北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、完結した「あまちゃん」について書きました。
「あまちゃん不在の朝」にも、だいぶ慣れてきた今日この頃です(笑)。
総力戦で稀有なドラマに
キーワードで読み解く「あまちゃん」
キーワードで読み解く「あまちゃん」
NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)「あまちゃん」が9月末に終了した。半年間の平均視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は20・6%。最近の10年では「梅ちゃん先生」の20・7%に次ぐ高い数字だ。
それだけではない。新聞や雑誌で何度も特集が組まれ、ネットでも連日話題になった。関連CDがヒットし、DVDの予約は通常の10倍。また、「あまちゃん」の放送がなくなるとその寂しさや欠落感で落ち込んでしまう、「あま(ちゃん)ロス症候群」なる言葉まで生まれた。なぜ、「あまちゃん」は社会現象とも言える広がりを見せたのか。5つのキーワードで読み解いてみた。
① アイドル
朝ドラはヒロインが自立していく「職業ドラマ」でもある。過去に法律家や編集者などは登場したがアイドルは前代未聞。しかし、アイドルを「人を元気にする仕事」と考えればうなずける。特に「地元アイドル」というアイデアは秀逸だった。
② 80年代
物語の設定は2008年からの4年間だが、ヒロインの母親の若き日を描くことで視聴者は異なる時代の2つの青春物語を同時に堪能できた。また80年代の音楽やファッションは知っている人には懐かしく、知らない人には新鮮で、家族や友人とのコミュニケーションの材料になった。
③ 音楽
大友良英による、明るく元気でどこか懐かしいテーマ曲がこのドラマを象徴していた。随所に挿入される伴奏曲は登場人物の心情を語り、場面の雰囲気を支えていた。また、「潮騒のメモリー」などの劇中歌がフィクションの世界から飛び出して街に流れた。
④ 名せりふ
「じぇじぇじぇ!」をはじめ、名せりふが連打されたことも大ヒットの要因の一つだ。「分かるやつだけ、分かりゃいい」。「普通にやって、普通に売れるもん作りなさいよ」。宮藤官九郎の脚本の特色は、密度とテンポの物語展開だけでなく、登場人物が発する言葉の熱だ。
⑤ 脇役
これほどたくさんの舞台俳優を起用した朝ドラはない。渡辺えり、木野花、松尾スズキは劇団主宰者として演出も手掛けてきた実力派だ。吹越満、荒川良々なども舞台人である。目の前の観客の心を捉える修業を重ねてきた彼らの存在感が、このドラマを人間味あふれるものにしていた。
ドラマ作りは脚本・演出・役者の総力戦だ。前述のような要素を統合し、毎回一度は笑って泣ける稀有なドラマをけん引してきた制作陣にも拍手を送りたい。
(北海道新聞 2013.10.07)