【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

ながいながぁいぃ キッス

2009年03月03日 17時15分13秒 | 無くした世界 


   (画像はイメージ)




午後の太陽がビルに重なるように輝いてた。

此の頃は自分。睡眠不足が当たり前だった。眩しさをこらへ見上げていた。

機械仕掛けの赤色信号灯が青に輝いたので歩きだした。

日頃の夜更かしで躯はダルク疲れきっていた。


ボロいアパートで休ませもしないで街に出てきたことを後悔しながらでした。


当時、世話になっていた深夜倶楽部。

店内改装の為に営業を暫く休むことになった。

バブルが弾ける前の、稼ぎ時には珍しく、マトマッてとれた休日の最初の日だった。


サッキ、横断歩道の向こう側で俯いて佇んでいたのがアイツだと気づいたとき。

ゼブラの道を渡らずに此のまま引き返そうかと想った。

アイツの顔が急に上向き、視線が此方にと向けられた。

昔の見慣れた眼の表情じゃぁなかった、少し変わったような気がした。

        眼差し。

だから自分気づかれたと。 知らんフリして渡るしかなかった。

タブン。お互いにそぉすると想った。


横断歩道の真ん中あたりだった。

アイツが素知らぬ顔してすれ違い、其のまま行こうとしたので咄嗟にアイツの腕をとってしまった。


「元気にしてたんかぁ」 ツイ想わずがなでした。


アイツ。チラリとも此方を見ようとしなかった。 後悔し掴んだ腕を放した。

何事もなかったかのように背中を見せ、歩いてゆく。


歩き始めると知らない人の蔑んだうすら笑いとすれ違った。

背後で信号が変わり、同時に何台もの車が動きだす気配を感じた。


突然。後ろの方で急ブレーキの音とクラクションが喚きだした。

直ぐに車の運転手だろう、誰かを怒鳴りつける声がした。

振り返りもしなかった。


道路の向こう側、舗道を遠のくアイツの後姿なんか視たくもなかったから。


気晴らしと眠気覚ましに珈琲でも啜ろうと、馴染みの喫茶店に入りかけたら肩を掴まれた。

肩越しに振り返ると、ショルダーバックが顔面メッがけて振り下ろされようと。


咄嗟に背中を丸めた。肩甲骨にバックの角が減り込んだ。


「あんたっ!ナンで手ぇお放すんよっ!」

「ぉっ前ぇ・・・・・ 」


背中の痛さで声が続かなかった。


「放すんやったら、ナンで摑まえるんよぉ!ァホォ!」


ナンにも応えづに茶店の自動扉の前で、痛みを堪える為にツッ立っていました。

目の前で両開きの硝子の扉が、開いては閉じてを繰り返してた。

何回目かの開け閉めのあと、茶店のマスターが出てきた。


自分の肩越しに後ろのアイツに声をかけた。


「〇〇チャン久しぶりやなぁ。元気にしてましたんかぁ」

「ゲンキになんかしとらんっ!」

「ォッ!元気やがな。コナイナとこでナンやから入って茶ぁでもシバカンかいなぁ」


ァイツが背中を押したので暗い店の中に入った。

照明落とした暗さに慣れるまで、ふたりとも口を利かなかった。


「ホレ、ブルマン。店の奢りや、気ぃよぉ飲んだってかぁ」

「スミマセン○○さんぅ、ゴメンねぇ」


アイツ少し落ち着いたのか以前のもの言いでした。


「えぇがな。 アンタ随分見ぃひん間(マ)ぁにエライ別嬪ハンにぃなったなぁ」

確かに綺麗になっていた。あの時、別れる前は若さ任せの可愛いさだった。

今、目の前でカップの珈琲啜ってるアイツは、大人の女になっていた。


「どぉなん?」

「ドッどぉって?」

「シッカリ生きてましたんかぁ」


「マッまぁ・・・・」


「アンタぁ、未だ足ぉ洗ってないんかぁ?」

「ぁッあぁ、未だ首までドップリ浸かってる」


「居るん?」

「ナンがや?」

「誰かとイッショに居るん」

「独りぃや」


それから暫くふたりとも何も喋らなかった。


時々、アイツと自分の珈琲啜る音と、皿にカップを戻す音がしてた。

最近封切られた伊太利亜映画のサラウンド盤が静かに流れてた。

上目づかいにアイツを視ると、アイツもカップの縁越しにコッチを観てた。


お前へはナンでソナイになぁ・・・・・・

ッテ。今まで幾度となく想い知った後悔の念がまた湧いてきた。


「ぁんたぁナンでウチのことぉ訊かへんのぉ・・・・・」

「・・・・ナニぉ訊くんや 」


再び静かさが。自分、息苦しさを感じ始めていた。


「あんたぁ、変わらへんわぁ」

「ナッなんがやねん?」


「鈍感ぅ」


アイツがあの時、最後に部屋から出て逝く時に言い放った言葉でした。

自分。此処が勝負時やと想いましたから言いました。


「ホンナラ変わってた方が良かったんかっ!」

「ェッ!」

「ワイが変わってしまってた方ぉが、よかったんか!なぁ?」

「・・・・・いぃやぁ」


「ワイ。イッパイ後悔しましたがな、イッパイっ!」


自分、チョット怒鳴り気味でした。店の奥からマスターの咳払が聴こえてきた。

静かさが再び。もぉぅコンナ状況は堪えて欲しかった。


「ウチぃなぁ、結婚してたんやでぇ」

「知ってる」 ケドなぁ・・・・・


「シテタ」 ってどぉゆうことやねん? ット心で。 

「マサカ」 っとも想いました此の時。


ナンかを訊きたかったけど、聞けませんでした。

ドンナ風に聞けばよかったんだろうと、今でも想うことがあります。


「何処に行くつもりやったん?」

「ドコニって?」

「サッキ歩いてたやんかぁ」

「久しぶりに映画ぁ観よかぁ想ぉてたわ」

「そぉなん・・・・・そぉぅ」


ぎこちなさの天使が辺りに居座ってるわぁ!

