太陽光発電シニア

太陽光発電一筋、40年をはるかに過ぎたが何時までも興味のつきない厄介なものに関わってしまった。

重苦しい仔鹿物語

2021-04-02 07:59:56 | 日記
 偶然NHKBSで「仔鹿物語」を見る機会があった。原作は第二次大戦が始まる頃1938年にアメリカで出版された児童文学作品である。映画は1946年だから戦争直後に公開された。誰もが子供の頃見た映画やアニメで微かな記憶があるだろう。森を切り開いた小さな農場で暮らす貧しい親子3人の家族を中心に描かれている。この家族が偶然仔鹿を飼うことになり少年とこの仔鹿の触れあいを通じて子供の心の成長を描くという厳しいが心温まる物語である。
 記憶を辿れば初めてこの物語に接した時は大人になって行くことは大変なことだと少年の立場で考えていた。母親は貧しい農場生活の中で幼くして我が子を亡くした経験がトラウマになり、一人息子になってしまった少年に愛情の注ぎ方が分らず逆に厳しい態度で臨む。貧しさもあり笑顔を見せる場面はない。父親は息子と仔鹿の成長を見守りながらも折角育てた苗を何度も仔鹿に食い荒らされたり暴風雨で農作物が壊滅することがあっても何度も次はとやり直す忍耐強い男である。しかしある日母親は仔鹿が何度も苗を食い荒らすことに耐え兼ね銃で撃ってしまう。子供はわざとやったのでは無いと必死に仔鹿を庇うが父親は子供に銃を渡し苦しまないようにお前が始末してやれと命令する。母親ばかりか自分を理解してくれていると思った父親からも裏切られたと思った少年は農場を飛び出す。父親は少年が大人になって行く過程で悲しみや苦しみといった困難が待ち構えており、人はそれを乗り越えて大人になって行くと教えている。ラストシーンでの微かな微笑みを見せる母親の姿は印象的である。
 児童文学作品を大人になって読んだり見たりすると全く違った観点に気付く。悲しい過去に心を閉ざしてしまった母親、何度困難に見舞われても再び立ち上がる父親、悲しい経験の中にも未来の希望が託されている少年と三様である。戦争前後に書かれ、作られた作品であるが時代背景を思えば登場人物や仔鹿がそれぞれ深い意味を持っている。
 振り返って、自分も人並みに苦労や困難を経験してきたと思うが果たして今の平穏な生活はそれらの代償だろうかと考えてしまう。母親ほどの苦労はしていない、父親ほどの勇気は持ち合わせていない、未来を描くには年を取り過ぎた。経験から勝ち得たものなど何もないのではとふわふわ生きているこの頃を重苦しく思わせる映画であった。