【毎日新聞特集:現場から記者リポート】JA草津市 再発防止や健全化急げ
◇元職員の横領など不祥事、組合員一丸となって
◇責任追及も大事だが…
元職員の横領事件などの不祥事が続き、法令の順守態勢や内部管理態勢に問題があるとして、06年9月に県から業務改善命令を受けたJA草津市。同12月に第三者委員会に当たる特別調査委が改善報告書を提出して以降、「日々組織の改革を進めている」(同JA)とするが、不祥事の責任を巡り、同JAと元役員が裁判で争うなど、組合員が一丸となって取り組んでいるとは言い難いようだ。同JAの現状をまとめた。【南文枝】
◆業務改善命令◆
県は、業務改善命令で、04年当時、野菜センターで勤務していた職員が端末機に虚偽情報を入力するなどして約1億900万円を着服したとされる詐欺事件▽国の補助事業だった農畜産物交流センター「草津あおばな館」建設の05年の入札で、県や市の指導に反し、(最も安い価格で入札した業者が一定価格を下回った場合、落札できない)「最低制限価格制」を採用--などの事例を指摘。▽組織の在り方や法令順守、内部管理態勢の見直し▽役員の責任の明確化▽第三者委員会の設置--などを求めた。
同JAは、命令を受け、すぐに弁護士や農協関係者らでつくる特別調査委を設置。同12月には改善報告書をまとめ、関係役員は辞任すべきとし、不祥事で発生した賠償責任は免れない、と指摘して県に提出した。その同時期に当時の役員3人が役職を辞任した。
◆改善への対策◆
同JAは、その後も3カ月ごとに、業務改善への取り組みの進ちょく状況を県に報告。今年6月の7回目の報告では、コンプライアンス(法令順守)担当理事を置く▽役員や職員を対象にした研修の実施--などの対策を説明した。
業務態勢も改善。詐欺事件当時、野菜センターでは、約17年にわたり、1人の職員が品物の受け取り、代金の清算もしていたが、その後は受け取りのみに変更し、清算は別の支店で行うよう改革。あおばな館以降は行政の補助事業はないが、同JAの発注工事では、原則として最低制限価格制を採用しないこととした。県農政課は「役員の責任も一部明確となり、内部管理態勢は徐々に改善している」と評価する。
◆損害を巡る裁判◆
しかし、不祥事で発生したとされる損害を巡る責任問題は紛糾している。同JAは、詐欺事件で元職員が横領した金額のうち、本人や家族の不動産売却などで約3000万円をねん出したが、残る約8000万円は回収できないままだ。このため昨年12月、組合員がこれらや98年の貸付で不良債権となった損害の一部を、それぞれ当時の理事3人と2人に支払うよう求めて大津地裁に提訴した。
また、改善命令を受けて辞任した元役員が昨年5月、「特別調査委に辞任を強要された」として、同JAを訴えた。今年3月に同地裁で棄却され、現在は大阪高裁で係争中だ。元役員は「何も分からないまま、辞任や損害賠償を求められた」と主張するが、同JAは「経緯に問題があったなら、役員会に諮るなどの対策を取るべきだった」と反論する。
◆今後の展望◆
農協法では、農協の目的を「組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図る」ことと規定。勝部増夫理事長は「前向きな農協をアピールしていきたい」と話すが、内部での意思疎通が図れなければ、改善したとは言えないのではないか。また、一部の理事に損失処理の責任の多くを負わせる手法も議論があるだろう。
農林水産省が5年ごとにまとめる「農林業センサス」によると、経営農地面積が10アール以上など条件を満たす農家数と農地面積は、95年は2177戸、1432ヘクタールだったが、05年は1826戸、1241ヘクタールに徐々に減少。人口増加に伴う開発で、農地に次々とマンションが建つ同市ならではの事情もある。
変化する時代にどう対応するのか。再発防止や経営の健全化に向けた取り組みが一層求められている。
(8月30日付け毎日新聞・電子版)
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20080830ddlk25040614000c.html