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想像したよりなだらかな坂だった。何の変哲もない住宅街であることなど知っていた。それでもいいんだ。ただ、自分の気持ちにふんぎりをつけに来たのだ。
はなから何もないんだよ。
しかし、これがそうかと不安になった。
こっちの横道がそうかも。午前中の住宅外は車の通りはあっても歩いている人はいない。聞く人もない。それはそれでしょうがない。
坂の下で車を洗っているおじさんがいた。
おそるおそる「こっちが多摩蘭坂ですか。」
「そうです。」
老紳士は、答えてくれた。そうか、やっぱりこのなだらかなバス通りじゃないんだ。その坂に向かって歩きだしたころ、
「すみません、間違ってました。こっちが多摩蘭坂です。」
カン違いしたらしい。
「昔はもっと急な坂で、子供のころは、雪が降るとスキーみたいに滑り下りて遊んでたんですよ。」
バス通りを見上げながら教えてくれた。多摩蘭坂の下に子供のころからずっと住まわれているとのこと。
「このあたりはぜんぶ森でね、良かったんですけどね、どんどん開発されちゃって、今はダメですね。昔は買い物だけが不便でね、国立の駅前にスーパーが一軒しかなかったのでね。」
清志郎さんはどのあたりに住んでたんですか。
「その上のほうに学生が住むようなアパートがあってね。この石垣も、今はコンクリートだけど、少し前までは玉石で、いっぱい落書きがしてあってね、僕は知らなかったんだけど家内が知っててね、忌野清志郎という人がこの坂の歌を書いたんだよって。」
「この家の人がね、国立市にかけあって49日まではって、ここにずいぶん花が置いてあってね、毎日掃除されてたんですよ。」
ありがとう、おじさん。
「僕ももう何年生きられるかわからないので、最後の車検に出そうと思って、車を洗ってたんですよ。」
写真撮らせてもらった。
失礼ですけど、おいくつですか。
「85歳です。」
国立に向かって歩いた。歩きながらこみ上げてきたのは失った悲しみからではなかった。
名前も聞かなかったけど、まさか、そんな話が聞けるなんて思ってもみなかったから。ほんとにうれしかったんだ。
「ぼくの自転車のうしろに乗りなよ」の歌詞のとおり、国立駅の南口に着いた。
僕の供養は終わった。
はなから何もないんだよ。
しかし、これがそうかと不安になった。
こっちの横道がそうかも。午前中の住宅外は車の通りはあっても歩いている人はいない。聞く人もない。それはそれでしょうがない。
坂の下で車を洗っているおじさんがいた。
おそるおそる「こっちが多摩蘭坂ですか。」
「そうです。」
老紳士は、答えてくれた。そうか、やっぱりこのなだらかなバス通りじゃないんだ。その坂に向かって歩きだしたころ、
「すみません、間違ってました。こっちが多摩蘭坂です。」
カン違いしたらしい。
「昔はもっと急な坂で、子供のころは、雪が降るとスキーみたいに滑り下りて遊んでたんですよ。」
バス通りを見上げながら教えてくれた。多摩蘭坂の下に子供のころからずっと住まわれているとのこと。
「このあたりはぜんぶ森でね、良かったんですけどね、どんどん開発されちゃって、今はダメですね。昔は買い物だけが不便でね、国立の駅前にスーパーが一軒しかなかったのでね。」
清志郎さんはどのあたりに住んでたんですか。
「その上のほうに学生が住むようなアパートがあってね。この石垣も、今はコンクリートだけど、少し前までは玉石で、いっぱい落書きがしてあってね、僕は知らなかったんだけど家内が知っててね、忌野清志郎という人がこの坂の歌を書いたんだよって。」
「この家の人がね、国立市にかけあって49日まではって、ここにずいぶん花が置いてあってね、毎日掃除されてたんですよ。」
ありがとう、おじさん。
「僕ももう何年生きられるかわからないので、最後の車検に出そうと思って、車を洗ってたんですよ。」
写真撮らせてもらった。
失礼ですけど、おいくつですか。
「85歳です。」
国立に向かって歩いた。歩きながらこみ上げてきたのは失った悲しみからではなかった。
名前も聞かなかったけど、まさか、そんな話が聞けるなんて思ってもみなかったから。ほんとにうれしかったんだ。
「ぼくの自転車のうしろに乗りなよ」の歌詞のとおり、国立駅の南口に着いた。
僕の供養は終わった。