しかし、彼らのこのけたたましい好奇心には、きっと何らかの理由があるに違いない。それを知らないまま、さしたるドラマもなく大きく発展しているわけでもない奈緒子と僕の話をするわけにはいかない。
一つ咳払いをして僕は、三人と対峙した。
「なんか、尋常やないなあ。何かあるんちゃう?」
酒が入ると田舎の言葉になるのだが、僕はここ一番、かなり使い慣れてきた関西弁を貫こうと思った。
「いや、たまたまだけどさ、最近話題になることが多いんだよ。なあ」
「水上がなあ‥‥」
「ちょっとした騒ぎだったよな」
意味あり気に目を合わせる三人を、交互に僕は覗き込む。
「なに?何があったの?水上に。‥‥水上と奈緒子に」
言葉を切りながら三人に問い掛けると、宇沢が少し首を傾げながら居住まいを正した。彼が機嫌を悪くした時の癖だ。眉間にシワもよっている。
「ほんとに、本当にお前、水上のこと知らないのか?聞いたことないか?」
僕は、大袈裟なほど大きく、首を横に振る。
「こいつ、知らないだろうなあ。しばらく連絡取れてなかったもんなあ。‥‥突然手紙が来て、今回だからさあ」
瀬野が宇沢の不機嫌をなだめるように口を挟む。全くそのとおりだ。同級生の動向を気にも求めず、一切連絡を絶っていたのは他ならぬ僕自身だ。水上がどこにいて何をしているのか、浪人生活を続けているのか、大学生になったのか、はたまた彼が卒業間際に熱く語っていたように、金儲けに邁進しているのか、知る由もない。ましてや奈緒子と水上の間に何らかの関係があったことなど、寝耳に水だった。
しかし幸いにも、宇沢と水上が仲がよかったことと、時として宇沢が水上の保護者のように振舞っていたことは思い出していた。
「宇沢はずっと連絡取ってるんやろう、水上と。俺は不義理な男やからなあ」
耳の上を掻きながらそう言うと,「まったくだよ」と瀬野と清水の声が揃った。「なあ」と続けた宇沢と見合わせる二人の横顔は、大きく手を広げて僕を迎えたわけではなかったことを伺わせた。
「まあ、水上が来れなかったことをよしとするしかないなあ」
宇沢が空気の綻びを取り繕うように天井を見上げる。その間隙をつくように瀬野が身を乗り出し、小声で僕に告げる。
「ずっと好きだったんだよ、奈緒子のことが。手紙のやり取りもしてたし。あいつは、俺の彼女だって言ってたしなあ」
宇沢が瀬野の説明を引き継ぐ。
「今年の春あたりから、なんかおかしいと言い始めてさあ、悩んでたんだよなあ、あいつ。俺のどこがいけないんだろうって、よく聞かれたよなあ」
「酒の量も一気に増えたよなあ」
「持って来た手紙を読まされそうになるし‥‥」
「お前、読んだろう。はっきり好きとは書いてないけど、文面から好意を感じるって言ってたじゃないか」
「いや、本当はちゃんと読んでないんだよな。彼女の真意が見えるのも嫌だし、手紙を見せる水上もどうかと思ったし‥‥」
瀬野と清水のやりとりを聞いていた宇沢が、僕ににじり寄る。
「お前、春か?奈緒子と付き合い始めたの」
高校時代の一時期武闘派で鳴らした宇沢の、詰問するかのような詰め寄り方に、僕は顎を引く。
「付き合ってると言えるかどうか‥‥。俺もまだわからへんのやけど‥‥」
本音だが、曖昧な逃げ口上に聞こえるだろうなあと思いつつも、他に言い方が見つからない。
「お前、いつも、ずっとそうだ!」
言わずに耐えてきた言葉を吐き出すように、宇沢が声を荒げ、僕を正面から睨みつける。
「ずっとそうだって、何が?」
何度か経験した宇沢との小さな対決の時のように、僕は問い返す。
「自分の言葉や行動が、人にどんな影響や傷を与えるか、考えてないだろう。お前、きっと奈緒子にいい顔したんだろう。お前がどう思ってるかどうかじゃなくてさ。好意を持たれることを意識しながら話をしたはずだ!」
いきなりの剣幕に、僕以上に清水がたじろぐ。
「水上が好きで文通してること、こいつ知らなかったんだからさあ、あんまり無茶言うなよ」
「本当に知らなかったのか?」
まだ指先につまんだままのメモをはためかせ、宇沢は疑念をぶつけてくる。僕は突然面倒になり、経緯を説明することにする。奈緒子に電話することや会うことなど、どうでもいいことになってしまっていた。
つづきをお楽しみに~~。Kakky(柿本)
第一章“親父への旅”を最初から読んでみたい方は、コチラへ。
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第三章“石ころと流れ星” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/14d4cdc5b7f8c92ae8b95894960f7a02
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