ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

パンデミックとは限らない

2009-04-28 18:24:46 | Weblog
メキシコで発生した豚インフルに対して、WHOは警戒レベルを、Phase4に引き上げた。人から人への感染が増加傾向にあるとの判断だ。

しかし、今回のインフルエンザには、まだ未知の部分が多い。

メキシコ国内では、感染を疑われている死者が100人以上、感染者数は1600人を越えていて、発症者には、重い肺炎が見られる。ただ、検査によって豚インフルの感染が確認されている例はまだ少なく、現在調査中のようだ。

一方、アメリカなど、海外に広がった感染者は、検査で確認されているが、いずれも比較的軽症で済んでいる。

海外感染者の総数は、まだ五十人にも満たないが、メキシコ国内での感染者と海外感染者の間に、症状の重篤性に関して、大きな隔たりがあるように見えることが、状況把握を難しくしている。

あくまで一つの推測であるが、もともと弱毒性の豚インフルに、メキシコ人の多くが近年経験したことのない変異が一部分入っていて、そのためメキシコで大流行している可能性がある。

私は、数年前に、ひどいインフルエンザに罹ったことがある。まるまる三日間、39度以上の熱が続いて、バファリンを飲んでも、数時間熱が下がるだけで、すぐに上がってしまう。

しんどいとか、だるいとかを通り越して、「死ぬんじゃないか」と本気で思ったほどだった。

あれほど風邪で苦しんだのは、大人になってからは、初めての経験だった。

勿論、このとき日本で、強毒性の新型インフルエンザが流行したという話は、全くない。恐らく、ウイルスの型から言うと、ありふれたタイプだったと思う。

しかし、大まかな分類で見ると、ありふれたウイルスでも、遺伝子の変異が自分にとって未知、あるいは、何十年も前に出会ったものであれば、それに対する免疫は非常に弱いわけで、特定の人にとって、毒性の強い「新型」インフルになってしまう。

もう一つ例を挙げると、これも数年前、若者の間に「はしか」が流行して、問題になったことがあった。

はしかウイルスが少なくなって、幼児期にはしかに罹らない子供が増え、さらに、ワクチンの接種も受けていない若者には、このありふれた伝染病も、「新型」と同じ意味を持ってしまう。

今回の豚インフル流行に、メキシコ人の免疫状況が関わっている可能性は、検討すべき有力な説の一つである。

とくに、メキシコでの発症者が、二十代から四十代という一定の年齢層に偏っているのは、この説と矛盾しない情報である。

いずれにしても、強毒性新型インフルのパンデミック(世界的大流行)一歩手前と捉えるには、まだ情報が少なすぎる。WHOも、世界に注意を促しつつ、この病気の本質を見極めることに、全力を挙げているようだ。

つい先日、メキシコを訪問したオバマ大統領曰く、

「警戒しなければならないが、必要以上に恐れることはない」

同感である。

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take a dim view of は「気に入らない」

2009-04-22 02:12:22 | 英語
3月23日付TIMEの表紙。民主党小沢一郎代表が微妙な感じで笑う写真の下に、大きく The Maverick の文字。

「異端児、一匹狼」ですね。

この号には、小沢代表との単独インタビューに関する特集記事が、4ページに渡って掲載されていましたが、気になる表現がありました。

For all Ozawa's support in the polls when compared with Japan's Prime Minister Taro Aso ... the dim view taken of his alleged role in the Nishimatsu scandal illuminates the paradox of Ozawa's place in Japanese politics.

ここで、dim view という言葉が出てきますが、dim は「うす暗い」という意味で、それでは文意が不明です。ところが、LONGMAN辞書の三番目に、そのものずばりの熟語を見つけました。

take a dim view of ~
= to disapprove of something 

つまり「気に入らない、不賛成である、非とする」という意味です。「ほの暗い見方を取る」というニュアンスから、あんまり賛成出来ないといった、比較的弱い反対になるんでしょうか。

例文として、

Miss Watson takes a dim view of Paul's behaviour.

Watson嬢は、Paul君のやることなすこと、何かと気に入らないようです。でも、hate や dislike ではないので、心の底では、案外好きだったりするかもしれません(笑)。

この意味で、TIMEの文章を訳すと

世論調査では、麻生太郎首相に比べ、小沢への支持は大きいが、西松建設事件で彼が果たしたと言われている役割への不支持は、日本政治における小沢の立ち位置が、奇妙な二面性を持っていることを、照らし出した。

というあたりでしょうか。文頭の For が難しいですね。

ところで、小沢代表の二面性ですが、この文のすぐ後に、その一面が紹介されます。

His mentors include both Kakuei Tanaka ... and Shin Kanemaru ... both were eventually mired in corruption scandals.

