【写真:新名神高速道の通行量の増加でテナントの売り上げが好調な土山サービスエリア=甲賀市土山町で】
甲賀市の新名神高速道土山サービスエリア(SA)を運営する第三セクター会社「土山ハイウェイサービス(HS)」の取締役人事で、株主の近江鉄道(彦根市)と甲賀市など地元出資者の対立が深まっている。近江鉄道内部の不祥事の責任をめぐり、双方が人事方針で衝突。筆頭株主の議決権を行使した近江鉄道が5人の取締役のうち3人を占め、残りの2人が空席となる異常な状態に。「公共性を重んじる三セクの意義を無視した」と近江鉄道の姿勢を問う声が、市側だけでなく鉄道元役員からも上がっている。
■強 気
「地元と共存共栄の考えは変わらない。だが、なんぼ三セクと言われても会社法の中の一部。適法通りでいく」。6月28日、甲賀市内であったHSの株主総会で新取締役3人が決まった後、近江鉄道の中村隆司社長は取材にそう語った。
SAを誘致した合併前の旧土山町が2002年に三セクのHSを設立。それ以来、公共的な経営を担保するため地元出資者の代表が取締役に入ってきた。今回初めて近江鉄道が役員を「独占」する形となった。
近江鉄道は「私たちは市から取締役を(5人のうち)2人出すように取締役会で提案していたはず」と市側の役員を認める姿勢があったと正当性を強調。市側は「提案は一切聞いてない」とし、かみ合わない。中嶋武嗣市長は「地域を無視した議決権の行使だ」と憤る。
■不祥事
混乱の発端は3月22日にあった取締役会で発覚した近江鉄道からの出向社員による不祥事。この社員は2009年5月~昨年1月に、売上金300万円を着服。近江鉄道は、男性が全額を弁済して昨春に依願退職をした後も公表せず、市など共同出資者にも事実を伝えていなかった。
当時、HS社長も兼務していた中村氏の不用意な発言から、初めて不祥事が明るみになった。
これらの管理責任を認めようとしない中村氏に、中嶋市長ら市側の当時の取締役が反発。近江鉄道の役員から取締役に就いていた高屋寿明氏が、反旗を翻して中村氏のHSの社長解任を提案し、取締役会で可決させた。
この社長解任が、77%株主の近江鉄道による今回の役員刷新につながった。近江鉄道は「会社機能の正常化のため」と説明する。
■体 質
「近江鉄道の親会社西武ホールディングス(埼玉県所沢市)の姿勢が背景にある」
近江鉄道の意に反する行動を起こし、同社の役員を解任された高屋氏はそう指摘する。「三セクでも傘下の会社ならば統治下に置くことにこだわる。社長解任でメンツをつぶされ、対決姿勢になったのでは」とみる。
高屋氏は「近江鉄道は行政から補助金を受けてバスや鉄道を運行し、経営を成り立たせてきた。地域と共に歩むことが会社の利益にもつながるのに」と現状を嘆く。
■奥の手
筆頭株主に対し、市の出資は10%。立場は弱そうだが、そうでもない。HSは現在、SAの土地を中日本高速道路から借りており、契約対象は三セクに限られる。市がHSの出資を引き上げて三セクを解消すれば、近江鉄道は事業から撤退せざるを得なくなる。
新名神の通行量は開通前の予測を大幅に上回り、HSの業績は好調。2010年度の経常利益3億3000万円、純利益は2億円にも上る。関係者は言う。「中日本は本当は直営でやりたいはずだ。役員の混乱が長引けば、経営権を取ろうと動くかもしれない」
(林勝)
【土山ハイウェイサービス】 近江鉄道と地元の甲賀市や甲賀森林組合などが出資し、新名神高速道で唯一のSAを管理運営する第三セクター会社。資本金1億円。中日本高速道路から4630平方メートルの土地を借り、飲食店や売店、給油所を営業する8事業者をテナントとして受け入れている。
(7月18日付け中日新聞・電子版)
http://www.chunichi.co.jp/article/shiga/20110718/CK2011071802000131.html
