大阪市長選で組合批判の大誤報
橋下びいきが断罪された
大阪「朝日放送」
至極まっとうな判断が下された。BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送人権委員会」が昨1日、朝日放送(大阪)の報道について「放送倫理上、重大な問題がある」と最も重い「勧告」の結論を出したのだ。
該当番組は昨年2月6日放送の「ABCニュース」。一昨年の大阪市長選で大阪市交通局の労働組合が、平松邦夫市長(当時)の支持を組合員に強要した疑いがあると報じたもの。
番組冒頭で「朝日放送のスクープです」とあおり、平松氏の支援を無理強いした証拠となる文言が書かれた「回収リスト」なるものを「独自に入手」と紹介。「(労組は)やくざと言ってもいいくらいの団体」と発言する内部告発者の映像も流した。さらに、内部告発を受けた大阪維新の会の市議会議員が交通局に出向き、やりとりする様子も伝えている。
ところが後日、交通局の調査でリストの捏造が発覚。労組の関与はなかったことが明らかになった。
「リストは橋下を支持する内部告発者のデッチ上げです。告発者はほかのメディアにも持ち込んだため、類似した報道は他局や新聞でもありました。ただ、表現や取材のやり方が違った。それで朝日放送だけが俎上に載ったのです」(事情通)
同ニュースは当事者の交通局への裏付け取材はしなかった。維新の会サイドを取材しただけで一方的に報じたのである。これでは誤報も当然で、公平性もへったくれもないだろう。橋下びいきの報道姿勢で墓穴を掘った格好だ。
朝日放送はBPOのヒアリングで「労組への取材努力はしたが、間に合わなかった」と弁明した。だが、BPO委員の小山剛氏は会見で「本来行われるべき裏付け取材が時間的な面で不十分だったというのは、報道機関として納得できるものではなかった」と一刀両断である。
橋下徹と平松邦夫が大阪の覇権を争う一騎打ちを演じた市長選。朝日放送は「疑惑が持ち上がったこと自体、視聴者に知らせるニュース」とするが、取材を怠ったバランスの悪い報道が、どれだけ見る側に有益だというのか。
上智大教授の碓井広義氏(メディア論)が言う。
「朝日放送は『疑惑としてのスクープを報じたまで』と主張したいのでしょうが、いかにも苦しい。『ハッキリしない情報ですがスクープです』なんて姿勢は、ジャーナリズムにあるまじきこと。
信頼性と信憑性を欠いた報道の結果、視聴者側に、橋下氏や大阪維新の会と朝日放送との関係性を考えさせる内容にもなりました。これでは報道機関としての中立性に疑義が生じます。
やくざという言葉も問題となりましたが、同じ言葉でも、ワイドショーで引用するのと、報道番組で扱うのとでは重みは異なる。まずは、ジャーナリズムの原点に立ち返ってもらいたいですね」
ズサンな報道をしていれば、視聴者に見向きもされなくなる。
(日刊ゲンダイ 2013.10.03)