「腐敗政治の泥沼にはまる」なんて、生々しい表現っす。

時期首相をねらう強力な野党党首である小沢と、自民党の角栄流金権政治から生まれてきた小沢。記事の筆者 (Michael Elliott and Coco Masters) は、そういう二面性を指摘したいようです。

いずれにしても、この記事は、小沢代表のことのみならず、今の日本について、かなり詳しい分析、しかも批判的分析を加えていて、読み応えがあります。

ちなみに記事のタイトルは

The man who wants to save Japan

本当に、日本を救って欲しいです。

メモ
an exclusive interview  単独会見
mentor  良き指導者
DPJ  民主党 (Democratic Party of Japan)
LDP  自民党 (Liberal Democratic Party)
the Tokyo District (Public) Prosecutor's office  東京地検

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自動詞 pay off は「よい結果をもたらす」

2009-04-19 01:03:49 | 英語
英語の勉強がてら、気になった単語や言い回しを、ブログに書きとめたいと思います。

最近、北朝鮮のロケット発射に関して、国連安全保障理事会で、議長声明が出されました。今月13日のことですが、少し前の8日、Texas Insider というネットニュースの記事の中に、次のような文を見つけました。

But supporters say her persistence and willingness to engage in direct diplomacy with countries like China and Russia will pay off eventually, and that historically it has taken weeks ― sometimes months ― for viable resolutions to be drafted.

最初の her というのは、アメリカ国連大使の Susan Rice さんです。彼女が、中国やロシアをなんとか説得して、北朝鮮非難の新たな決議を安保理に提出したいと、奔走しているときの話です。

この文章で気になったのは、pay off という語句。

辞書を引くと、pay off は、借金なんかを「清算する、完済する」という意味が最初に出てきます。

ところが、この意味では、上の文章は訳せません。

そこで、LONGMANの英英辞書を引いてみると、二番目の意味として、

if something you do pays off, it is successful or has a good result

と書いていて、例文として

Teamwork paid off.

とありました。

つまり、pay off は「うまくいく、良い結果をもたらす、成功する」といった意味のようです。用法としては、自動詞ですね。

結局、上の文章の訳は、

「しかし、ライス国連大使を支持するひとたちは、中国やロシアのような国を相手に、粘り強く、積極的に直接交渉を続けていこうとする彼女の姿勢は、最後には実を結ぶだろう、と言います。そして、過去の例を見ると、意義のある決議を起草するまでには、数週間ないし数ヶ月はかかるそうです」

こんな感じでしょうか。

ところで、前の英語カテゴリーブログ (Jan 31, 2008) にも書いたのですが、pay と off をくっつけた payoff という名詞があって、LONGMANによると、

an advantage or profit that you get as a result of doing something

と出ています。

つまり、「利点」という意味で、自動詞 pay off と通じるものがありますね。

やはり、借金を完済するのは、とっても良いことだから、こういった前向きな意味が派生してくるんでしょうか。

ただ、pay off には「残りの給料を全部払って、解雇する」とか「口止め料を払う」という意味もあるみたいで、お金にまつわる単語は、ダークサイドもついて回りますね(笑)。

メモ
U.S. Ambassador to the United Nations
アメリカ国連大使
UN Security Council Presidential Statement
国連安保理議長声明

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貧弱な日本の外交力

2009-04-18 02:57:06 | 政治
4月11日、タイで行われた日中首脳会談。外交筋によると、一時間近くに渡って、麻生首相が、温家宝首相を説得。その情熱に押されて、中国が譲歩し、国連安保理の議長声明に、「違反」の文言が盛り込まれた。

これは一部マスコミの報道であるが、外務省の「希望的観測」に基づいた「自画自賛」でしかない。

もともと麻生首相は、「議長声明」ではなく、「安保理決議」に同意するよう、中国首相を説得するため、勢い込んでパタヤに乗り込んでいった筈である。

しかし、一国の首相が、一時間掛けてお願いしても、「安保理決議」は実現しなかった。

それどころか、手にしたものと言えば、すでに既定路線だった「議長声明」に、「contravection」という、欧米の記者でも聞き慣れない単語を、盛り込むことだけである。