甲賀市の新名神高速道土山サービスエリア(SA)を運営する第三セクター会社「土山ハイウェイサービス(HS)」の取締役人事で、株主の近江鉄道(彦根市)と甲賀市など地元出資者の対立が深まっている。近江鉄道内部の不祥事の責任をめぐり、双方が人事方針で衝突。筆頭株主の議決権を行使した近江鉄道が5人の取締役のうち3人を占め、残りの2人が空席となる異常な状態に。「公共性を重んじる三セクの意義を無視した」と近江鉄道の姿勢を問う声が、市側だけでなく鉄道元役員からも上がっている。
■強 気
「地元と共存共栄の考えは変わらない。だが、なんぼ三セクと言われても会社法の中の一部。適法通りでいく」。6月28日、甲賀市内であったHSの株主総会で新取締役3人が決まった後、近江鉄道の中村隆司社長は取材にそう語った。
SAを誘致した合併前の旧土山町が2002年に三セクのHSを設立。それ以来、公共的な経営を担保するため地元出資者の代表が取締役に入ってきた。今回初めて近江鉄道が役員を「独占」する形となった。
近江鉄道は「私たちは市から取締役を(5人のうち)2人出すように取締役会で提案していたはず」と市側の役員を認める姿勢があったと正当性を強調。市側は「提案は一切聞いてない」とし、かみ合わない。中嶋武嗣市長は「地域を無視した議決権の行使だ」と憤る。
■不祥事
混乱の発端は3月22日にあった取締役会で発覚した近江鉄道からの出向社員による不祥事。この社員は2009年5月~昨年1月に、売上金300万円を着服。近江鉄道は、男性が全額を弁済して昨春に依願退職をした後も公表せず、市など共同出資者にも事実を伝えていなかった。
当時、HS社長も兼務していた中村氏の不用意な発言から、初めて不祥事が明るみになった。
これらの管理責任を認めようとしない中村氏に、中嶋市長ら市側の当時の取締役が反発。近江鉄道の役員から取締役に就いていた高屋寿明氏が、反旗を翻して中村氏のHSの社長解任を提案し、取締役会で可決させた。
この社長解任が、77%株主の近江鉄道による今回の役員刷新につながった。近江鉄道は「会社機能の正常化のため」と説明する。
■体 質
「近江鉄道の親会社西武ホールディングス(埼玉県所沢市)の姿勢が背景にある」
近江鉄道の意に反する行動を起こし、同社の役員を解任された高屋氏はそう指摘する。「三セクでも傘下の会社ならば統治下に置くことにこだわる。社長解任でメンツをつぶされ、対決姿勢になったのでは」とみる。
高屋氏は「近江鉄道は行政から補助金を受けてバスや鉄道を運行し、経営を成り立たせてきた。地域と共に歩むことが会社の利益にもつながるのに」と現状を嘆く。
■奥の手
筆頭株主に対し、市の出資は10%。立場は弱そうだが、そうでもない。HSは現在、SAの土地を中日本高速道路から借りており、契約対象は三セクに限られる。市がHSの出資を引き上げて三セクを解消すれば、近江鉄道は事業から撤退せざるを得なくなる。
新名神の通行量は開通前の予測を大幅に上回り、HSの業績は好調。2010年度の経常利益3億3000万円、純利益は2億円にも上る。関係者は言う。「中日本は本当は直営でやりたいはずだ。役員の混乱が長引けば、経営権を取ろうと動くかもしれない」
(林勝)
【土山ハイウェイサービス】 近江鉄道と地元の甲賀市や甲賀森林組合などが出資し、新名神高速道で唯一のSAを管理運営する第三セクター会社。資本金1億円。中日本高速道路から4630平方メートルの土地を借り、飲食店や売店、給油所を営業する8事業者をテナントとして受け入れている。
(7月18日付け中日新聞・電子版)
http://www.chunichi.co.jp/article/shiga/20110718/CK2011071802000131.html