ゆっくりかえろう

散歩と料理

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憑物 4/6

2011-09-20 | フィクション

 「さあどうぞ」
 ベントレーは古い洋館についた
 車を降りて門まで歩き出す

 もとは立派だったのだろうが 手入れされてないようなくたびれ方と
 昔の古い石材は いまの建築物にはないすえた匂いがした

「あのー ここって病院でも医院でもないですよね」
不安になってきいてみた

「ああ ここは医者の自宅です」
「昔はここでも医院を開いていたんですが 別に病院を建てたんで
 本院はそちらに移りました」

「今でも医療機器や診察室は残してあります」
玄関には立派な表札と 昔の看板が残っており 静かながら威厳のある建物が
昔をもの語るようだ

「どうぞ お入りください」
立派な門に着く なんとなく入りにくい 家の中には人の気配がない

ほかの住人はどこへ行ったのだろう

「あのー このお宅の持ち主は留守ですか」

「私が主人です」 「私が一人で住んでいます」
紳士は意外なことを言った

「えっ 他人のじゃなく あなたのお宅なんですか?」
「さっきは持ち主がほかにいるとおっしゃったじゃないですか?」

「話が読めないのですが ちゃんと説明していただけませんか?」

俺は不安を隠せず聞いてみた 
まさかこの都会で誘拐もあるまい

ましてこんな中年の安サラリーマン二人 誘拐するにも身代金なんて
払うものはいないし 臓器を取り出すにしても くたびれたパーツでは
商品価値がない
どんどん悪い想像が膨らむが いくら考えても見当がつかない

ふと一緒についてきたサラリーマンも同じように思ったのか不安を隠せない様子だ

「まあまあ とにかく詳しいことは説明しますから お入りください」
そんなことをいわれても怪しすぎる 思いっきり怪しすぎる
二人とも躊躇していると

「あなたたちの為になることです」
「先ほどあなたが倒れた理由と 体から出た黒い霧のことをお話します」

えっ あれって夢じゃなかったの? 俺が見たのはマボロシじゃないの?
驚いた顔は俺だけじゃなく 隣のサラリーマンも同じだった

「!!」
思い出したぞ

気の弱そうなサラリーマンの顔を見ていると 
あのとき俺の隣に座って牛丼を食ってた
あの 迷惑そうにしてたあの顔 彼だ!

紳士はさらに続けた
「あなたが奥さんに別居を言い渡された理由と その本当の訳もお話できるんですが」

??!
なんで知ってるんだ 今朝のいや 夕べの夫婦の会話まで
俺が離婚されそうになっていることまで・・・

「こんなところで立ち話もなんですから お入りください」
「さあ さあ」

いり口はもと病院らしく ガラス製の自動ドアだったが 電源が入っていなくて
鍵もかかっていたが 鍵を開け柱の隅の電源スイッチを入れると ドアはのろのろと
あき始めた


二人が案内されたのは 今は客室になっている大きな待合室
趣味のいいソファーと低いテーブル 掃除は行き届いているが やはり古さは隠せない
大事に使われているのか 傷や剥げはないが退色は否めない しかしそれが一種の味になっていた

コーヒーか紅茶が出てくるかと思ったら ぺリエのボトルが三つときれいな赤い切子のグラスが出てきた
「湯を沸かす時間が惜しいですから これでのどを湿らせてください」
「グラスを使わず 直接瓶から飲んでいただいてもけっこうですよ」

「最近の若い人は きれい好きの人が多いですから」

俺は若くもきれい好きでもないと苦笑しながらも
いやいやもしかしたら グラスに毒が塗っているかもしれないし・・・

猜疑心が取れない二人への配慮なのかも

テレビのサスペンスでも こんな安っぽい展開はないと思うが

「まだお互い名前を名乗っていませんね」
「そうですね」
社会人として恥ずかしいことだ

この人の名前はわかる 玄関の表札を読んだからだ
表札には二人の名前があった

石原高志と神田太 この二人がどういう関係なのか
なぜ二人分の表札があるのか 詮索はしなかった

「どうも神田です 名刺はきらしてます 」
そうか神田さんの方か・・・・

「私は井田です あの牛丼店の前のビルに勤めています」
俺はさらっと簡単に自己紹介した

「遠田といいます 私も同じビルに入っている会社にいます」
「ハケンですけど」
気の弱そうなサラリーマンも同じような自己紹介をした

どうやら彼も俺と同じビルにはいった 別の会社の派遣社員らしい

「早速ですが これを見て下さい」
紳士が差し出したのは 一台のコンパクトデジカメだった

「あっ !このデジカメ あのときのですよね」
 私より先にもう一人のサラリーマンが気がついた

 「あの店で僕たちを撮影した・・・・」
「?」
 「あなたがあの時カメラを使った人なのですか」

 そうなのか 俺はどんなカメラかよく見ていないからわからないが
 あの時フラッシュが光ったカメラなのか

 「見てほしいのはこれです」
 カメラを裏返すと 何か動くものがいる
 いや居るというのは正しくない 
 動画なのだから 撮影されていると言うべきだ

 そいつは青黒く 薄汚く手足が異常に細長く 折れそうなくらいだ
 頭は小さく毛は長いが禿げ上がっており 落ち武者のような髪型
 人間であるならだが

 背は小さいのに腹だけは異常に膨れ上がり はだかんぼうだ
 ぎゃ ぎゃ とかひゅっ ひゅっとか音が出る
 画面の端から端まで走り回り 飛んだりはねたりする

 なんとも嫌な 気持ち悪い動画だ
 「ケケッ ケケッ」
 気味の悪い声で鳴く 

 「気持ち悪いアニメですね」

 「いえ アニメじゃなく実写というか 実物というか・・」
 説明は曖昧になる

 「いいですか よく聞いてください」
 急に顔を寄せて小声で神田氏は話しだした

 「これは 写っているのじゃなく この中に閉じ込めてあるんです」

 「はぁ?」サラリーマン二人は目を見合わせる
 「こいつはあなたの体から取り出したものなんです」
 
 「なんですって?」



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