「違反」を表す常套文句「violation」すら、獲得出来なかった。

もし、オバマ大統領が、同じことをして、同じ成果しか手に出来なかった場合、彼は、国民から能力を疑われて、政治的ピンチに立たされただろう。

麻生首相が自ら動くなら、それに見合うだけの成果がなければならない。成果を見込めないのなら、首相が出ていくべきではない。

「contavection」だけなら、国連大使を通じた交渉で十分である。

今回の「議長声明」は、日本が、「安保理決議」にこだわって、強い態度を見せたからこそ、実現したのだという声がある。最初から、「議長声明」でも良いと言っていたら、結局、「報道声明」で終わっていただろう、という意見だ。

確かに、外交テクニックとして、最初に大きく吹っ掛けて、相手の妥協を引き出す手法は、存在するだろう。

しかし、そのためには、吹っ掛けた裏で、中国やロシアと緊密に交渉して、お互いどこまで妥協出来るか、探らなければならない。

アメリカ国連大使のスーザン・ライスは、まさに、これを実行した。そして、中国から「議長声明」という譲歩を引き出した。

で、日本は、何をしていたのだろう?

もし、日本が、中国との交渉の結果、「議長声明」の合意にこぎ着けていたのなら、日本の外交力は、高く評価されるべきだ。

しかし、日本は、ライス大使が妥協点を探っている間、首相も国連大使も、ひたすら「安保理決議」「安保理決議」と唱えていただけだ。

そして、米中が「議長声明」でまとまると、今度は、「首脳外交」で一点突破とばかりに、無理を承知で、麻生首相が、中国首相に一時間に及ぶ直談判を決行。もちろん、「安保理決議」は、ゲット出来なかった。

これは「外交」と呼べるような代物ではない。

日本ではあまり報道されていないが、オバマ大統領は、ライス国連大使に、閣僚級の地位を与えている。つまり、彼女は、外務大臣と同格である。

この政治的措置によって、ライス大使は、交渉の場において、自分の判断で、相手側に、大胆な妥協案を提示することが可能だった。

おそらく、この権限は、米中合意の大きな原動力だったはずだ。

オバマ大統領は、北朝鮮のロケット発射に強く抗議しながら、同時に、ライス大使に必要な権限を与えて、国連安保理で、アメリカが中心となって動けるように、布石を打っていた。

これこそが、政権トップの仕事である。

一方、麻生首相と日本政府は、「ミサイル実験」だ、落ちたら危険だと、国民の危機感を不必要に煽って、強硬な世論を形成し、その結果、自分たちの外交の自由度を狭めて、手足を縛ってしまった。

何としても「安保理決議」を、という雰囲気が国民の間に漂い、政府は、中国やロシアとの交渉でも、なんらの妥協案も提示出来ず、アメリカに主導権を取られ、さらには、「起死回生のホームラン」を夢見て、日中首脳会談に臨み、政権トップの無力を世界に晒してしまった。

拉致問題でもそうだが、国際問題を解決するためには、国民にも冷静になって貰う必要がある。政府自ら、国民の怒りや危機感を煽って、「無条件降伏」を相手に求める世論を作ってしまっては、話にならない。

そうなると、双方が受け入れ可能な妥協点を見出しても、国民からすれば、それは失敗にしか映らない。

日本は、経済力の相対的低下によって、世界での存在感が、どんどん小さくなっているが、貧弱な政治が、その流れを加速させている。

しかし、それは、日本国民が、自分で選んだ政治である。

国民の怒りや不安を煽ったり、勇ましい挑発的な言動を繰り返す政治家を、好きこのんで当選させてきたことの、当然の帰結である。

本質的な責任は、我々国民にあるということだ。

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北朝鮮の「しぶとさ」

2009-04-17 07:08:24 | 政治
4月13日付の「TIME」誌によると、金正日総書記の健康状態は、思った以上に良くないが、万一、彼が明日死んでも、北朝鮮の体制にさほどの変化はない、というのが多くの専門家の見方だそうだ。

残念なお知らせである(笑)。

金正日後、後継者としては、三男の金正雲(26)が有力視されているが、後継が誰であれ、先日、国防委員に選出された、義弟の張成沢(63)が、事実上の最高指導者(the de facto leader)になる可能性が高いという。

