り小説を寄せ集めただけの体裁。

これってもしかして、アンソロジーは原稿料が安い問題とも絡んでくるのかな。印税がページ割なので、云々みたいな。経費を考えると、文庫本よりもこういうムック形式が一番安いのかもしれない。

全体的な感想は、掲載作品がバラエティに富んでいるのは良いけれども、宝石というよりは玉石混交になっている気がする。本当に、編集に手間を掛けずに、投稿作品を版組しただけなんじゃないかと思えるくらい。いわゆるビッグネームの作品も、なんだか一味足りない感じだし、思いつきを書き留めただけのような小説もあり……。

SFプロパー外の作家の作品では、ひたすら説明的なオチが目立つのもなんとなく興醒めだった。SFって、やっぱりそういうイメージなのだろうか。

タイミング的に『NOVA』の第1期完了に重なっているため、SF界において『NOVA』の位置を継ぐことを期待していたんだけれど、このまま企画は続くのだろうか。もうちょっと薄くてもいいので、シリーズ化も考えて欲しい。

その際には顔の見える編集者を置いて、編集後記に裏話を書いたりもして欲しい。そういうのも含めて、アンソロジーの魅力だと思うのだ。


○ 「擬眼」 瀬名秀明
人間は視覚に極度に依存した生き物だと思っている。なので、非常に怖いホラーに感じた。おれ、おまえが指し示す意味も、ネットワークとしての群体を指し示す意味でおもしろかった。

○ 「ゲーム」 新井素子
日本人的宗教観ならではの発想。これを“ゲーム”と考えることができるのも、極めて日本的なのではないか。

○ 「イグノラムス・イグノラビムス」 円城塔
いわゆるアカシック・レコード仮説と、意識の遅延問題から論理的に帰結する自由意思への疑念。相変わらずひねくれた自問自答の論理展開がおもしろい。

○ 「上海租界祁斉路三二〇号」 上田早夕里
第二次世界大戦前夜の上海租界の雰囲気は非常に趣深いのだけれど、なぜの部分が弱い気がする。科学にポジティブに期待する気持ちは強く感じる。特に、昨今の社会情勢においては、こういうのはありがたい。

○ 「集団自殺と一二〇億頭のイノシシ」 田中啓文
これが一番面白かったというと語弊があるか。最後の絵本ネタはきれいに伏線を回収しているのではあるが、駄洒落というか、地口の部分が全体的なテーマに絡まず、局所的な小ネタに終わっているところがいまいち。

△ 「アフターバースト」 井上雅彦
ロボットにも死後の世界はあるんです。

◎ 「『いおり童子』と『こむら返し』」 小川一水
少子化と人口減少がはっきりとした社会影響を与えている近未来の話。舞台設定以外はSF風味が薄いのだが、いろいろな社会問題に対する意識が見えておもしろい。

○ 「ソラ」 結城充孝
これもちょっとだけ未来の話。しかし、二つのテーマがいまひとつ融合しておらず、無理やりSFにした感じ。ソラとナツの物語だけで十分だったかもしれない。

○ 「遺され島」 樋口明雄
ゾンビィ! どうせなら、少佐がもっと悪い人でも良かったと思う。

△ 「中古レコード」 中島たい子
やりたかったことはわかるのだけれど、ネタの考え過ぎなんでは。

○ 「宇宙の修行者」 両角長彦
オチがすばらしい。というか、オチだけ。

△ 「シミュレーション仮説」 小林泰三
敢えて丸を付けず。この人にしては凡作。SF向けじゃなくてホラー向けに余っていた原稿なのか。そうであるならば、もっとグチャグチャにグロいのを頼みます。

△ 「五ヵ月前から」 石持浅海
ありがちなゴーストストーリー。主人公たちが論理的に解明しようとする姿勢は共感できる。

○ 「レテの水」 福田和代
タイトルがネタバレなのが惜しい。

△ 「レンタルベビー」 東野圭吾
設定としては悪くないのだけれど、もうちょっとおもしろい話にできなかったのか。主人公がまじめ過ぎなので、ストーリーも直球過ぎ。

 

 



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