誰かぁドナイかしてくれんかぁ・・・・・・ツクヅクやった。


「ぁんなぁ」 


一緒にぃっと言いかけたけど、アイツが急に立ち上がった。


「チョット電話してくる」


店の入り口辺りの公衆電話まで歩いて行く後姿。

あの時のアイツの後姿とダブって見えた。

モットも、着ている物が昔と違って高級やった。

仏蘭西映画の秘書役の女優が着るような、タイトなスーツ姿やった。

右肩から提げた茶色のバック。ブランドなど無関心な自分が観てもケッコウな代物だと。


「えぇケツぅしてるなぁ○○チャンぅ!」


いつの間にか近寄ってきてたマスター。 銀盆抱くようにして、ツクヅクとした頷きやった。


「エッ!」 釣られて目が遠のくアイツの尻に。


銀盆にアイツと自分の空のカップを載せながらの前屈みで、ワイの耳元に囁くように言ってきた。


「チィフ、逃がしたらアカンでぇ。アナいな娘(コ)ぉ滅多とおらんさかいな」

「ソッそんなんとチャイますわぁ!」

「茶ぁ、冷めてもたやろ。淹れかえたろ」

「もぉぅえぇですわ、出ますさかいにぃ」

「ナンや、もぉ帰るんかいな、モット居ったらえぇがな。なっ!」


アイツを見ると、受話器を肩に載せコッチを観ながら話していた。

開いた手帳にナニやら書きこんでいた。


「そぉや!チョット待っとり。帰ったらアカンで、帰ったら!」


黒色の前掛けを外しながらでした。

ッで、店の奥に向かって言いました。


「ぉい。チョット出るさかいな!」

「出るってあんたっ!何処いきますの」

「チョットや、チョット!」


マスターが飾り窓の外を横切りながら、走って行くのがみえた。


「もぉぅあん人ぉ、ドナイしましたんやろねぇ?」


新しいく淹れなおした珈琲を持ってきた奥さんが。


「女将さんぅ、スミマセン」

「ぃいんよぉ、なぁんも気にせんといてぇ」


「○○ちゃんぅ、綺麗になりはったなぁ」

「ぅッうん。そぉですなぁ」

「そぉですなぁッテあんた。ひとごとみたにぃ言わんときんかぁ」


女将さん、モット何かを言いたそうだったけど、アイツが戻ってきた。


「新しゅに淹れてくれたわ、飲もか」

「すみませんぅ、御馳走になりますぅ」

「えぇんよぉ、ゆっくりしてってなぁ」


「何処に電話したん。って訊かへんの?」

「関係ないわ」

「ふぅ・・・・・んぅ」


また暫く互いに黙りこんで、珈琲ぉ啜っていました。

店の自動扉が完全に開く間もなく、マスターが息を切らせて戻ってきた。
 

「ジッ時間がないさかいな、此れもって早ぉ行ってき!」


少し離れたところにある、映画館の入場切符が二枚、目の前に突き出された。

息が切れかけてるせいか、切符の端が微妙に震えていた。


「たいしょぉ・・・・・・ナンでぇ?」

「今な、伊太利亜の刑事ちゅうリバイバルの映画が上映されてるんや。次の上映がもぉすぐ始まるんや」   


奥から出てきた女将さん、旦那がナニをしようとしたのか悟ったから言いました。


「アンタら、サッサト往ってきぃ」 


「早ぉ行こぉ」 


アイツが眼ぉ伏せ、立ち上がりながら言いました。


「ソッそやなぁ、えんりょしたら失礼やもんな」

「おぃ、切符をもっていかんかいなぁ ァホ!」

「ぁ、どっどぉもすみません。頂きますわ、おぉきにっ!」


アイツ、店を出がけに振り返り、腰を深く折った。

自分も同じようにしました。


日差しも傾き晩かったけど、外は眩しさがイッパイに満ちていました。

それよりも自分。モット心が眩しさでイッパイに為っていました。


「ぁんなぁ、サッキ電話でなぁウチに連絡したんよぉ」


急ぎ足で歩きながらやった。


「そぉかぁ」

「ウチぃ今なぁ、他所で住んどってなぁ、今日なぁ実家に帰るとこやったんよぉ」

「そぉかぁ」