張成沢という人物は、金正日の妹の夫で、秘密警察のトップを務めるなど、経歴からみて、ガチガチの強硬派らしい。

また、カリスマ性があり、北朝鮮のエリート層に人気が高く、あまりの人気者ぶりに、金正日が嫉妬して、一時期、干されていたほどだそうだ。

一方、金正雲は、激情タイプの人間で、息子の中でも、その性格が、一番、金正日に似ていると言われている。

従って、金正日後も、北朝鮮の姿勢が変化する可能性は低く、また、政権が崩壊して政治体制が大きく変わることも、期待薄らしい。

北朝鮮の「Durability」すなわち「しぶとさ」を、過小評価してはいけない、というのが専門家からのアドバスである。

返す返すも、残念なお知らせだ(笑)。

しかし、金正日流を頑固に変えないと、むしろそれが原因となって、やがて北朝鮮が崩壊する可能性は十分にあると思う。

軍の高官や党の幹部が、金正日に忠誠を示してきたのは、何と言っても、建国の父である金日成の息子という点が大きいはずである。

さすがに孫の代まできては、余程の「うまみ」がなければ、忠誠を維持するのは難しいだろう。

忠誠心を留めておくためには、今以上にお金が必要だが、金正日政権下で国際的孤立が進み、国際社会の警戒感を高めてしまったために、外国からの援助物資の横流し、あるいは、麻薬・偽札などの違法ビジネスで、上層部の懐を潤すことが、出来なくなりつつある。

打開策の一つは、レアメタルなどの資源を、もっと輸出することである。そのためには、鉱山開発に投資して、発電所の建設、道路の整備、鉄道や港湾の強化を図る必要がある。

また、農地の開発や農業の機械化を進めて、農業生産力を上げるのも、効果的である。なにより税収がアップするし、飢えの心配が無くなって生活が安定すれば、内需拡大につながる。

そして、こうやって得た金を、上層部にばらまけばいい。

もし、次の指導者が、そのことに気づいて、核やミサイルの開発に使っている予算を、一部でも、これらの民生部門に回す決断を下せば、金正日後も、政権の求心力は維持できるだろう。

しかし、見通しは、悲観的だ。

反革命分子やスパイの摘発に血眼になってきた強硬派と、金正日のそっくりさんである。

「先軍政治」を緩和したり、「瀬戸際外交」を放棄して、国内経済の復興に取り組む要素は、微塵も見当たらない。

つまり、金正日後、金正日流を堅持すればするほど、政権は不安定になり、北朝鮮は混乱するが、それでも政策は変えられない。

やめられない、とまらない。

こうなると、Durability 「しぶとさ」というより、Addiction「先軍・瀬戸際中毒」である。

その先に待っているのは、国家の崩壊しかない。

どこの国でもそうだが、同じことをずっと続けていくためには、どこかで、何か違うことを始めなければならない。

いまの中国が、その一例である。

そして、総選挙を控えた日本にも、それが求められている。


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さすがに「騒ぎすぎ」だと思う(笑) ~ 北朝鮮の脅威

2009-04-15 12:06:46 | 政治
ロケット発射を非難する安保理議長声明に対して、北朝鮮は、「6者協議からの脱退」「核抑止力の強化」そして「宇宙利用の権利行使」を表明した。

全面的な対決姿勢である。

このニュースが伝わると、日本は、アメリカに頼らず、自国を守れるように、本格的に防衛力の強化に乗り出すべきだとの意見が、噴出し始めている。

そして、「ミサイル防衛」どころか、「北朝鮮の基地を攻撃可能なミサイルの保有」「先制攻撃」「憲法改正」、果ては、「核武装」「もう宣戦布告してしまえ」という声まで、聞こえてくる。

