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昔ぃ、子供の時にぃ児童世界文学全集 って言うのが有りました。
全集購入すると、多分。 当時の価値で、数千円。
勿論っ うちの家はぁ、可也な貧乏。
全巻揃えて買ってもらえる筈も無く、本屋さんでいっつも立ち読み状態。
小学校の帰り道に、寄り道してのね。
学校の図書館にも 随分とお世話になりましたが、兎も角 古い本ばかり。
借り出してページを捲ると、数頁にわたって 無くなっていますねん。
物が無いのが、当たり前の時代。
綺麗な服も 新しい靴も、無いのが当たり前の時代。
お腹も 満足しない時代。
寒くって暖かさを求めても、我慢の時代。
世の中がまだまだ、戦争を 引きずってますねん。
当時は。
「ボクぅ。本見るとが 好きかぁ 」 少し白髪まじりのおじさん。
「うん。好きとぉ 」
「何が 良かとね? 」
「読んどったら忘れるけん 良かとよ 」
「何ばね? 」
「色々たいぃ 」
「ほぉ! 」
当時。 マーケットといってわぁ、名ばかりの青空市場。
その市場の中の、少しましな店舗を構えた 本屋さん。
雑誌 カストリ誌 米軍払い下げの英字新聞。
戦時中の 訳の解からない、宣伝チラシ類。
戦前の ガリ版刷りの同人誌。
何もかもが、ゴッチャマゼの展示販売。
「ボクわぁ 本見ても買わんとね 」
「 ・・・・ 」
「あ!ぁ、よかよ。 見ても ・・・・ 此処に座れ! 」
傍らの、古本数十冊を、縄で縛ったん指で示した。
「おっちゃん、おまえをぉ毎日みてたら 想い出すけんぅ ・・・・ 明日も来んね 」
「 ・・・・何ばね? 」
「息子たい ・・・・ 八つやったとぉ 」
「 !・・・・ふぅ~んぅ 」
「 ・・・・ 」
当時の子供なら、こんな会話で 直ぐにピンときますねん。
おっちゃん。子供ぉ 戦時中に空襲で、って。
「これ、食べんね 」 差し出す。拳骨みたいな 吹かし芋。
「よかとぉ! 」
「よかよぉ 食べんか、冷めんうちに 」
「うん!っ 」
天国!。 物を食べれて、好きな本 読める!
店の前を 同級生が通る。不思議そうに こっちを見ながら。
芋ぉ、隠すようにして食べました。
ある日。
学校帰りの本屋さんに。
何人もの、厳しそうな顔した、警察官。
それに囲まれてるようにして、薄汚れた作業着姿の、労務者。
その両手の手首に、手錠を嵌められていた。
腰縄も、打たれていました。
本屋のおじさん。 俯いてました。
眼つきの悪い 刑事みたいな人が、何やら質問。
時々、俯いたままで 周りを観ていました。 おじさん。
暫らくして、眼が合いました。
来るなっの、目配せ。
走りました。
慌てて。
後ろを振り向くのが、恐くて、怖くて。
背中で、教科書や筆箱が、騒がしい音。
暫らくして どうなったのか、様子が気に成り見に行くと。
本屋が跡形も無く、そこだけが、黒い地面剥き出しの、空き地状態。
周りの大人が集まって、密かな会話。
「これ、ボクにやってくれって 」
「ぇ! 」
「本屋がたい 」
本屋の隣の、肉屋のおじさん。 両手で持ってはった。
文学全集の中の、一番 気に入っていた本。
受けとると、限りなく、重たかった。
生まれて、最初に手に入れた、真っ更な本でした。
その日の夜中に、暗い 裸電灯の下で。
布団の中で。
声を堪えて、泣きながら、本。
読みました。