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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

薬害肝炎は、防げたはずだ

2007-12-25 19:10:00 | 政治
1964年(昭和39年)、国が、ミドリ十字のフィブリノゲン製剤の製造を承認。

これが、薬害肝炎の出発点である。売血からの血液製剤であり、B型C型肝炎ウイルスに汚染されていた。

この薬は、本来、先天性低フィブリノゲン血症の薬である。しかし、フィブリノゲンが、血液凝固の因子であることから、「止血効果」を期待されて、出産時の妊婦の出血あるいは手術の際の出血に対しても、幅広く使われた。

その結果、献血製剤に置き換わる、1990年代まで、肝炎ウイルスをまき散らすことになり、大規模な薬害に発展した。

では、国と製薬メーカーは、何が出来たのだろう?

1964年当時、次のような状況があった。

* 輸血用血液は、ほとんどが売血である
* 輸血によって、高率で、肝炎に感染する
* 売血は、低品質で、「黄色い血」ともいわれ、提供者には、恐らく覚醒剤の注射によると思われるが、肝炎患者が多数含まれていた

血液製剤は、多人数に由来する大量の売血から、生化学的分画・濃縮過程を経て、製造される。これは、ウイルスも一緒に濃縮される可能性を、意味している。フィブリノーゲン製剤が、非常に高い肝炎感染リスクを持っていることは、当時でも、容易に推測できたはずである。

例えば、昨今話題になった、タミフルの副作用に比べれば、この薬の副作用は、はるかに予見しやすい。つまり、販売当初から、危険な薬だった。

従って、国と製薬メーカーは、販売開始と同時に、次のことを行わなければならない。

1 フィブリノゲン製剤を投与された患者が、どのくらいの率で、肝炎になるかの調査
2 フィブリノゲン製剤の効果の検証
3 より安全な代替治療の研究

これらの調査研究は、十年もあれば、結論を出せるはずである。実際、アメリカでは、1977年に、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、フィブリノゲン製剤の承認を取り消している。理由は、B型肝炎感染の危険性、薬の臨床効果への疑問、代替治療の存在、だそうだ。

米国政府は、仕事をしていた、ということだ。しかし、日本では、何事もなかったかのように、薬が使われ続ける。

1980年代後半には、青森県の産婦人科医院で、フィブリノゲン製剤を投与された妊婦が、集団で肝炎に感染する事件が起こる。厚生省は、この事件を調査したが、それでも、何も変わらない。医療現場では、相変わらず、広範囲に、薬が使われ続けた。

そもそも、フィブリノゲンは、血液凝固経路の最終段階の因子である。しかも、先天性疾患のひとなどを除けば、もともと体内に、大量に存在するタンパク質である。

それを、わざわざ外から入れて、「止血効果」があるというのは、強力な臨床データでもなければ、科学的には、首をひねらざるを得ない主張である。壊れたブロック塀を補修するとき、すでに十分なブロックが手元にあるのに、さらにブロックを補給する。何の意味がある?

むしろ、血液の凝固と溶解のバランスを壊す危険性を考えるべきだろう。

厚生省が、フィブリノゲン製剤の使用を、先天性疾患に限定する通達を出したのは、実に、1998年のことである。

「止血効果」を信じて、出産や手術に、何十年にも渡って、フィブリノゲン製剤が使われてきた。その結果、大量の肝炎患者が発生した。驚くべき、無為無策だ。

薬害C型肝炎訴訟の地裁判決では、国とメーカーの責任を認めたのは、最も早いもので、名古屋地裁の、1976年以降。東京地裁に至っては、1987年から1988年の一年間だけの責任しか、認めなかったケースもある。

これらの判決は、「確実に分かっていたのに、何もしなかった」責任を、問題にしている。しかし、「疑わしいものを、研究して明らかにする」責任は、一切問われていない。

国とメーカーは、財政的にも、人材的にも、立場的にも、調査研究が容易な立場にある。上述した三点、すなわち、(1)肝炎感染リスクの調査、(2)効果の検証、(3)代替治療の研究。販売開始当時から、これらを行ったことを示す資料を、国とメーカーが提出できなければ、彼らは、1964年の承認日から、責任をとるべきである。

自分たちには、「疑わしいものを、研究して明らかにする」義務がないというならば、厚生労働省は、薬の許認可権を持つ資格がない。製薬メーカーは、薬を販売する資格がない。

調査研究の能力や意志が無ければ、薬事行政の当事者になってはいけない。薬害エイズ、薬害肝炎ではっきりしたように、それは、国民の命を脅かすことになる。現在のように、国が自身の責任を認めないのであれば、薬の許認可権を、厚生労働省から取り上げるべきである。

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