【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

【紅い髪の女】

2011年01月22日 19時16分56秒 | 店の妓 ツネ嬢
  
【紅い髪の女ツネ嬢】(12)
 
 
 
駅前で 縄澤に掴まった。
 
「縄澤ハン 戻ってきてたんですかぁ」
 
掴まれた右腕を振りほどきながらやった。
だけど、キッチリ掴まれた腕は、放してはくれなかった。
服の袖下の肉、指が喰い込んで痛さで呻いていた。
 
久しぶりに近くで視る薄黒い縄澤の顔、少し細くなっていた。
ヤツレた感じはしなかったけど、喋るときの口元に微かな小皺が窺えた。
 
「ナンや久しぶりの挨拶がそれかいなチィフ?」
「別にぃ、ナンも思わんと(言葉が)やさかいですわぁ」
 
夕方の駅前ゆぅたら、ヒトがギョウサン歩いてる。
そやけど、そのヒトさんら、上手にワイらを避けてお通りしてた。
 
キット、危なさそうなんが二人、往来の真中で突っ立ってるさかい
関わり合いになるんが厭なんやろ。
 
「何時帰ってきましたん」
「ナンでお前に言わなアカンねん?」
「言うてくれはたら、歓迎会でもしますのにぃ」
 
ボケっが腕、突き放すようにして放した。
ワイ痛みなんかマッタク感じてないふりし、脇腹にくっつけた。
 
「おまえな ぇえ加減にせんかったら承知せぇへんでッ!ボケッ!」
「ナッなんがやねんツ!」
 
「ナンがやねんぅ?」
 
っと 唇を動かさないで呟くように喋り、辺りを睥睨する様に見回した。
ワイの眼(マナコ)の底を覗くようにしながら、官支給の黒色コートの懐に手を入れる。
 
自分マサカぁ、賑やかな此処で、腹立ち紛れで遣られるんかぁ ット
 
ハイライトのパッケを取り出した。手首のヒト振りで、煙草を浮かせ前歯で銜えた。
 
「ホレ、吸えや」
 
言い方が命令口調だったので、断ったら為にならんなと感じ。
右手はサッキ掴まれていたので痺れていたから、黄色いフイルターを左指で摘まんだ。
詰めていた息が、漏れそうに為るのを堪えながらやった。
 
縄澤。箱燐寸で火を点けてくれた。
見せつけるようにしていた箱のラベル、見たくもない店のラベルやった。
 
自分 チッ!っと心で舌打ちした。
 
煙草の味ホンマニぃ不味かった。
だけど詰めた息を煙と一緒に吐き出すのには都合がよかった。
 
 
自分もハイライトは吸っていた。
煙になるんなら、銘柄はなんでもよかった。
 
 
 
「縄澤ハン、ツネさん検察送りになってるってホンマでっか?」
「それがどないしたゆぅんや?」
「都合が悪いんとチャイますの?」 
 
「コラっ! 舐めとんかワレッッ!」
「ナンも舐めてなんかぁ・・・・(クソガァ!)」
 
「前のときもアンサンぅ・・・」
自分この時、一発くらい殴られた方がえぇかな、思うてた。
 
縄澤、肩を広げるようにしながら、大きく煙草ぉ吸いこんだ。
薄く開いた唇と、鼻腔から煙を吹きながら訊いてきた。
 
「ナンが言いたいんや?」
縄澤の指に挟んだ煙草の先の燃え滓、下向きになって今にも落ちそうやった。 
 
「お前ら、ドナイしょうもない輩やな」
「真面目にいきてますがな、ワイら」
「・・・・・ソヤナ、お前らの世界やったらな」
 
「精一杯足掻くんがワイらの生き方やゆぅん、お判りでっしゃろ?」
 
縄澤、煙草のフイルターギリギリまで吸いこむと、歩道に投げ捨てよった。
 
コラコラ官がそないコトしてもな、えぇんかいッ!糞ダボがぁ!
ッテ 心でワイ、散々喚いてましたで。
 
「茶ぁシバクン、付き合えや」
「ワイらと茶ぁやってもえぇんですんか?」
「ゴチャゴチャさらすな」
 
縄澤、勝手にワイに背を向け歩きだしたので、仕方なくついていった。
縄澤が右腕をあげ、掌でナニかの合図をした。
あげた腕の方角を視ると、見覚えのある刑事が人混みの中にいた。
だけど、直ぐにその姿は消えてしまった。
 
