世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

ウメ

2022-04-28 04:59:43 | 花詩集

それは春とは名ばかり
風にまじる氷がまだ針のように頬を刺す頃
何があったのか
庭園の梅の木の下で
少女は泣きながら
恋人の不実をなじっている

彼はやさしくないのよ
こんなに私を傷つけるんだもの

年を経た梅の木は
こまやかな枝の先々の紅の粒を
ぽちぽちと裂きはじめた
すると澄んだ香りが
薄絹のようにひるがえって
少女の肩をそっと抱いて ささやくのだった

お嬢さん
男というのはね
ごめんという一言が言えないために
百万倍のむだな苦労をする生き物なのさ

梅の木のそのささやきが
彼女の心に届いたらいいのだが さて
不謹慎だとは思ったが
傍らで聞いていた私は
笑いをかみ殺すのにひとしきり苦労した
やれやれ

いつの世も
女の苦労の種は
変わらないんだなあ



(花詩集・9、2004年2月)




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