【赤い髪の女ツネ嬢】(16)
【突き詰める】
真冬の沈みかける太陽。寒さがで暗い赤色(セキショク)輝きしてた。
繁華な町中を東西に走る魚町(トトマチ)通り。
道の両脇には狭い石畳の舗道。
通りを挟んで沿い並んだ、古い建築の貸店舗ビル群。
沈みかける暗い夕陽、真横から影で建物を照らしてた。
大型アメ車の左タイヤ、舗道の縁石に乗り上げていた。
デッカイ排気量の米国車特有の野太いエンジン音。
後部座席両窓と後ろ窓には、黒色フレアー無しカーテン。
今みたいに窓に貼る、着色フイルムなんか無かった時代。
黄昏時の夕陽を後ろから浴び、薄暗い車内には紫煙が充満してた。
自分。傾いた助手席に坐り、前屈みでドアに凭れないようにし
ズボンのポケットの中で、右拳を握りしめ、フロント硝子視詰めていた。
躯を前屈みにし、ダッシュボードに左手添えたままだったので
其の無理な態勢で左肩と腰、重い鈍さな痛みが。
握り締めた右拳緩め、懐を弄っていたら後ろから肩を叩かれた。
洋モク煙草のパッケ掴んだ、○○さんの手が伸びてきた。
「ぁ!ぉおきにですわぁ」
礼を小声で呟き、パッケから浮いてる茶色のフイルター摘まんだ。
ダッシュボォドのライター押し込み、暫く待って小さな赤い渦巻でモクに火を点けた。
根元まで、幾本と連続するモクの吸い過ぎは、舌の先痺れさせ喉元辺りを苦く焼く。
吐く紫煙は車内を満たし、煙たさがで眼が渋くなる。
アイドリングの微振動、小刻みな震えが尚更と腰に堪える。
坐り屈みが辛くなりかけていた。
○○さんと三時頃に喫茶店で落ち合い、遅い昼飯喰いながら打ち合わせをした。
茶店出て、○○さん所属団体の車で、街中ユルユル流しながら捜し者していた。
「ニイさん、ウロウロしたかて、しょぉうもないんとちがいますんか?」
事務所でワイの髪を鷲掴みにした若い衆、ハンドル回しながら訊いてきた。
ワイが応える前に後部座席の○○さんが喋った。
「ゴチャゴチャぬかさんと回さんかいっ(ハンドル)」
「スンマセン」
其れから暫くして○○さんの 「舗道に乗り上げろ」 との指示まで
低く唸るエンジンの音しか聴こえなかった。
○○さん。物言いは荒っぽいけど、ケッシデな物言いには聴こえなかった。
素人さんや、自分みたいな夜働きの者にも、偉そうな口ぃ利かんかった。
「視て来いや」
「ハイ」
若い衆、ドア開けかけたら○○さんに止められた。
「チィフ、ナンぞ飲むかぁ?」
「サッキ喰ったさかい、もぉぅえぇですわぁ」
若い衆、車から降りると駆け足だった。
「チィフ。アイツ、アンタのコト訊いてきたで」
「ナニぉです?」
「玄人ちゃうんかぁ、やて」
「ワイ、夜働きやけど、自分はクロやない思いますねん」
「極道キライやもんなぁアンタ」
自分。応えようがなかった。
「なったらアカンで」
「なりまへんがな。昔ぃ○○さんと約束しましたやんか」
「そぉかぁ、そんなんしたんかぁ?」
「しましたがな。なったらワイが〆たる。言われましたがな」
○○さん。後部座席の背もたれに頭を預け、腕組んでました。
「アイツな、チィフがクロやんならな、お付き合いしたいらしいで」
「オッおつきあいッテ!ワッ、ワイそないな趣味ぃないですわ!カンニンしてくださいなぁ!」
「ナニ虚(ウロ)てるんや。抱けぇゆぅとるんやないで」
「ホナなんですねん?」
「まぁえぇがな。ナンかあったらアイツにゆうたらえぇで」
「ナンかぁって?」
「ナンかや。イロイロな」
後ろ向きに伸ばしてた首ぃ、フロント硝子に向けた。
魚町通りに並ぶ電飾看板に灯が点りはじめる中。
若い衆が戻って来るのが視えた。
後ろに夜会服(ドレス)姿の女が着いてきてた。
「ヤット見つけたなぁ」
「スンマセン」
「アンタがナンで謝らなアカンねん」
「そやけどぉ・・・」
ホンマは違います。唯ぁワイ嘘ぉ ット心で想っていたら。
「縄澤やろ。チャウんか?」
自分。ツクヅクやった。
ケド。嘘がバレタと想った瞬間。
心から安堵したんを今でも覚えています。
【赤い髪の女ツネ嬢】(16)