まるで、今日明日にでも、北朝鮮のミサイルが飛んできそうな勢いである。

しかし、朝鮮半島の情勢を見れば、これらは過剰反応と言わざるを得ない。

北朝鮮が軍事的関心を寄せているのは、一に韓国、二に韓国、三四がなくて、五に韓国である(笑)。

つまり、軍事行動を取るとすれば、朝鮮半島統一のため、戦争する相手はあくまで韓国であって、日本のことなど、そもそも眼中にない。

実際、韓国を射程圏内に収めるスカッドミサイルが、600基近く実戦配備されているとの推測もある。

いやいや、日本に向けても、ノドンミサイルが、200基も配備されているではないか。日本にだって、いつミサイルが飛んでくるか分からないぞ。

そう思うのは、確かにもっともである。

しかし、ノドンミサイルのほとんどは、北朝鮮が韓国と全面戦争に入ったとき、後方支援を断つために、日本国内の米軍基地や米軍艦の寄港地を攻撃する為のものと思われる。

そして、全面戦争の可能性は、今のところ、非常に低い。

北朝鮮の通常兵器は、米韓軍に比べると、数はあるものの、性能では圧倒的に劣っている。おまけに、経済的にもそれだけの戦争を遂行する力はない。

2002年に起きた、黄海での砲撃戦のように、小規模な戦闘はあるものの、38度線を越えて、ソウルに進軍してくる心配は、現在では、ほとんどない。

一方、韓国側が、北朝鮮に侵攻する可能性もない。韓国にとって、何の得にもならないからだ。

朝鮮半島有事の危険性が低い今、日本にミサイルが飛んでくる可能性は限りなくゼロに等しい。

いやいや、それでも、将軍様が暴発して、戦争を吹っ掛けることもあるんじゃないか、そう思うひともいるだろう。

大丈夫、その心配も少ない(笑)。

アメリカの巡航ミサイル・トマホークは、数千発がすぐにでも発射可能で、北朝鮮国内の軍事拠点を攻撃出来ると言われている。

もし、北朝鮮が軍事行動を起こせば、ほぼ同時に、何千発ものトマホークで攻撃され、ステルスなどの最新鋭戦闘機も、空爆を開始するだろう。

その攻撃拠点の中には、金正日総書記やその側近たちの滞在場所も、多数含まれているはずである。

彼らにとっては、今日明日どころか、一時間後に命を失う危険すらある。

そんな中、今の贅沢な暮らしを捨ててまで、全面戦争に踏み切ったり、ミサイル発射の指令を出したり、ましてや、核のボタンを押すだろうか?

韓国や日本に大きな損害を与えても、自分たちが死んでしまったのでは、元も子もない。おまけに、最後には、所詮、負けてしまう戦争である。

始めるだけ、無駄というものだ。

従って、アメリカや韓国、さらには日本が、北朝鮮を大規模に攻撃しない限り、向こうからミサイルを撃ってくることは、まず考えられない。


今回、北朝鮮の発射したロケットが、日本の上空を通過したのは、間違いなく、けしからんことだ。

もし、ロケットの一部あるいは全部が、日本領内に落下して、被害が発生したらどうしてくれるんだ!と怒るのは当然である。

しかし、だからといって、北朝鮮が、今日明日にでも、日本の都市に、ミサイルを撃ち込むのではないかと心配して、先制攻撃や核武装を言い出すのは、過剰反応というものである。

金正日政権にとって一番大事なのは、何と言っても、現体制の維持、すなわち、自分も含めた北朝鮮高官たちの命と生活である。

そういう連中が発する、空威張りの恫喝に、いちいち反応する必要はない。


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国連は役に立っている

2009-04-14 03:49:20 | 政治
北朝鮮のロケット発射は、国連安保理決議1718に違反(contravention)しているとする議長声明が、今日にも採択される見通しである。

日本政府は、麻生首相自らが発言したように、新たな安保理決議を目指していたが、中国とロシアの反対によって、議長声明という形に落ち着いた。

この決着に対して、「国連は役に立たない」という声が、石原慎太郎都知事など、一部の政治家から上がっている。

また、極端な意見ではあるが、自民党の坂本剛二組織本部長は、「国連脱退」すら口にしている。

国連は、本当に、日本の役には立っていないのだろうか?

もし、日本が、安保理という組織を使わず、単独の外交努力で、中国やロシアなどに働きかけたとして、今回のような圧力を、北朝鮮にかけることが出来ただろうか?

ニューヨークのビルの中に、すべての関係当事国の代表者が存在しているのとは、訳が違う。

日本がどんなに頑張っても、短期間で、何かの共同声明を出すのは、不可能に等しいはずである。

たとえ拘束力のない議長声明であっても、発射後一週間で、常任理事国を含む15の有力国が、一致して北朝鮮のミサイル開発に異議を唱え、今後、発射実験をしないよう迫るのは、金正日政権に対する、強力な外交圧力である。