「モッと他に言いようがないんねぇ・・・・・・アンタぁ変わってへんわぁ!」


横目で並んだアイツの横顔を盗み見た。

目尻から頬にと涙が垂れていた。

マスカラが溶け込んだ少し墨色をした濡れ方やった。


アイツ。急に立ち止まり訊いてきました。


「ウチぃ、帰りが遅くなるってゆうたんやけどなぁ、えぇかぁ?」

「えぇも悪いもあるかっ!セッカクこないなことを仕込んでくれた女将さんと旦さんに悪いわっ!」


自分。歩みを緩めずに肩越しに言ってやりました。


「そぉ!人の為なん。 ならウチ帰るわっ!」


アイツ。もと来た道を走って戻りだした。自分、慌てて追いかけました。

ビルの角を廻り込もうとして、向こうから来た人とぶつかった。

ショルダーが吹っ飛び、中の化粧品の小瓶やナニかの書類みたいな品など辺り一面。

舗道の敷石の上に散らばった。


アイツ。蹲って声を堪えるようにしながら泣きだしました。

自分追いつくと、ぶつかった人に詫びながら散らばった品々を拾いはじめた。


「えぇがな。それよか拾うんてつどうたろ」

「スミマセンぅ」

「にぃちゃん、女ぁ泣かせたらアキマヘンがなぁ」

「ぇっ!ぁ、ソッそぉですな」


暫くして、拾うために丸めた背中を軽く叩かれた。


「ぉい、これ」


手渡されたので観ると、役場の書類控えの写しでした。

離婚届の提出日。一昨日の日付やった。


「此れぇ・・・・・・」

「にぃちゃん事情は知らんし聞きとうもないけどな、泣かすなや」

「ぅん。ァッ!ハイ。ぉおきにです」


拾い集めた品をショルダーに戻しながら、ビルの陰で蹲るアイツを観た。

通り過ぎる人が、女を泣かせてドナイしよるんや。ドアホっ!

皆さん。非難の眼差しで通り過ぎてました。


アイツの腕を掴んで立ち上がらせた。

「スマンかったな」

「ウチが勝手に騒いでるんやから、謝らんでもいぃわ」


アイツ。掴んでる腕を振り解こうとしたけど、放さんかった。


「痛いっ!わ。強く握らんといて」


映画館の方に引っ張って歩こうとしたら、アイツ必死で踏み留まろうとする。

仕方がないから腕を掴んだまま、その場で言いました。


「なっ聴いてくれ」

「知らんっ!」

「知らんでもえぇさかいに聴いてくれ」


アイツの耳元で怒鳴って言いました。

掴んでる腕を強く振りながら言いました。


アイツ。急に腕の力を抜きおとなしくなりました。

マジマジとワイの顔を見てきた。


「あんな、ワイお前と映画を観たいんや」

「ワイの為に、イッショに並んで座ろ」


「知らん」


聴こえるかどうかの小さな声でした。


「昔ぃ言えへんかったけどな、一緒になろ」



「ホンマなん?」



アイヅがイッパイやった。ワイはもぉ堪らんかった!

首に抱きついてきた。

自分コンナ所でとウロタエ、力任せに引き離そうとした。


「離さんといてなぁ。もぉぅ絶対離さんといてなぁ!」


自分の頬っぺた、アイツの涙で濡れてしまい滑ってました。


「わかった、わかったさかいもぉ放してくれ」

「キスしよぉ」

「ナッなんば言いよっと!」


自分。人は追い込まれると、生まれた処の言葉が出るもんだと。

初めて経験しました。


「ウチの為にしよ」

「にぃちゃん。したらな男とチャうでぇ!」


何処にもい行かずに残っていた、サッキぶつかった人が笑いながら言ってきた。


ながぁいぃキスやった。


今までにしたこともないキスやった。

往来で、人さんの前でキスをしたん後にも先にもこれっきりでした。

いまだにありません。





コナイナお話しにお付き合いくださり、ありがとうございます。

感謝っ!




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