【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

おとなになろうとした

2007年07月21日 01時03分59秒 | 無くした世界 
  



十七の冬 大人に為りたくて仕方がなかった
だから気分だけでもと 大人の真似をした 


土曜の晩に 親に隠れて煙草を吸った

吸い方は知りもしなかったけど ただ 粋がって闇雲に吹かしてた 
勿論 勢いよくと胸の奥になんか トテモトテモ・・・・・

それでも 頭の中の何処かが 麻痺したようになっていた
煙草を燻らすとか 味を味わうとか そんな余裕なんかなかった

閉め切った部屋の中に 想ったよりも煙が漂ってしまった
煙を逃がすために窓を開け放った

暖かかった部屋の空気は 吹き込む風で煙と共に渦巻いた
慌てゝ窓を閉めると 冷たい空気で一杯に為ってしまいました 

一番初めに買った煙草は 十本入りのショートピース
最初の一本 唇尖がらせてスーハースーハー っと煙を吹かすだけだった

鼻から煙を出せたのが チョット新鮮な感覚だったけど
煙たくて 涙目になった

それだけでも口の中の粘膜 嫌さな味がしていた
だから大人な一歩 初体験の感想は なんとも言いようが


十本入りの小さなショッポの箱 折り蓋閉じ

 もぉぅやめようか・・・・ 

暫く つくづくと掌の白いショッポの箱 見つめてた
自分 後悔じゃぁない何かを飲みこんでた

だけど自分 大人なんだからと閉じた蓋あけ
銀紙開いて 二本目指先でつまんだ

ようやく喉の奥深くへと吸い込んだ

直ぐに肺が煙にやられてしまい 暴れだす
喉も気管支もが 狂ったように騒ぎ出した

我慢しても咳が止まずにつづき 煙が上がる煙草持つ指先
必死で躯から遠ざけようと 腕をあげていた
引き攣るように咳をすると 頭に灰が降ってきた

肺は煙に溺れ 気管支はニコチンで爛れ
粋がる気分は 悶えながら悲鳴をあげていた

躯の芯から苦しさがで背を曲げ 咳する躯は熱もち暑かった
息苦しさは旺盛で 止め処ないかとナ喘ぎは
目蓋瞑りながらの涙目にしてくる

苦しかったけど 大人な気分になった

だけど胸の心は咎め 気持ちは醒めていってた


部屋の中 外と同じ冬の寒さが満ちてた



明くる日の夜 生まれて初めての飲酒を試みた

国産ウイスキーの ポケット瓶のアルミの螺子蓋切るときの手応え
大人な感じなんだと 錯覚してた

指先で摘んだ小さな蓋に 小瓶の中の琥珀色の液体 零れないようにと注ぎ
学校サボッテ悪友と観にいった 西部劇映画の酒場の場面想い出し

顎を咄嗟ナ感じで上げ 蓋に注がれたウイスキー
喉の奥にと放り込むように 呷った

飲み込むと直ぐに 喉が火傷かと思ってしまった
息を吸うことができずに 死ぬかと想ってしまった

鳩尾辺りの腹の中に 其れまで感じたこともないような高熱が生まれた
ためた息吐き出すと 自分の躯の中のなにかが抜けるような感覚がした

その日の夜は それ以上飲めなかった

眠ることだけが 大人の世界から自分を救うことができた


或る日の夜

親と離れて暮らしてる連れの家で
騒ぎ友達な悪友が集まり 大人な真似事に耽った

夜半過ぎに 近所からの通報で駐在所のお巡りさんがやってきた

仲間の一人が急性アルコール中毒で酔いつぶれていたのがバレ
駐在の連絡でやってきた救急車で 何処かに運ばれていった

明け方に親父が 警察の本署まで自分の身柄を引き取りにきた

自分 まともに親父の顔が視れなくて俯いていました
それでも 親父が何度も頭を下げて謝っていたのが分かった

家に帰る道々 何も話さなかったです
自分 親父の後姿を見ながら歩いていました


家の玄関扉の前で 親父が初めて振り返りました

「酒ば飲んで煙草ば吹かすとやったら お前も大人たい 気張らんかッ!」

自分 涙が溢れてしまいました

うんうん って頷くだけしかできませんでした


大人になった気は 今でもしませんけど
自分の躯の何処かで

「もぉう馬鹿ばしたらいけんッ!」

っと叱る声が微かやけど 今でも聴こえてくるような気がいたします


自分 人は覚えてしまったものは習慣になってしまうって
そんなことは簡単なんだって 大人になる前に解ってしまいました