ヤッパシなぁ、隠れ静か手配されてたんや。
 
 
実は、駅前で縄澤に偶然出来わした分けやない。
自分、檻から戻ってきても、世話になっている店(倶楽部)に行く気もしなかった。
店にぃ行けばママぁに、ナニされるかと考えるとぉ、っと心が滅入っていたから。
 
今日は朝から警察署の前で、縄澤が出てくるのを待っていた。
警察署の中に入り、受付で縄澤を尋ねようとは、マッタク想いもしなかった。
 
縄澤、署から出てくると、若い刑事が運転する覆面パトに乗りこんだ。
自分、隠れていた自動販売機の脇から姿を晒し、わざと交差点に出た。
 
横断歩道で信号待ちするワイの目の前を、パトに乗った縄澤が通り過ぎた。
 
信号が変わったので、横断歩道を歩きはじめた。
前を向いて歩きながら眼の隅で、パトのブレーキランプが点るのが視えた。
 
それから、プラプラと駅前まで何気に歩き続けた。
背中で、後ろを感じながらやった。
 
 
 
出された珈琲にふたりとも手をつけなかった。
互いにぃ、横向き合って煙をコレでもかと噴きだしあっていた。
 
「あの男な、ナンも言わんわ」
縄澤、眼を細め唇ぉ動かしもしないで喋りだした。
 
「男ぉって、何方サンやろ?」
「お前らが〆た奴やがな」
 
「ワイ、ナンもしてませんがな」
「調書上じゃぁな。お前ナンも歌ぉてないな」
 
暫くはふたりとも、キッチリ黙り込んでいました。
 
「ツネさんが独り被りしてますんか?」
「ボケッがな、被るみたいやで」
「ボン、ァッ!イヤ○○クンはどないですねん?」
 
「アレはしょうもないコト喋ってるわ」
「どないにぃ?」
「嘘丸出しもエェ加減にせんとアカンことバッカシや」
 
「ホンナラどないなりますんや?」
 
「前にお前らのお陰で、儂ぃ飛ばされたん知っとろぉもん」 
 
自分この時ぃ、ナンの返事も出来んかった。
コッチは迷惑掛けてない想うてても、ワイらのヤヤッコシイ出来事にぃやで。
仕事上で付き合わされた者だけが、立ち位置が違うだけでぇ、やろも。ッテ
自分、腹ん中で毒づいていました。
 
「未だシンジは当分帰ってこれんさかいにぃな」
「何時までやったかなぁ?」
「当分や、戻れんやろも」
 
「アイツは自分でこけて、自分で怪我したゆうてる」
「○○さんがでっか?」
「そぉやがな、糞みたいな奴やで、ホンマニぃ」
 
「ツネさんに未だ惚れてますんやろ」
「チャウがな、街に戻りたいだけやがな」
「アナイナ目ぇに遭ってもですんか?」
 
「トト町(魚町)しか生きるトコないんやろ、ダボがぁ!」
「そぉなん、戻って来んでもえぇのになぁ」
「お前らの遣ったコトがドナイナ意味かぁ、よぉやっと気づいたんやろな」
 
「ドナイって?」
「お前らみたいな輩にぃな、逆ろうてたらトト町にぃ棲めんゆぅこっちゃ」
 
「チョット聴いてほしいんやけどな」
「ナンぉですんか?」
「シンジが居ったら頼むんやけどな、居らんさかいにぃな」
 
「マネージャー戻るまで待ってたらぁ・・・」 ット言いかけたら。
テーブル、縄澤の大きな掌で音高く叩かれた。
 
茶店内のざわめき、突然静まりましたわ。
直ぐに知り合いの店の者が近寄ってきてたのを、目配せで止めさせた。
 
 
其れからの話ぃ、ワイ、死ぬまで持って逝きますんや。
縄澤。コイツぅ嫌いです。ケドな、縄澤にぃ貸しができるとか。
官の弱みぃ握れるとかの話ぃやないねんな。
 
自分ら、普通のお人サンから見たらな、いい加減な半端者かもしれんけど。
縄澤ゆぅ男が、人に頼み事なんですさかいにな。
自分、キッチリ役割ごとぉ果たすつもりですんや。
 
 
其の話の途中からぁ、ツネが羨ましぃなりましたんやで、ワイ。
 
心でなぁ、アノ盆暗ぁドナイにい、してもたろぉ想いまし。
 
 
 
紅い髪の女 (12)   


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