国連や安保理という舞台があってこそ、初めて実現する成果である。

ブッシュ政権時代、フセイン政権の危険性を主張して、イラク戦争を始めたかったアメリカは、フランスやドイツの反対によって、安保理で、思うような決議が得られなかった。

その時、ブッシュ大統領は、「国連は役に立たない」と判断して、アメリカを中心とする有志連合で、イラク戦争に突入していった。

いわゆる、単独行動主義である。

しかし、その結果、イラクは泥沼の内戦状態に陥り、アフガン戦争も出口が見えず、イランは着々と核開発を進め、テロリストの疑いを掛けられた中東系男性への国際・国内法を無視した取り調べで、アメリカの威信は失墜してしまった。

結局、ブッシュ政権の終わりには、アメリカは、再び国連に戻ってきて、安保理を舞台にした外交に舵を切らざるを得なくなっていた。

唯一の超大国アメリカですら、国連を無視した、単独行動主義ではやっていけないのだ。

確かに、アメリカとソ連の冷戦時代、国連安保理は、両者の拒否権乱発で、全くの機能不全に陥っていた。

しかし、現在の国連は、その時代に比べて、今回の北朝鮮問題も含め、はるかに良く機能していると言うべきである。

そして、多くの国が、国連の力を評価しているからこそ、国連に加盟している。

それは北朝鮮自身にとっても、そうである。

だからこそ、彼らも、国連を脱退しないのだ。

国連の力を良く理解しているという点から見て、戦前の松岡洋右外相、石原都知事、自民の坂本本部長より、北朝鮮指導者の方が、国際情勢の分析力は上なのかもしれない。

日本人として、残念極まりない結論である(笑)。


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ミサイルと断定 ~ 麻生政権の外交的敗北

2009-04-11 00:09:41 | 政治
河村官房長官によると、政府は、北朝鮮が発射した「飛翔体」を、今後は「ミサイル」と呼ぶことにしたそうである。

その根拠として、予告発射時刻と実際の発射時刻の違い、人工衛星が確認出来ない、ロケットとミサイルの技術は同一、国会決議で「ミサイル」という言葉が使われた、などを挙げた。

意味不明である。

これでは、打ち上げに失敗したロケットは、日本の国会で決議すれば、すべてミサイルになってしまう(笑)。

本当のところは、迎撃命令まで出して、あれだけ派手に騒いだのだから、今さら、やっぱりロケットでしたとは、言い出せないということだろう。

詳細な検討は、防衛省による軌道解析を待つとしているが、飛んだコースとして、ミサイルか、人工衛星ロケットか、すでに結論は出ている筈だ。

軌道だけを見れば、このロケットは、人工衛星打ち上げ軌道に沿って、飛ばされた可能性が、極めて濃厚である。

弾道ミサイルならば、はるか上空、場合によっては1千km近くまで上昇して、再び地上に落ちてくるが、今回の高度は、それほど高くないようだ。

もちろん、実際に、人工衛星を積んでいたかどうかは不明である。

しかし、国際機関に人工衛星打ち上げの事前通告があって、なおかつ、その予告通り、ロケットが人工衛星打ち上げとおぼしき軌道を、飛んだのだとすれば、それを「ミサイル」実験と呼ぶのは、国際常識から外れている。

一番の問題は、麻生政権が、今回の打ち上げは、北朝鮮国内の引き締めが最大の目的であるという、金正日政権の意図を、見抜けなかったことである。

わざわざ事前通告して、世界が監視する中で打ち上げるのだから、弾道ミサイルの軌道を取って、さらなる制裁決議を招くようなことをする筈がない。

金正日総書記は、長年の国際的孤立による政権基盤の弱体化に加えて、健康上も重大な問題を抱えている。これ以上の国際的プレッシャーは、何としてでも避けたいのが本音だろう。

しかも、人工衛星ロケットとミサイルの技術は、表裏一体である。人工衛星として打ち上げるだけで、十分に、軍事目的は達成出来る。

実際、イスラエルやイランが「人工衛星」を打ち上げて、周回軌道に載せているが、それが軍事的成果であることは、全世界が承知している。

麻生政権は、北朝鮮の政治的現状を分析せず、ロケット発射を、日本への軍事的脅迫という文脈だけで捉えてしまった。

加えて、北が強行発射すれば、国際世論は、雪崩を打って日本に味方して、国連安保理で新決議を出せるだろうという、根拠のない、甘い見通しを持っていただけで、緻密な外交戦略を描いてなかった。

中国やロシアが一番怖れるのは、金正日政権の崩壊であり、それに続く、北朝鮮の混乱である。倒れてようやく復帰してきた金正日に、お灸をすえるようなことは、余程のことがない限り、避けたいと思うのが普通である。

