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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

タミフル1万人調査が示すもの(2)

2007-12-27 17:00:43 | 政治
タミフルが無かった時代に、十代のインフルエンザ患者が、異常行動で死亡したケースは、どのくらいあったのか?

国民が、一番知りたいのは、この点である。もし、インフルエンザの流行のたびに、10代の患者が、「飛び降り」や「走り出し」で、死んでいたのなら、タミフルの副作用という可能性は、低くなる。

単に、メディアが、報道しなかった、だけなのだろうか?

しかし、若いインフルエンザ患者が、「何十メートルも走り出して、車道に飛び出した」とか、「家の窓から出て、マンションの手すりを乗り越えた」など、タミフル以前には、一度も、聞いたことがない。

医師を含め、多くのひとが、そう思ったからこそ、10代への処方の原則禁止措置が取られたのではないだろうか?

今回の1万人調査では、「異常行動全般のリスクは高まらない」と発表されたが、タミフルのインフルエンザ治療効果を考慮すると、この結論は妥当だと思う。

例えば、インフルエンザの自然治癒に5日間かかるとして、タミフルを飲むと、それが2日半になったとする。つまり治癒率を5割とおく。すると、タミフルの異常行動への影響がゼロであれば、飲んだ場合の異常行動発生率は、飲まない場合の半分になるだろう。今回の調査では、飲まない場合が22%なので、飲んだ場合は、半分の11%になるはずである。

飲んだ場合の発生率は、調査では、10%となっている。11%に近い数値だ。もちろん、22%と10%という数字は、母集団ではなく、サンプル集団での発生率で、統計検定の必要があるが、「タミフルの影響なし」は妥当に見える結論である。

しかし、異常行動の範囲を絞って、「死亡事故につながりかねない異常行動」の調査では、飲まない場合と、飲んだ場合のリスク差がはっきりしなくなる。この結果は、前回12月26日のブログで指摘したように、「タミフルの影響あり」の可能性が、極めて高いことを意味する。

治癒率を5割とすると、タミフルを飲んだ場合、インフルエンザウイルスにさらされている時間は、飲まない場合の半分なのに、重度異常行動の発生率は同じ。つまり、発生率が、2倍に上がっていることになる。

異常行動の範囲をどんなに絞っても、治癒率が5割なら、飲んだ場合のリスクは、飲まない場合の、半分でなければならない。それが、「タミフル影響なし」を意味する。範囲を重度のものに絞るにつれて、飲んだ場合のリスクが、飲まなかった場合に近づくならば、タミフルが影響しているということである。

すると、さらに範囲を重度に絞ると、飲んだ場合のリスクが、飲まなかった場合を追い越す可能性がある。

そして、その究極の異常行動が、「死亡事故につながった異常行動」である。この発生率は、タミフルを飲んだ場合と、飲まない場合で、どう違うだろう?

飲んだ場合は、よく分かっている。我々が、ニュースで見たとおりである。一方、飲まない場合は?

不思議なことに、厚生労働省研究班は、この一番肝心な調査を行っていない。プレスリリースで、触れていない。

つまり、こういうことではないのか。タミフルを飲まない場合、10代のインフルエンザ患者が、異常行動で死亡事故を起こしたケースは、ほとんどゼロである。調べる、必要もない。

それなら、タミフルの副作用に関して、科学的に、つじつまの合う結論を導き出せる。

インフルエンザでよく見られる、一般的な異常行動に対しては、タミフルは、その頻度を上げることはない。しかし、この病気では本来見られない、死亡事故につながる極端な異常行動を、数は少ないが、引き起こすことがある。

これは、限られた情報から出した、推論である。しかし、厚生労働省が、「タミフルを飲まない場合の、死亡事故例」を示さない限り、到達せざるを得ない結論でもある。

一刻も早く、この調査を行って、結果を出して欲しい。

新しい薬のリスクを、正しく国民に伝える。それが、厚生労働省の一番の義務である。政府は、薬害エイズ、薬害肝炎を通して、自身の責任の重さを、十分に理解していると信じたい。

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