【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

なに思う 君想う

2006年07月16日 03時24分59秒 | 無くした世界 

【 初心 】

今日みたいな、夏の終わりの様な嵐の日、色々な事を振り返ってしまいますね。
それも。あまり想い出したくも無い事をです。
何だかなぁ、想い出してもどうしようかと。

でもね、少し話してみましょうか。
少しだけね。


昔ぃ、未だわたしが若かった頃のお話しです。

そのころはね 今の時代みたいにね。
何処ででも話せる携帯や、自分で所有してる自動車なんて無かったしね。
あっても少しの人だけですよ。
お互いの連絡は自宅の電話か、公衆電話。
何処かに移動するにはバスか電車。近場は自転車かな。
もしも遠くに離れたら、お手紙。かなぁ。

そんなね、今なら不便極まりない時代。



あのね、此処にね、一人の若者。居たとしましょう。
この若者。あんがい、奥手。ぅん?ぁ~!オクテってね。未成熟なって意味。
初心(うぶ)ともね。
若者、恋をしました。うら若い乙女に。

娘に恋をしてその日から、若者の観てる 周りの世の中が薔薇色に!
でも。時々。ストンって落ち込みます。
訳も解からずに。どうしようもなくです。
何故って、恋の駆け引きなんて生まれて此の方 した事ないから。

勿論、娘の方もですよ。

薔薇色に観えていた世間がね、真っ暗な闇もあるって、そのころすでに、お気づき。
それで若者。ある意味、早熟。ある部分がね。意識のね。

初めてお互いを意識し始めたのは、若者が娘と出会った場所。
とある小学校のね、職員室。そこでね、娘はね働いてました。
うん?いいえ。教師じゃぁないですよ。
娘さん。未だね、16才。学校職員(事務仕事)ですよ。
お昼は働き、夜に学び舎に。定時制のね。当時は夜間高校って、いってましたかね。

夏休みで学校にはね、生徒も先生もいません。
校舎が静かに佇みます。人がね、殆んど居ない学校。不思議な感じ。

暑い昼下がりのある日。そこの職員室にね、1人の若者がある仕事で訪問。
たまたま可愛い若い乙女が応対。若者さん、この娘にコロリとね、マイリマシタ。
まっ、無理も無いことで。若者、それまでの環境が周りに男ばかりの環境。
異性と知り合う、出会うチャンスなんか、滅多となかったからね。

だから、恋をですよ。初めてのね。
娘に抱きます、仄かで淡い 恋心を。

若者 仕事が終わって嫌嫌愚図愚図と 仕方なく帰社。
でもね、心が落ち着きません。頭の中で恋する彼女が 悶々と、だから。
何故に、何か話を出来なかったのかと、意気地無しな自分がと。責めます。
ここで、ここでです。普段なら、ここで挫折。

でもね、何故か。心の奥の何処か。その深い処から不思議な何かが。
今まで感じた事も無い、何かの力がね。
今までとは違った行動をね、若者に執らせます。
直ぐに近くの公衆電話まで(勿論。会社にも電話、ありますけどね)
兎も角、外からと。自転車のペダルを漕ぎました。

仕事着の背中を汗で濡らし、自転車で公衆電話ボックス。
ボックス、扉を開くと熱風が。顔に。

夏。真っ盛りの太陽。昼下がりのね。
ガンガン照り付けています、ボックスに。中は、熱々のオーブン状態。
握った受話器が、手のひらで、ジュって音が出そうなくらいの熱さ!
思わずに、戻しますね。受話器を。戸惑いと共に、戻した受話器 暫らく見詰めます。

若者、迷います。なかなか、再び受話器を取って 電話する決心が。
若者、あんがい普段から、気がね弱い。
でもね、恋心がね勇気をね。奮わせます。
その勇気が、背中を押します。だから、受話器。

最初に電話を取ったのは、男の人。
若者、彼女の名前を知りませんからね、シドロモドロでね。
受付の人をって。若い方の人をって。

これね、今じゃぁ多分。駄目でしょうね。
ストーカーか、何かと勘違いされますからね。
知らない人でも、何がしかの信頼関係がね。
起こりえる、良い時代だったんでしょうね。
それとね、多分。タブンですよ。この、電話を受けてくれた男の人。
自分にも、何がしかの想いが。
タブンですよ、自分も若いころに同じ様なと。
だからね、タブン。気を利かせてくれたのかも、タブン。

彼女が電話を代わります。モシモシって。
若者、突然。言葉が出ません。
何かを言おうとしても、詰まります。
暫らく彼女も無言のお付き合い。あれあれぇ。

「ぁのぉ、どなたぁ」っで、キッカケが。

後からね、想い出しても何を話したか。
ただね、身体がね。夏の暑さだけではない、熱がね。
イッパイ イッパイね、詰まってた様な。

何かを必死で話す唇が、受話器の話すほうに当たり続け。
握る右手から汗が肘まで伝います。
流れる汗が、眼に。無意識にキツク眼を閉じて、拭う代わりに。
左手が、コイル状のコードーを独りでに、グルグルと舞わす様に。

狭い周りの壁から、外の暑さが迫り続けます。

「はい、じゃぁいきます」
「そやからね、だから・・・ぅ!えぇっ ぁあ~・・・・・ゥソぉ」

若者。何の準備も。まさかね、まさか。受けてくれるとは。
だから再び、言葉に。絶句!

「何処にですかぁ」
「ぁ。え。ぅん。じゃぁ・・・・・」

まぁ、なんとか。

「じゃぁ 日曜にぃ それじゃぁ・・・・」

っと言って、相手が電話を切るのを待って、本当にね。
静かに、ゆっくりとぉ。受話器をフックに戻しました。
息、詰めて。

ボックス出て、自転車のサドルに跨ると。
益々流れ出る汗と共に、詰めてた大きな溜め息みたいな塊が。はぁ~!っと。

思わず、ガッツポ~ズが。自然にね。
ヤッタア~!

舗道のね、街往く人の波ね。かわしながらの自転車暴走行為。
何やらの、興奮状のね。雄叫びの様な声上げてね。

それからの、日曜までの数日間。
若者、ニヤニヤしどうし。
周りの大人は、何か良いことがあったかと。
いや何もと、ニヤついて。お返事。
まぁ、色気づいてと。言われても。ニヤニヤ。

でもね、眠れません。心配で。
本当に来てくれるかなぁ。
もしぃ、来なかったら。
来てくれても、なに話そう。
もぉ~!アレヤコレヤノね。お悩み状態。

確かめの電話をしようかなぁ。
イヤイヤ、そんなことをしたら。とか。

なんでもかんでもの。訳解からないことで。
蒸し暑い夏の夜の 布団の中でね。
悶々!寝返り寝返り。転々、転々。


だからね。
デ~トの待ち合わせの場所に、早めに行きました。

自分よりも早く、彼女が。

夏の眩しい陽射しを浴びて、静かに佇む姿を見つけた時。
若者、思わず何処かに隠れようかと。
それよりも早く、彼女がこっちを。

白い歯が、再び眩しく。



若者さん。完全試合でね、完璧に打ち負かされました。



不便な時代がね、なにやらね。
懐かしいんですよぉ。



あれあれぇ、歳がね。バレバレぇ~!