今回の「ミサイル」騒動、麻生政権は、国際政治への認識不足を露呈して、外交的敗北を喫したと言わざるを得ない。

軌道分析に言及しないで、「飛翔体 = ミサイル」と断定するのは、国連での新決議実現がほぼ不可能になっている中、焦った日本政府による、恥の上塗りである。

麻生首相は、自衛隊を動かす前に、外務省を、もっと動かすべきだった。

事前の根回しをして、ロケット発射後、すぐに安保理を開催、北朝鮮に考える暇を与えず、即座に議長声明を発表。

それが出来ていれば、十分な外交的成果であり、次の発射への抑止力になっただろう。

イエローカードは、毅然とした態度で、即座に出してこそ、効果がある。

激怒して、出そうとしたレッドカードを周りの審判に止められて、すったもんだの末に、しぶしぶイエローカードを出しても、効き目は薄い。

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北朝鮮は崩壊しかけているのか

2009-04-10 05:51:52 | 政治
金正日政権は、崩壊しかけているのではないか。

最近のニュースを見ていると、そういう感を持たざるを得ない。

というのも、国内へのアピール以外には、何の意味もない大型軍事実験が多すぎる。

先日の「人工衛星ごっこ」にしても、肝心の弾頭が途中でなくなってしまったのでは、ミサイル技術の商業広告としても、大失敗である。

本当に人工衛星を軌道に載せて、将軍様の歌が全世界に流れれば、高度なミサイル技術をアピール出来たはずだ。

事実、イランは、今年の2月に、それに成功している。

だから、洒落にならない。アメリカが慌てるのも無理からぬ話である。

北朝鮮は、7月に予定されている韓国の人工衛星打ち上げに、先んじたかったのだろうが、世界に技術の未熟さをさらすくらいなら、やらない方がマシである。

韓国政府によると、打ち上げ費用は300億円ほどらしいが、それだけのお金を投入しても、各国の警戒感を強めただけで、政治的にも軍事的にも、北朝鮮にとって、何かプラスになる材料は、ほとんど見当たらない。

さらに、2006年の地下核実験も、多額の費用をかけて、何か核爆発のようなことが起こったらしい、という程度である。

高度な核技術を見せつけたわけでもないし、一度しか実験しないのであれば、そもそも核兵器を持つ意欲があるのかどうか、それさえ疑わしい。

しかし、逆に見れば、何百億円という金をかけて、馬鹿馬鹿しい軍事デモンストレーションを行わないと、国内の結束が図れないほどに、金正日政権の基盤が弱体化しているとも言える。

