前回からちょっと間があいてしまいましたが、時代閉塞の現状
の3回目です。
今回は、地球規模での時代閉塞の話です。
1970年代の初め、世界中が注目した報告書が出ました。
ローマクラブの
「燃え尽きる地球」と
「爆発する地球」です。
「燃え尽きる地球」は、石油資源をこのまま使っていると、や
がては使い尽し、枯渇してしまうという警告です。まさに、地球は
燃え尽きるというわけです。
「爆発する地球」は、世界の人口がこのまま増え続けると、地
球は「人口爆発」の状態になり、食糧をはじめ、あらゆる資源が足
りなくなって、人類の生存に影響するという警告でした。
この「爆発する地球」が出たころ、1970年代初め、地球の
人口は、36億人ぐらいでした。
2011年のいま、それがまもなく70億人に達しようとして
います。
だいたい40年で、2倍近くに増えたことになります。
驚異的な増え方です。
第二次大戦が終わり、日常の生活が戻ってきた1950年代、
60年代から、果たして地球は何人の人口を養えるのか?という疑
問が出されていました。30億人とか、50億人とかいろいろな数
字が挙げらてきましたが、1970年代の初めごろは、
「地球が養える人口は50億人が限界」
という言い方が多かったように思います。
当時いわれた上限を、いまや、とっくに過ぎています。
さあ、70億人の人間が、地球に住めるのでしょうか。
いま、私たちが直面する問題は、それです。
しかも、今後、人口はさらに増えていくと予想されるのです。
私たちは、人類として、この星で、生存し続けていけるのでし
ょうか。ただ生存するだけでは意味がありません。一定水準の文明
を維持し、健康で豊かに暮らせなければ、意味はありません。
人口の増加は、いろんな場面で大きな影響を与えます。
日本は、1975年にG7サミット(主要国首脳会議)の開催
された第一回から、そのメンバーとして参加し、先進国として行動
しています。
しかし、日本は戦後も長い間、ハワイやブラジルに移民を出し
ていました。最後の移民が出たのは、1971年に「ぶらじる丸」
です。ぶらじる丸は神戸港から出ており、この最後の出港をもって、
神戸移民センターは閉鎖され、日本からの公式な移民は終わりまし
た。
1975年の第一回サミットの、つい4年まえです。
移民を出すというのは、日本として、申し訳ないけれど日本は
これ以上、日本人が住める余裕がありません。本当に申し訳ないけ
れど、移民として、外国に出ていっていただけませんかーーという
意味です。
そういう国を「先進国」とは呼びにくいでしょう。
もし、一回目のランブイエ・サミットが開かれたとき、日本がま
だ移民を出すような国であれば、変な具合だったかもしれません。
日本は豊かな先進国ではありますが、しかし、日本は、1971
年つまりたかだか40年前までは、まだ移民を出す国だったのです。
日本が豊かな先進国だと世界から見られるようになって、まだ4
0年しかたっていないということです。
言い換えると、日本という国が、移民を出さずに、国内で1億
2000万人の国民を養えるようになったのは、たかだか40年前
からなのです。
1億を超す国民を養うのは大変な努力が必要です。
私たち日本人は、戦後、苦労に苦労を重ねて、ようやく、1億
2000万人の自国民を養えるようになったのです。
そして、その過程で、石油をはじめとする地球上の資源を非常
に多く使っています。
いま、日本と同じことを、中国とインドがやろうとしています。
中国の人口は13億5000万人、インドは11億人です。
いずれも、日本の人口の10倍です。
この国が、10億人を超す自国民を、養おうというのです。
資源の消費は、半端なものではありません。
中国は、1980年代までは、石油の輸出国でした。日本も中
国から石油を買っていました。
ところが、いまや、中国は、石油の大輸入国です。
経済成長に伴い、石油が必要になってきたのです。
13億人の人たちが、生活水準を上げてきたのですから、石油
はいくらあっても足りなくなります。
尖閣列島を中国の領土だと主張し始めたのも、それが関係しま
す。あの近辺の天然ガス資源がひとつの狙いです。1980年代、
石油を輸出していたころの中国は、尖閣が中国の領土だなどと主張
していませんでした。
中国は、13億人分の食料や住宅も確保しなければなりません。
そのためにどうしているかというと、アフリカに出て行って、ア
フリカのジャングルを開発し、木材を持ち帰っています。このまま
では、アフリカの荒廃が心配されます。
インドも同じです。
地球上の人口が急増しているのに、地球上で未開の地はもうあり
