毎日500トンを優に超える水が、全炉心溶融を起こした原子炉に注入され、壊れた圧力容器と格納容器から漏れて高濃度汚染水となり、原子炉建屋、タービン建屋の地下やトレンチに溜まっていき、現在では10万トンに迫るまでに増大している。
汚染水の一部は、集中廃棄物処理施設などに移送しているが、容量が足りないため、すぐに満杯となり焼け石に水の状態である。
東京電力は、5月17日に改訂版「工程表」を発表し、「循環注水冷却」なる方式を打ち出した。タービン建屋地下の汚染水を「浄化」して再び「注水」するという。
穴の開いた格納容器を「水棺」処理する案と比べると、まだ現実的だと言う声もあるが、大きな問題を無視しているという点では、「水棺」と五十歩百歩である。
タービン建屋の地下やトレンチは、水を溜める構造にはなっていない。そのため、そこにある汚染水の一部は、土壌や地下水脈そして海へ、恒常的に漏れ出している可能性が高い。
従って、タービン建屋地下やトレンチに汚染水があることを前提とした「循環注水冷却」は、非常に無責任な発想である。深刻な土壌汚染や海洋汚染が、今現在起りつつあるかもしれないという危機感が圧倒的に欠けている。
さらに、汚染水の「浄化」に関して、政府・東電の統合本部は、アレバ社などが提供する処理設備が来れば、問題が解決するかのような話を繰り返しているが、これも現実離れした認識だ。
この処理過程は、油の除去、放射性物質のゼオライトによる除去、沈殿による除去、脱塩の四つに分かれているそうだ。つまり、それぞれの過程で、放射性廃油、放射性ゼオライト、放射性沈殿物、放射性塩という四種類の廃棄物が出ることになる。
四つの異なる廃棄物を取り外し・運搬・保管するためには、四種類の作業ラインが必要であり、それぞれが超高線量の放射性廃棄物であることを考えると、大量の人員による危険な作業が不可欠となる。
従って、この廃棄物の取り外し・運搬・保管が汚染水「浄化」の律速段階となり、全体の処理スピードは相当に遅いものとなる可能性が高い。また、作業員の累積被ばく線量は背筋の凍る速さで上昇するため、事故処理を引き受けてくれる日本の人的資源は、瞬く間に枯渇していくだろう。
「循環注水冷却」には、最低でも毎日500トン以上の汚染水処理が必要であるが、作業員の被ばくを抑えつつ、どうやってこのスピードを実現するのか、政府・東電からは何の説明もない。
結局、一番現実的で、一番やらなければならない仕事は、建屋やトレンチに溜まった汚染水を、出来る限りの量、保管能力のよりしっかりとした場所に大急ぎで移すことである。とにかく1センチでも水位を下げて、1トンでも汚染水を管理できる場所に移すことだ。水位に余裕ができれば、大雨にも対処し易くなる。
当然、大容量のタンクやプール、あるいは大型タンカーなどが次々と必要になるが、躊躇している暇はない。
しかし、事故発生以来二ヶ月以上が経過したにも関わらず、汚染水を収容するタンクの準備は遅々として進んでいない。それどころか、現実離れした「水棺」や「循環冷却」にこだわって、徒に人的資源を浪費している。
その間に、原子炉建屋地下、タービン建屋地下、トレンチ、さらには移送先施設地下にまで放射性汚染水が溢れかえり、いよいよ抜き差しならない状態に陥りつつある。
甘い見通しを繰り返しながら、どんどん事態が悪化していく。すでに福島第一原発事故は、間違った事故処理を続けた挙句の人災となっている。
<関連ブログ>
東電「工程表」はあまりに無意味 (2011/05/18)
「収束」できない原発事故 ~ 「排水」が管理できない (2011/05/01)
まずは放射性汚染水の発生ルートを調査すべき (2011/04/27)
「水棺」というほど穏やかではない (2011/04/26)
「除染」は放射性物質の「消去」ではない (2011/04/19)
東電「工程表」には「現場」という言葉がない (2011/04/18)
甘い見通しはもう要らない ~ 海洋汚染の監視強化を (2011/04/14)
原発の見直しは不可避 (2011/03/30)
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穴の開いた格納容器を「水棺」処理する案と比べると、まだ現実的だと言う声もあるが、大きな問題を無視しているという点では、「水棺」と五十歩百歩である。
タービン建屋の地下やトレンチは、水を溜める構造にはなっていない。そのため、そこにある汚染水の一部は、土壌や地下水脈そして海へ、恒常的に漏れ出している可能性が高い。
従って、タービン建屋地下やトレンチに汚染水があることを前提とした「循環注水冷却」は、非常に無責任な発想である。深刻な土壌汚染や海洋汚染が、今現在起りつつあるかもしれないという危機感が圧倒的に欠けている。
さらに、汚染水の「浄化」に関して、政府・東電の統合本部は、アレバ社などが提供する処理設備が来れば、問題が解決するかのような話を繰り返しているが、これも現実離れした認識だ。
この処理過程は、油の除去、放射性物質のゼオライトによる除去、沈殿による除去、脱塩の四つに分かれているそうだ。つまり、それぞれの過程で、放射性廃油、放射性ゼオライト、放射性沈殿物、放射性塩という四種類の廃棄物が出ることになる。
四つの異なる廃棄物を取り外し・運搬・保管するためには、四種類の作業ラインが必要であり、それぞれが超高線量の放射性廃棄物であることを考えると、大量の人員による危険な作業が不可欠となる。
従って、この廃棄物の取り外し・運搬・保管が汚染水「浄化」の律速段階となり、全体の処理スピードは相当に遅いものとなる可能性が高い。また、作業員の累積被ばく線量は背筋の凍る速さで上昇するため、事故処理を引き受けてくれる日本の人的資源は、瞬く間に枯渇していくだろう。
「循環注水冷却」には、最低でも毎日500トン以上の汚染水処理が必要であるが、作業員の被ばくを抑えつつ、どうやってこのスピードを実現するのか、政府・東電からは何の説明もない。
結局、一番現実的で、一番やらなければならない仕事は、建屋やトレンチに溜まった汚染水を、出来る限りの量、保管能力のよりしっかりとした場所に大急ぎで移すことである。とにかく1センチでも水位を下げて、1トンでも汚染水を管理できる場所に移すことだ。水位に余裕ができれば、大雨にも対処し易くなる。
当然、大容量のタンクやプール、あるいは大型タンカーなどが次々と必要になるが、躊躇している暇はない。
しかし、事故発生以来二ヶ月以上が経過したにも関わらず、汚染水を収容するタンクの準備は遅々として進んでいない。それどころか、現実離れした「水棺」や「循環冷却」にこだわって、徒に人的資源を浪費している。
その間に、原子炉建屋地下、タービン建屋地下、トレンチ、さらには移送先施設地下にまで放射性汚染水が溢れかえり、いよいよ抜き差しならない状態に陥りつつある。
甘い見通しを繰り返しながら、どんどん事態が悪化していく。すでに福島第一原発事故は、間違った事故処理を続けた挙句の人災となっている。
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