金正日総書記の健康状態が、ここまで悪化しているにもかかわらず、未だに後継者を指名出来ないことは、権力弱体化の一つの証拠である。

金正日氏にすれば、自分の寿命を考えると、出来るだけ早く後継者を指名して、権力の継承を行いたいところである。

実際、過去には何度か、そういう動きが表面化したこともあった。

しかし、金正日総書記がいくら後継者指名を望んでも、軍幹部が一致して賛成出来る候補者がいなければ、どうにもならない。

また、有力な軍幹部が、権力の世襲を嫌い、次は自分たちの中から最高権力者を出そうと密かに考えている可能性もある。

もし、彼の権力が盤石であれば、反対する連中を押さえつけて、着々とその人物の基盤固めを進めているはずだが、今回の最高人民会議を見ても、その兆候すらうかがえない。

喩えれば、源頼朝の息子で、鎌倉幕府第二代将軍の源頼家と、彼を取り巻く、北条氏を筆頭とする、関東武士団の関係である。

たとえが突飛すぎた。申し訳ない(笑)。

ただでさえ財政が厳しいのに、何百億円もかけて、無意味な軍事実験を繰り返す。

このお金は、金正日総書記にとって、軍部から、自分自身を守るための、安全保障費なのかもしれない。

自らの権力を固めるために、政権の軸足を、党ではなく、軍においた金正日総書記。その先軍政治の果てに、今度は、軍部から権力を脅かされ始めているのではないだろうか。

中国は、金正日政権が置かれている厳しい状況を、ある程度把握している可能性がある。

政権が崩壊して、無政府状態になれば、北朝鮮との国境に、大量の難民が押し寄せ、中国が大きな損害を被るのは間違いない。

国連安保理での新たな制裁決議に、中国が頑なに反対するのは、そのためかもしれない。

日本が備えるべきは、北朝鮮からの軍事攻撃というよりは、その崩壊による混乱の方ではないか。

最高人民会議。

代議員の前で拍手をする、げっそりと痩せた金正日氏。

その心中は、我々が思う以上に、苦しいのかもしれない。


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ミサイル防衛は、平和への道なのか

2009-04-07 02:39:54 | 政治
オバマ大統領は、5日、プラハで行った演説の中で、「核軍縮」に取り組む姿勢を明確にした。

一方、「ミサイル防衛(MD)」に関しては、イラン(そして、恐らくは北朝鮮)によるミサイルや核の脅威がある限り、進めていくとした。

オバマ氏は、選挙期間中から、ミサイル防衛構想に慎重な姿勢を見せていたが、プラハ演説でも、核軍縮への断固たる決意に比べると、一歩引いた表現となった。

これは、現在のミサイル防衛システムが技術的に未完成で、費用に見合わないという理由からだけではない。

このシステムが、核軍縮の妨げとなり、却って、軍備拡張を助長する危険を認識しているからだ。

アメリカの進めるミサイル防衛構想は、ロシアや中国から見ると、大きな脅威である。

自国が撃った核ミサイルは、すべて撃墜され、一方、アメリカから飛んでくるミサイルは、防ぎようがない、そいう事態を怖れているからだ。

核兵器による、死のバランスが崩壊して、アメリカが圧倒的優位に立ってしまう。

この恐怖の下では、アメリカが核軍縮を主張しても、ロシアは交渉に応じるはずがない。

同等のミサイル防衛システムを開発しつつ、そのシステムをかいくぐるミサイルを研究して、当面は、核ミサイルの数的優位を目指すだろう。

これでは、軍事費は増大する一方で、冷戦時代と同じである。

北朝鮮のロケット打ち上げで、日本でも、ミサイル防衛システムによる迎撃体制が、注目を集めた。

日本は核を保有していないので、国民からすれば、MDシステムは、純粋に自衛のための兵器で、他国の脅威になるとは、微塵も思わないだろう。

しかし、日本が、アメリカの核の傘に入っているのは、厳然たる事実である。

日本のMDシステムが強化され、在日米軍基地やアメリカ本土が、核攻撃からフリーになればなるほど、ロシアや中国が、より一層、軍備増強に走る可能性がある。

今のところ、このシステムは技術的に不完全で、実用段階と言えるかどうかも疑わしい。そのため、核バランスを壊すところまでは行っていない。

だが、今後も、日本が、MDシステムに大金を払い続け、その開発・改良が進んでいくと、不安感が増大して、本格的な軍拡競争が勃発するかもしれない。

さらに、北朝鮮のノドンは、到達時間が短く、迎撃が難しいため、在韓・在日米軍の脅威でもあるが、ロシアや中国が、北朝鮮のノドン保有を、一種の抑止力として、黙認する危険もある。

それは、日本の安全にとってプラスなのだろうか?

ミサイル防衛システムへの積極的な参加が、何をもたらすのか、もう一度、真剣に考えるべきである。


核の脅威、テロの脅威、そして、北朝鮮の脅威。

政治家や官僚は、国民に、さまざまな脅威を見せつけて、巨額の税金を、防衛費として使ってきた。

これは、アメリカの兵器産業を筆頭とする、世界の軍事産業に、巨額のジャパンマネーが流れ込んでいることを意味する。

しかし、軍事費が増えれば増えるほど、世界が不安定になり、平和が遠のいていくのは、歴史が教えるところである。

本当に平和を目指すのなら、核軍縮や緊張緩和を実現して、軍事費を抑制し、戦争や兵器によって利益を得る連中を、地球からなくすことが、最善の方法だ。

そのために必要なことは、国家が煽る脅威に、簡単には乗らないという姿勢である。

今回、政府は、日本を素通りすることが分かっているロケットに対して、「迎撃不可能」を「迎撃可能」と言い張って、破壊措置命令を出した。

さらに、迎撃ミサイルそのものによる被害を考えると、到底撃てないはずのPAC3を、秋田の市街地に配備して、大々的にマスコミに報道させた。

こういった実効性ゼロの派手なパーフォーマンスを繰り出して、首相を先頭に、政府を挙げて大騒ぎする。

北朝鮮へ恐怖、不安、憤りを感じる国民。

そして、その後、何千億円という税金が、防衛費やMDシステムに流れ込む。

平和に向かっているとは、到底思えない光景だ。


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