ません。
1620年、イギリスからの移民がメイフラワー号に乗って新大
陸・アメリカの地に着きました。
彼らは、開拓民として、幌馬車隊を作り、西へ西へと、進んで行
きました。
それが、「西部劇」となります。
もちろん、先住民としてインディアンが住んでいたのですが、人
口に大きな差があり、イギリスから移民してきた人間にとっては、
西部は「未開の地」だったわけです。
この未開の西部が、「フロンティア」です。
未開の西部、未開の地を目指す精神が「フロンティア・スピリッ
ト」です。
そして、未開の西部、未開の地を目指す人々を、「パイオニア」と
呼びました。
このフロンティア・スピリットと、パイオニアという言葉は、ア
メリカ人の好きな言葉です。ケネディ大統領は、就任演説で「ニュ
ー・フロンティア・スピリット」を訴えました。
空に目を転じましょう。
シャーロック・ホームズの生みの親であるコナン・ドイルは、ホ
ームズ以外にもたくさん小説を書き、その中に、科学ミステリーと
いうような小説があります。その中に、空の怪物という小説があり
ます。
この小説は、大空のはるか高いところには、人類が見たことのな
い怪物が住んでいる。これから空の高みを目指すには、この怪物に
どう対処するかが大問題になるーーという内容です。
この小説は、1900年前後に書かれています。
たかだか、100年前です。
100年前には、空を飛ぶことがまだふつうではなく、空の高い
ところには、怪物がいると思われていたんですね。ちょうと、深海
には、不気味な海洋生物がいるように。
そのぐらい、大空も、未開拓だったということなのです。
南極や北極も、アムンゼンやスコットの活躍によって、極点に達
することができました。
そして、いま、私たちの住むこの地球上には、だれも行ったこと
のない未開の地というものが、もう存在しないのです。
この200年ほどの間、とくに、この100年ほどの間に、私た
ちは、地球上の未開の地に、行きつくしたのです。
「フロンティア」(未開の地)は、消えてなくなりました。
その一方で、地球上の人口は、爆発的に増えてきました。
広大な未開の地が残されていれば、私たち人類は、その未開の地
に勇気をもって分け入り、石油や、食料や、家を作る木材を手にい
れることができます。しかし、もう、未開の地はないのです。
そうなってしまえば、残された土地や資源の奪い合いになります。
まだ開発の余地のあるアフリカに出ていくというのが、ひとつでし
ょう。海で、海底資源を開発するというのも、有力でしょう。
実は、それは、いま中国がやろうとしていることです。
そう考えれば、領土や資源に対する中国の動きは、これから、ど
んどん強くなっていくとわかります。
未開の地がなくなった。
しかし、人口は急増する。
未開の地があれば、資源の総合計が増えて、「プラス・サム」にな
って、解決は簡単です。増えたものを、みんなで分け合えばいいの
です。仲良く分け合うことが出来ます。
未開の地がなくなったいま、資源の総合計は増えませんから「ゼ
ロ・サム」です。合計が増えませんから、いまある分量を、だれか
が多く取れば、だれかの取り分が少なくなってしまいます。奪い合
いです。ほうっておくと、力の論理が支配する状況になります。
いまの中国は、この状態にあります。だから、世界の国と衝突す
るのです。
さて、そうやって、私たち人類は、
未開地がなくなった地球上で、人口が急増する
という状況に置かれています。
燃え尽きる地球
爆発する地球
――ということになります。
これが、人類が直面する「時代閉塞の現状」です。
人類がこんな状態に置かれたのは、実は、人類が地球上に登場し
て以来、初めてのことです。
未開の地があった時代は、「探検と冒険」の時代でした。
チョモランマが初登頂されるまでは、登山者は、チョモランマが
憧れの山だったのです。しかし、いまやもう、だれもが憧れる未踏
の山というものはなくなってしまいました。
この地球上には、もう、「探検と冒険」の舞台がありません。
探検も冒険もなくなって、つまらないでしょう?
どこに行っても携帯が通じますしね。
そこへ、人口が爆発的に増えてきている。
ひとことでいうと、地球が息苦しくなってきたのです。
それが人類と地球にとっての「時代閉塞の現状」です。
このでかい「時代閉塞の現状」への回答があるわけではないので
すが、しかし、私なりの考えはあります。
今回は、長くなりましたので、それは、別の機会に書こうと思い
ます。今月中に書きますので、またお読みいただければと思います。
今回は、長い文章を読んでいただき、ありがとうございました。