【写真】信楽高原鉄道の列車が通り過ぎる前で法要を行う遺族ら=14日午前10時27分、滋賀県甲賀市信楽町黄瀬、諫山卓弥撮影
あの日を忘れない――。42人が死亡し、600人以上が負傷した信楽高原鉄道(SKR)事故から17年がたった。事故現場近くの慰霊碑の前で5月14日営まれた法要には、遺族や鉄道関係者に交じって、JR宝塚線(福知山線)の脱線事故や中華航空機事故で家族を失った人たちの姿もあった。「月日は流れても風化させず、教訓に」。参列者たちは事故当時から変わることのない安全への誓いを新たにした。一方で、遺族への補償金分担や事故の責任を巡る対立は今もくすぶり続けている。
午前10時20分に始まった法要には、遺族や鉄道会社の関係者ら約100人が参列し、JR西日本の山崎正夫社長やSKRの今井恵之助社長らが慰霊碑に献花した。その追悼の列に、SKR事故の遺族が中心となってつくる「鉄道安全推進会議」(TASK)に加わるJR宝塚線脱線事故や中華航空機墜落事故の遺族の姿があった。
兵庫県宝塚市在住の浅野奈穂さん(35)は脱線事故で母と伯母を亡くした。自身もクラッシュ症候群になり、一時は命を危ぶまれた。「悲惨な事故の再発を防ぐ」とのTASKの理念に共感し、活動をともにする。
JR西に対する不信感は今もぬぐいきれない。この日も最愛の肉親を失ったつらさ、同社の対応に対するやり場のない怒りから、山崎社長や幹部と目を合わせなかった。浅野さんは「遺族が声を上げ続けなければ、責任をごまかそうとするJR西の体質は変わらない。膿(うみ)を出し切り、安全を重視する企業に変わってほしい。そのとき初めて私たち遺族は癒やされると思う」と話した。
中華航空機墜落事故で両親と夫を失った永井祥子さん(45)=長野県飯田市=は、SKR事故の法要に出席するのは3回目だ。「事故を風化させてはだめ。教訓から私たちに何が出来るのかを考えていきたい」と語った。
【展示巡り明言避ける/JR西】
「鉄道安全考動館について要望があるんですが」
法要後、TASKの吉崎俊三会長(74)がJR西の山崎社長に詰め寄った。JR西が自社の社員研修施設「鉄道安全考動館」(大阪府吹田市)の展示内容を見直す方針を表明したことについて、確かめたいことがあった。
見直しとは、研修施設の信楽高原鉄道事故に関するパネル展示についてだ。JR西は、事故の過失について「信号トラブルで手続きが不十分なことを知っていたにもかかわらず、上司に報告しなかったことが問題と指摘された」と記述した。しかし事故の引き金とされる、JR西が自社の乗り入れ列車を優先的に進めるためSKRに無断で設置した「方向優先てこ」の存在は明記しなかった。
その後、遺族やSKRが「JR西の責任の記述が不十分」と抗議したのを受け、JR西は今年4月、見直しの方針を打ち出した。
吉崎会長が「いつごろ記述を変えるのか、前もって遺族に教えていただきたい」と求めたのに対し、山崎社長は「少しでも遺族の意向に沿う方向で(記述を)直したい。ただ、もう少し時間がほしい」と見直しの内容と時期について明言を避けた。
また、JR西が支払った遺族への補償金など計約30億8900万円のうち、約25億円分をSKRと出資者である県、甲賀市で連帯して負担するよう求めたことに3者が反発している問題について、山崎社長は「話し合いでの解決が基本スタンス。今は裁判は考えていない」とした。
【「お父さん、長生きさせて下さい」】
京都市伏見区の伊原いとさん(80)はつえを手に、慰霊碑へと続く階段を一歩一歩ゆっくりと上り、用意されたパイプいすに腰を下ろした。読経が始まると、目を閉じて手を合わせ、最愛の人を失った91年5月14日を思い返した。つらい記憶と向き合うのは「この日、この場所だけ」と決めている。
伊原さんは、夫の一男さん(当時65)と一緒に世界陶芸祭に出かけるため、JR京都駅からSKR信楽駅へ向かうJR臨時快速列車の先頭車両に乗った。入場券は娘が「母の日」のプレゼントに贈ってくれたものだった。
衝突前後の記憶はない。気が付くとうつぶせの状態で、何かが上にのしかかって身動きが取れなかった。あばら骨2本が折れ、両足打撲の重傷を負った。隣にいるはずの夫の姿は見当たらなかった。翌朝、入院先の病院で夫の死を息子から知らされた。
「なぜ夫が。なんで」。悲嘆にくれた。人に会うのが嫌になった。自殺しようかと何度も悩んだ。事故から3年たったある日、息子に「うつ病になっても知らんぞ」と怒鳴られた。その後、徐々に普段の生活を取り戻していった。今は「夫が私を守ってくれた」と思っている。
事故から17年。年を重ね、つえなしで出歩くことが難しくなったが、法要の参列は欠かさない。この日も夫の名前が刻まれた慰霊碑に水をかけ、そっと話しかけた。「お父さん、もうしばらく元気で長生きさせて下さい。来年もお参りに来ますから」
【関連ニュース番号:0804/133、4月26日 など】
(5月15日付け朝日新聞:同日付け毎日、読売、京都なども報道)
http://mytown.asahi.com/shiga/news.php?k_id=26000000805150002
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20080515ddlk25040458000c.html
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2008051400109&genre=C1&area=S00
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shiga/news/20080514-OYT8T00684.htm