【紅い髪の女ツネ嬢】(14)
【○○さん】
何処かの金融屋(マチキン)の奥の院で胡坐をかき居座ってる。
デッカイ古金庫のヤツみたいな、部厚く重たい某事務所の扉。
其の扉をナンとか肩で押し閉め終わった時。
もぉぅ!ツクヅクやった。
此処には今回みたいな用件では、絶対二度と着たくないなぁ。
っと心底やった。
二階事務所から下まで降りる急傾斜な階段。
ひとサンが、ヤット通れるか如何かの狭い造りで、二階の狭い踊り場には
クソ重たい扉の上に黒色の傘を被った、薄暗い裸電球が吊るされているだけ。
他には明りとりの小窓もないから、暗い電燈を背に階段を下りる時。
背中で灯りを遮るので、ホンマニぃ足元が覗き難い暗さやった。
一階の道路に面したビル出入り口扉は、コノゴロ流行りのマンション風な白塗りの鉄扉。
扉の表と裏側の壁上には、今じゃぁ考えられない様なデッカイ監視カメラ。
何処かの団体と厄介な揉め事ナンカの時。
相手からカチコミ掛けられたトキ、簡単には登り難いよぉな急な造りの階段。
ナニかと騒動の絶えない、此処の事情がそないな造りをさせたんやろなぁ。
「ナン杯や?」
○○さん。注文してた珈琲をウエイトレスのネエチャンが
お淑やかな仕草でテーブルに置く前から、砂糖ポットの蓋ぁ開けていた。
「ぁ、イヤ、自分で容れますよってぇ」
「ぇえがな。ナン杯や」
「ホナ、二杯ですわぁ」
ホンマは自分。無糖派やったけど断れなかった。
「ワイ武闘派やさかいな、エネルギーを充填せなアカンさかいギョウサンや」
○○さん自分のカップにはナン杯も小匙、傾けていた。
嬉しそぉな面(ツラ)ぁしながら、茶色の珈琲専用砂糖。
此処の喫茶店に預けてる自分専用の、チョット大きめの珈琲カップに容れていた。
肉の厚い指先で摘まんだ小さな小匙、玩具みたいやった。
以前。他所で聴いた話では、若いコロの○○さん。今とは別な団体に所属してました。
其の当時。○○さん。ナニか不始末を遣らかし、団体事務所の方々に迫られたそぉです。
指ぃ詰めるんか、墨ぃ入れるかドッチやねん!
ット。迫られたんやそぉです。
ッデ○○さんが選んだのは、刺青ぉ掘る方。
左人差し指の爪元から肘までの刺青。
小さな梵字の崩し文字で、ワイにはマッタク意味の判らないコトが
青黒い紺色に近い墨で指先から手首までは一行で掘られ、文字は手首を一周してた。
其処から肘までは服の袖に隠れていたので、観れなかった。
「ドナイしたんや、冷めるで。飲まんかいな」
「サッキはスンマヘン。おぉきにですわぁ」
「ナンや。もぉぅえぇがな。サッサト飲まんか」
○○さん。某団体系に所属してるけども、面構えはケッコウ穏やかでした。
背丈は普通だけど躯全体を、強い筋肉がコレでもか!っと包んでいた。
チョット観ぃは、普通の勤め人さんらと同じ雰囲気。
話し方、他の某団体系のような強面な悪ぶるコトもなかった。
普段から、ケッシテ偉そうにはしなかった。
「シンジ務所でお勤めして居らんさかい、お前に頼むしかないんや」
っと、この前、縄澤に頼み事言われた。先ず頭に浮かんだのが○○さんやった。
○○さんやったら、腹割って話したら判ってもらえる。想ぉた。
自分。夜の世界で長いコト生きてきたけど、極道だけは好かんかった。
大っ嫌い!っで、嫌いでキライデ仕方がなかった。
だけども、コノ○○さんは違いました。理由(ワケ)はイロイロありますんやけど。
話せば、自分が夜勤めの駆け出しの頃まで遡りますさかいな。
止めときます。
自分、あの当時の此の時。
今ぁ白状しますんやけどホンマは最初から、○○さんと話がしたかった。
だけど一応。先に社長に話を通しとかんと、後で○○さんの顔が立たないだろうと。
若しかして勝手に巧くいくと想い描いてる心算の、コレから先の計画。
其れがヤヤッコシぃなったり、イラン方向に進んだ時ぃの布石です。
まぁ、タブンどころか結局は、極めつけのドツボに陥ったり、嵌ったりするんやろぉけどなぁ。
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